第25話 2人だけの内緒話その3

「終章が始まって直ぐにアイリス様が学院から姿を消すのだけど、それとほぼ同時にシスターミリアが訪ねて来てクロード神父と一切連絡が取れないと言う事を知らされるの。そして、ユリアーナ達は行方が分からなくなった2人を探すために動き始めるのだけど、程なくして騎士団がユリアーナとジルを国家反逆罪の罪で捕えるために学院にやって来るのよ」


「国家反逆罪って……まあ、騎士団のトップが魔獣で国内でも高い発言力を持つ教皇様がラスボス、それに次期国王のオルランド様が教皇様の味方って時点で国中敵だらけの状態だから仕方ないのかなぁ」


 もういっその事国の重鎮じゃなくて王族と入れ替わった方が早いのではないかと思わなくも無いが、どうせそうすることが出来ない何らかのご都合主義でもあるのだろうと余計なツッコミは入れずにユリアーナ様の言葉の続きを待つことにする。


「でも、そんな敵だらけの状態でも学院の生徒はユリアーナ達を庇い、学院から逃げ出すのを手伝ってくれるの。そして、ライアーとドロシーの2人も合流して無事学院から逃げ出した4人はシスターミリアと合流し、この騒動に荷担しているであろう教会上層部を調べることにするの。そして、そんな一行が最初に向かうのが怪しい動きを見せる枢機卿の1人が管理を行っている王都近辺の古城なの。そこで管理を任されている枢機卿もヴァンパイアと入れ替わっていること、そしてクロード神父がオーラント自然公園に監禁されているという事が判明するって流れね」


「オーラント自然公園って私達が行こうとしている所だったよね? もしかして、ゲームでもそこで騎士団長と?」


 思い付いた考えを口にすると、その予想はどうやら正解だったようでユリアーナ様は首を縦に振った後に言葉を続ける。


「オーラント自然公園には天使…アイリス様の遺伝子を基に様々な実力者の遺伝子を掛け合わせて作られたクローンを素に調整された複数属性への適性を持った生体兵器なんだけど、それの研究施設があるのよ」


「えっ!? 勝手に私のクローンが作られてるの!!?」


「まあ、いろいろと条件が変わってしまっている現在の研究所で研究されてる天使の素材があなたのクローンであるかは不明だけど、間違い無く天使製造のための人体実験場があるのは確かよ。その証拠に、今までに何度か私とジルは襲われているしね。ただ、どれもが不完全で大した強さでは無かったのだけど。……あっ、一応言っておくけど、流石に8歳の時ティターン大森林奥地で戦った天使らしき人物があなただって事はもう気付いてるわよ。どうせ、私達と出会さないようにあそこに隠れていて、闇夜に紛れるために『幻影魔法イリュージョン』で髪色を迷彩柄にしてたんでしょ?」


 本当はただの事故だったのだが、そんな事を言っても仕方ないので「ま、まあね」とボロを出さないように短く返事を返しておく。


「……あなた、何かを誤魔化したい時は必ず視線を逸らすから分かりやすいわね。まあ良いわ、話を続けるわよ」


 そのユリアーナ様の言葉に私はコクコクと無言で肯きを返す。


「それで、一行はオーラント自然公園に向かうのだけど、当然ながら警備が厳重で中には入れず行き詰まるのだけど、周辺を探索する中でクロード神父の協力者、守護者第2位階でありクロード神父の師匠でもあるダニアン神父の協力を得て秘密の通路を通ってオーラント自然公園への侵入に成功するの」


「あっ、もしかしてオーラント自然公園への侵入方法に心当たりがありそうだったのってこれのこと?」


「そう言う事ね。そして、そこでクロード神父の監視を行っていた騎士団長、と言うかヴァンパイアロードと戦い、これをクロード神父の協力を得ながらもなんとか倒して教皇が黒幕である可能性に気付いた一行は王都に戻る事になるの。幸いにもトップである騎士団長が行方不明となり、同時にダニアン神父達の協力で騎士団長がヴァンパイアロードであったと言う噂を聞いた騎士団の統率が崩れ、無事に王都に辿り着いた一行は教皇がいるはずの大聖堂へ向かうのだけど、そこで一行を待ち構えていたのは教皇では無くアイリス様なの。そしてそこでアイリス様が今まで教会の暗部で活動していたことと、ユリアーナに近づいたのは教皇の命令で必要に応じて教皇にとって都合が良い結果になるように誘導するためだったことを語り、ここでやって来る邪魔者を排除するよう命じられたと言う事を告げ、戦闘を行う事になるの」


「あれ? でも人質だったクロード神父が主人公側にいるんだったら戦わなくても良いんじゃないの?」


 そう率直な感想を述べる私に、ユリアーナ様はヤレヤレと言った表情を浮かべながら「12歳のころ、初めて教皇とアイリス様が対面した際に教皇の命令に逆らえないような暗示を掛けられた、って説明したでしょ」と返されてしまった。

 確か詳しく説明してくれた時に、教皇に取憑いた悪魔の意思を一部取憑かせることで無意識下に『教皇には逆らえない』と言う固定概念を植え付けるもので、その取憑いた悪魔の魔力を削りきる、つまりは一旦戦闘不能にしないとその暗示を解除出来ないと言った性質の(特殊技能)だと語っていた事をなんとなく思い出す。


「ごめん、忘れてた」


「別に良いわよ、これだけ一気に説明しているのだから全部覚えてるなんて思って無いから。それより話の続きだけど、その戦闘で迷いと後悔から本気を出せなかったアイリス様になんとか勝利し、教皇の真の目的と邪神召喚の術式を発動するために教皇が王都の中央に位置する王城にいることを告げられるの。そして、そこでクロード神父達と共にアイリス様へ協力を呼びかけるのだけど、アイリス様は『既に、多くの罪なき人々の血で手を汚した私に引き返す資格なんて無い』と断り、そのまま教皇の下へと戻ってしまうのよ。その後術式が発動して半異界化した王都を進み、王城の前で行く手を遮るオルランド様を倒すのだけど、この戦闘終了後にイベントでジルとオルランド様が一騎打ちを行い、ジルが勝利したことでオルランド様が改心すると言うのが本来の流れなの」


「じゃあ、今みたいに既にオルランド様がこっち側にいるのも本来のシナリオから逸脱してるんだ」


「そうね。それで、オルランド様を倒した一行は謁見の間まで辿り着き、そこにある術式の中心で半透明のクリスタルに閉じ込められたアイリス様の姿と、私達を待ち構える教皇を見付けるの。そして、術式が完了するまでの時間稼ぎに教皇と戦闘になるのだけど、どうにかそれを打ち破った一行は完全に術式が完了して王都に住む人々の魂が奪われる前に術式を止める事に成功するのよ」


「でも、それで終りじゃ無いよね?」


 それで終わるのならば迎えの来るまでユリアーナ様が語ったように私が邪神の力を押さえるために死ぬはずが無いので、ここで何かが起きるのだろうと容易に想像出来た。


「勿論。結局、あと一歩の所で計画を阻止された教皇は最後の一押しに自身の命を贄にアイリス様の肉体を依り代に邪神エイワスを降臨させてしまうのよ。そして、邪神エイワスの圧倒的な力を前に手も足も出ない状態に陥ってしまうのだけど、そこで意識を取り戻したアイリス様がその命を犠牲に邪神の力を大幅に削いで、そのおかげでどうにか邪神エイワスを退けることに成功するの。そうして突如トップの教皇を失った事で教会関係の混乱はありながらも王国は平和を取り戻すけど、結局邪神の力を削ったアイリス様はそのまま命を落としてしまう、と言うのが物語の大まかな流れね」


「そう言えば、なんで教皇様は邪神を召喚しようなんて計画してるの?」


 一通り話を聞き終えたとこで私は疑問に思った箇所をスッキリさせるべくユリアーナ様に質問をぶつける。


「教皇、この世界での本当の名前はクロウ・アレイストなんだけど、彼は地方貴族の出身で、幼いころに強力な魔獣が領地に出現したことで親兄弟はおろか親族や仲が良かった領民のほとんど奪われてしまうの。その影響で皆を守れる強大な力を求め続けるようになり、その心の闇を悪魔、と言うか邪神エイワスの端末に利用されて良いように操られているのよ。だから、王都に住む人々を犠牲に邪神を召喚する事も『より多くの人々を救うために必要な犠牲』だと思い込んで暴走しているのね」


「それ、どうにかして正気に戻してあげる事は出来ないのかな?」


 その私の問い掛けにユリアーナ様は苦渋の表情を浮かべながら「無理ね。教皇の魂はかなり深い部分で邪神の意思と融合してしまっているから、どちらにせよ取憑いた悪魔を滅ぼせば助からないのよ」と回答した。


「そっか……。そう言えばこの世界ってアイリスが死んだ後の続編もあるような事を言ってたよね? そこら辺の対策はどうするの?」


 私がそう尋ねると、ユリアーナ様はあっさりとした口調で「そこは気にする必要は無いわ」と返事を返してくる。


「えっ? でも、続編が出るって事はアイリスの死後も色々と事件が起こるんだよね?」


「『黒の聖女と白銀の騎士』の続編、2作目の『黒の聖女と偽りの天使』も3作目の『黒の聖女と帝国の野望』も4作目の『黒の聖女と復讐の女神』も全部アイリス様の死が引き金となって連鎖的に起こる事件ばかりだからそこまで気にする必要は無いわ。まあ、多少はこれらの作品に関係する事件が起こるかも知れないけど、どちらにせよ今の段階で気にする事じゃ無いわね」


 まあ、確かに本来アイリス死亡後に起こるはずの事件について心配するより自分が生き残れるように心配する方が先だと言われればそのとおりだろう。

 だからとりあえずはそこら辺の先の話は教皇様の計画を阻止してからゆっくりと考えれば良いやと頭の片隅に追いやることにした。


「とりあえず、あなたはそんな先のことは気にせずに次の騎士団長戦と教皇戦を全力で乗り切ることに注力しなさい。そして、教皇が最終手段で自身の命と引き替えにあなたの肉体に邪神を降ろそうとする可能性があるのだから十分注意しときなさいよ」


「でも、流石に近くにいるだけ術式に巻き込まれたりはしないんでしょ? だったらドジって捕まったりしなければ大丈夫だよね」


 そう気楽な感じで私が答えると、何故かユリアーナ様は渋い表情を浮かべながら「それがそうとも言えないのよね」と不安になるような事を口にする。


「えっ!? どうして!?」


「あなたのその星の力が女神アルテミス由来のものだからよ」


「ええと、それに何の関係があるの?」


「邪神エイワスは女神アルテミスの眷属で、女神アルテミスは4作目のラスボスで悪役だからよ」


 思わぬ情報に私は言葉を失う。

 そしてユリアーナ様は続けてとんでもない情報をサラリと告げる。


「そもそも、争いを続ける人類に魔力を与えて戦争を激化させたのも、魔獣を世界中にばらまいたのも、人に近い魔人を創造したのも全部女神アルテミスだしね。そして、魔獣や魔人に為す術も無く数を減らして行く人類にスキルと言う力を与えたプロメテウスに戦いを挑み、返り討ちにあった末に当時の王族に封印されなければ今頃人類は滅んでるはずなのよね」


「どうしてそんな女神が信仰の対象になってるの!?」


「さあ? そこまでは作中で語られないから知らないわよ。でも、人類に魔力を与えたって点は合ってるし、時間が経つ内に色々おかしな話になったんじゃない?」


 そう言葉を返したところでユリアーナ様は欠伸を漏らし、「大体話しとかないといけない情報はこんなところかしら」と、ベンチから腰を上げる。

 そして、「今日はもう遅いしここで解散にしましょうか」と屋敷の方向に視線を向けたユリアーナ様に私は声を掛ける。


「あっ、ちょっと待って!」


「何?」


「あの…私の名前をアイリスって呼びにくいんだったらアイリって呼んでくれないかな? 私の前世の名前は黒崎愛里だし、アイリだったら普通の愛称に聞こえるから不自然じゃ無いでしょ」


 正直、ゲームのアイリスを『アイリス様』、私を『アイリスさん』で呼ばれると分かりにくいし、どうせだったら名前が近い前世の名前で呼ばれる方が分かりやすくて良い。


「そうね、それじゃあこれから私はあなたをアイリと呼ぶことにするわね。……じゃあ一応私も前世の名前を教えておくわね。須崎優里奈すざきゆりな。それが私の前世での名前よ」


 ユリアーナ様の前世の名前が優里奈と言う事は、転生者に選ばれた条件に名前が近いという項目も含まれるのかも知れないなどと考えながら、同時に話を始める時に様付けを止めて欲しいと言っていたのでどう名前を呼ぶかを考える。

 そして、直ぐさま適当な呼び方を思い付いた私は口を開いた。


「じゃあ、私はこれからあなたのことをユリちゃんって呼ぶね!」


 そう告げると、ユリちゃんは少し微妙な表情を浮かべながら「まさか、この年になってちゃん付け?」と漏らすが、直ぐに視線を逸らしながら「まあ、好きに呼ぶと良いわ。アイリも早く戻ってしっかりと寝ておきなさい。明日からはかなりハードスケジュールになるのだから」と告げた後、『重力操作グラビティコントロール』を発動させ、「それじゃあお休みなさい」と一言挨拶を残して夜空へと姿を消して行ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る