第24話 2人だけの内緒話その2
「ここまで露骨に話題を逸らされるとかなり怪しいのだけど……。良いわ、話を先に進めましょうか」
懐疑的な視線を向けながらユリアーナ様はそれ以上深く探りを入れることなく、そのまま話を先に進めてくれる。
「今まで話した4月末に起こった行方不明事件までがゲーム本編では第1章に当たる部分でそれから6月の第2章に入ることになるのだけど、第2章の内容を簡単に説明すると武術大会に向けた仲間集めがメインとなるシナリオね」
そう告げられた事で大体の事情を理解した私は浮かんだ予想を口にしてみる事にした。
「そのメンバーがドロシーちゃんとライアーくん、って事だよね? だからドロシーちゃんが珍しい薬草を探しに密林に向かうか悩んでるのを知ってたし、その密林の奥地でジャイアントキラーサーペントが出現することも知ってたんだ」
「まあそう言う事ね。ただ、本来のシナリオならたまたま受けた別の任務中にドロシーとは遭遇するはずだったのだけどね」
「じゃあ、ライアーくんも本来は何らかの任務を通じて知り合いになるはずだったのを先に声を掛けた、って感じかな?」
私がそう尋ねるとユリアーナ様は「概ねそんな感じね」と肯きを返した後、本来どう言うルートでライアーくんと知り合うはずだったかと実際にはどうやって声を掛けたかを説明してくれる。
「本来、ドロシーをパーティーに加えた後に『無謀な挑戦』と言うクエストで同級生に煽られて1人危険なダンジョンに向かったライアーを探しに行く、って流れのはずだったの。だけど、当然ながらその流れを知っている私は事前にライアーに声を掛けて一緒にダンジョンに向かい、そこで私達の本当の実力を見せ付けることで無理矢理話を聞いてもらったのよ」
「なんか、その言い方だとライアーくんをボコったように聞こえるんだけど……」
「実際、手っ取り早く話を聞かせるために完膚なきまでに叩きのめしたわよ」
さらっとそう告げるユリアーナ様に、私は「よくそれで仲間になってくれたね」と苦笑いを浮かべながら率直に思った事を告げた。
「ああやって偉そうにしてるけど、案外ライアーは寂しがり屋で素直な性格なのよ。普段悪ぶってるのも周囲に自分を認めて欲しいだけだし、財務大臣の息子としてじゃなくてきちんと1人の男の子として認めた上で接すればそこまで変な対応をして来ることは無いのよ。それに、自分よりも才能がある相手を認めて敬意を示す程度の礼儀もきちんと弁えているしね。まあ、負けず嫌いな性格でもあるから素直に負けを認めはしないんだけど」
「そうなんだ。……もしかして、案外ツンデレキャラなの?」
「ツンデレ、と言うより年相応に幼いだけかしらね。だから、続編では成長してオルランド様のような落ち着いた感じになるし」
正直、全然想像が付かないのでとりあえずその情報は脇に置いといて話を進めることにする。
「それじゃあ、ライアーくんをパーティーメンバーに加えた後に武術大会に突入して、そこで優勝して第2章が終わる…あっ、そう言えば決勝トーナメント最終戦で戦った時に強制敗北イベントとか言ってたから私達に負けて終り、なのかな?」
「いいえ、惜しいけど違うわ。第2章はライアーをパーティーメンバーに加え、ライアーを探しに向かったダンジョンの最奥でエレメンタルガーディアンって言うボスキャラを倒して終りね。そして、武術大会の話は第3章の内容よ」
そこまで聞いたところで私は武術大会初期に噂になった事件を思い出し、それが第3章の内容に関係するのではと問い掛けることにする。
「もしかして、学院内に現れたレッサーデビルの噂って――」
「その通りよ。本来、その事件が明るみに出るのはある程度大会が進んだ後の話で、次々と出場選手が何者かに襲われる事件が発生するはずだったの。そして、私達は武術大会を勝ち進みながらその事件の調査を行い、最終的に犯人を見付けながらも無事に1学年の代表選手として決勝トーナメントに進み、最終戦でオルランド様とアイリス様のコンビに敗北する、って言うのが本来3章のシナリオね」
こうやって順番に話を聞いてみると、本当に意図的にユリアーナ様が先に手を回して回避したイベント以外は本来のシナリオ通りに動いていることを確認する事が出来た。
そうなってくると、これから先に本来のゲームで起こる4章以降の事件もそのままな可能性が高いそうだと予想出来る。
だが、ユリアーナ様の次の言葉はそんな予想を一瞬で否定するものだった。
「でも、これから先の4章は絶対ゲームのシナリオ通りに進むことは無いわ」
「えっ!? どうして?」
「そもそも、この最終戦の面子で別荘を訪れるのは本来のシナリオ通りなんだけど、本来ならこのメンバー、と言ってもオルランド様は公務があるから付いては来ないんだけど、そのオルランド様を除いた残りのメンバーでこの近くに最近発見されたダンジョン、つまりあなたがエルダードラゴンを討ち取ったダンジョンに向かう流れになるはずだったの。そしてそこでユリアーナとアイリス様がトラップに引っ掛かって皆と分断され、2人でダンジョンを進む内にユリアーナがアイリス様を10年前に出会った少女だと薄々気付き始める、ってのが本来のシナリオだったの。そして、最奥に辿り着いたところでダンジョンを乗っ取ってエルダードラゴンを追い出したミドルデーモンと戦う事になるのだけど、このダンジョンから追い出されたエルダードラゴンが過去にクロード神父を瀕死に追いやり自分が暗部で活動する切掛を作った個体だと知ったアイリス様が圧倒的実力でミドルデーモンを瞬殺してしまうのよ!」
キラキラとした瞳でユリアーナ様はその後もその戦闘だけプレイアブルキャラとして使用出来る(ゲームでの)アイリスの凄さを語っていく。
その内容はこの段階の適正レベルの倍以上の圧倒的レベルがどうとか、強力な専用魔法やスキルがどうとか、(今の私は使えないがゲームでは覚えているらしい)秘技や奥義の演出がどうとかで、わざわざ様付けで呼んでることから薄々は気付いていたのだがどれだけ前世のユリアーナ様にとって(ゲームの)アイリスが押しキャラだったのを察する事が出来た。
「――で、この奥義に付与されるディレイ効果が凄まじくて――」
「わ、分かったから落ち着いて! とりあえず、このまま話し続けてると朝になりそうだし、先に話を進めない?」
慌てて私がストップを掛けると、ユリアーナ様は若干顔を赤らめながらコホンと咳払いをして「そうね」と話を戻してくれた。
「それで、アイリス様に倒されたミドルデーモンは自身の魂を生贄に邪神の端末、まあ邪神の右腕なんだけどそれを召喚して消滅するの。それで、その端末の圧倒的な強さにユリアーナは太刀打ち出来ずアイリス様も苦戦を強いられるんだけど、そこにダンジョンの調査に訪れていたシスターミリアに引き連れられた仲間が合流してどうにかその邪神の右腕を撃退して4章が完結、って言うのが本来の流れね。だから、本来この4章のボスとして戦うはずのミドルデーモンはそもそも私とジルが召喚自体を阻止している状態だし、ダンジョンもあなたがクロード神父とシスターミリアと一緒に攻略してしまっているからどうやったって本来の4章通りの事件なんて起こりようが無いのよ」
確かに、本来ボスとなるはずの敵がいないのであれば事件が起こるはずも無いのでこれから先は本来のシナリオ通りとは行かないだろう。
だが、そうなると一つの疑問が浮かんで来たので私はそれをユリアーナ様に尋ねる。
「じゃあ、これから私達が戦おうとしてる騎士団長って何処で戦うの?」
「彼と戦うのは終章ね。ただ、その前に5章が入るから今回の作戦はゲーム内で言えば一気に2章分飛ばす事になるわね。だから、騎士団長はそれ相応の力を持つ敵って事だし、だからこそ結構きつい戦いになると覚えておいて」
ほとんどRPGをプレイした事無い私にはその2章分でどれだけ敵の強さが変わるのかピンと来ないが、騎士団長のレベルは700に近いという話しだからそれがどれだけ危険な相手であるかは十分理解しているつもりだ。
「さて、少し前後したけど次は5章の説明ね。5章は学院内の問題では無いけど王都で多発するようになった行方不明事件の調査を行う、と言うシナリオね。そして、この章で深く関わってくるのがクロード神父とシスターミリアなの」
「えっ? クロード神父がシナリオに関わって来るのって本当はそんな後半なの?」
「そうよ。しかも、アイリス様を操るための人質として王都で軟禁状態でありながらも、アイリス様を救い出すためにシスターミリア達一部の同士と水面下で教会の暗部を探っている、って立ち位置ね。そして、クロード神父やシスターミリアの協力で連続行方不明事件の裏に教会の暗部が関わっていることが判明し、最終的には裏に枢機卿の1人と入れ替わっていたヴァンパイアが関わっていることを突き止めるの」
「じゃあ、5章はそのヴァンパイアを討ち取って事件解決で終了、って事?」
「その通りよ。そして、本来枢機卿と入れ替わるはずだったそのヴァンパイアは入れ替わりが成功する前に私とジルで討ち取っているから心配する必要はないわ」
「そうなんだ。でも、そんな終盤に出て来る敵をよくそんな早い段階で倒せたね」
感心しながらそう問い掛けると、ユリアーナ様は「簡単よ。そいつは騎士団長のヴァンパイアロードと違って普通に日光が弱点だから、その枢機卿と入れ替わる大体のタイミングが分かっている私であればそのタイミングを日中に制限させる事も、十分な対策を取った上で戦いを仕掛ける事も出来るのだから」と何でも無いことのように言うのだった。
(そうか。以前教皇様がユリアーナ様は教会の活動に色々と口出しをして、中止になったり変更を余儀なくされたものが多いって話してたけど、それってこのためだったんだ)
心の中で1人納得しながら、私はユリアーナ様に「それでもそんな簡単な話じゃ無いよね?」と言葉を掛けると、ユリアーナ様は「まあ、確かにね。流石にあの時はかなりきつい戦いだったし、ジルにはかなり無茶をさせてしまったわね」と苦笑いで返してくれた。
「とりあえず、この5章についても同じ事件が起こることは無いだろうけど、それでも似たような事件が起こる危険性は捨てきれないわね」
「そうなの? ……そっか、枢機卿という教会内で教皇様の次に偉い立場の人にわざわざ事件を起こさせたって事は、本当は別に重要な何かを進めていて、そこから目を逸らしたいからそれだけ派手な事件を起こしたって事なのか」
私がそう告げると、ユリアーナ様は驚いたような表情を浮かべながら「初めてあなたが私より年上だって認識出来たわ」と失礼な感想を呟く。
「失礼な! 私だってちゃんと考えてるの!」
「……その見た目でそんな言い方をするから余計に年上に見えないのよ。まあ良いわ、それより話を進めましょう。あなたの推察通り、この事件の裏で教皇は皆既日食当日に発動させる邪神召喚術式の最終調整を行っているの。そして、枢機卿と言う教会内でも高位に付く人物が魔と入れ替わっていたことを理由に、他に教会内に入り込んだ魔がいないかを調査すると言う名目で各教会の施設を封鎖し、邪魔になる恐れがある教皇に疑念を抱いたメンバーを拘束すると同時にアイリス様の行動を縛るためにクロード神父を完全な監禁状態にしてしまうのよ。そして、そこからいよいよ物語は終章へと突入していく事になるわ」
そこまで話を聞きながら、『なんかクロード神父のポジションが囚われのお姫様みたいだなぁ』なんてどうでも良い感想を思い浮かべながら、ユリアーナ様が語る物語の続きに耳を傾けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます