第13話 緊張のトップ面談その2

「既にクロードくんからある程度話しを聞いているかも知れませんが、そもそもゴルドラント高等学院がどう言った場所であるかを1から説明していきましょう」


 そう前置きをしたうえで教皇様はゴルドラント高等学院について説明を始めた。

 だが、その内容はクロード神父から聞いた話しに『設立に至った経緯』とか『今までどれ程の多くの偉人達が在籍していたか』とかのあまり興味をそそれない内容が上乗せされ、かなり長い話しだったから要点だけを抜粋して再度自身の認識を整理していく。

 要するに、ゴルドラント高等学院は前世で言うところの高校……いや、どちらかと言えば大学や専門学校に近い教育機関だ。

 在籍する3年間の内、最初の1年目は魔法やスキルを用いた戦闘における基礎知識を付けながら実地訓練でレベル上げとパーティー戦闘の基本についてを学んでいく。

 そして、2年目からは自身の適性属性に関する知識を深めるため、それぞれ独自で課題を設けて研究を行い(単純に『何レベル到達(200以上を達成すれば認められるらしい)』とか『新たな魔法・魔道具を開発する(レベルアップで習得する魔法の熟練度を上げると、異なる魔法を組み合わせて全く違う魔法を作り出せるらしい)』とかをやるらしい)、3年目でその研究成果を発表して一定の成果を認められれば卒業となるのだ。

 勿論、その合間に普通の語学とか数学と言った勉強も行っていくらしいのだが。


「――と言うわけで、以上が簡単な説明になります。何か分からない点がありましたらお答えしますが?」


 そう問い掛けて来た教皇様に、私は左右に首を振ることで質問が無い事を伝える。

 そして、教皇様はそれを確認すると再び口を開いた。


「そうですか。では続いて、何故アイリスさんのゴルドラント高等学院入学を勝手ながら決めさせてもらう事になった経緯についてお話しさせていただきますね」


 教皇様はそう告げると、今まで浮かべていた笑みを潜めて言葉を続ける。


「今回、アイリスさんのゴルドラント高等学院入学が決定したのは表面上では私の推薦があったため、と言う形になっています。ですが、本当はこの決定を下しのは私では無く国王様がお決めになった事なのです」


 そして、教皇様はとても8歳の女の子が到底理解出来るとは思えない難しい話しを続けていく。

 正直、前世で28年、今世で3年ほど生きている私でも完全に把握出来た自信は無いが、要約すると私が知らないところで私の処遇が政治的に利用されていると言った話しらしい。

 どうも、謎の7番目の属性である『星』を『女神に連なる力に違いない』と重要視する派閥、『今後国の脅威になりかねない危険な力』と問題視する派閥、『突然変異として今後の技術発展のため徹底的に研究すべき』とこっそり私の捕獲部隊を編成するような過激派とに分かれ始めているのだと言う。

 そんな中、それぞれの派閥でも『この稀有な能力を王族に取り組むべき』と王族縁の貴族と結婚させようとする者や、私の力がもし危険な力であった場合を考慮して王族に取り込むべきでは無い(だから他の貴族、と言うか自分の家に関係する者と結婚させて様子を見るべきでは)と主張して、もしも私の力が有益な物であればそれを道具に成り上がりを企む者など、様々な思惑が絡み合って正式な処遇が決定できない事態に陥っているらしいのだ。

 そして、国王様としても私の力を見極め、有益な物であるのならば取り込みたい(具体的には婚約者の決まっていない第2王子の婚姻相手にしたいらしい)ため、同年代である事を理由にどうにか接点を作らせたいと考えているらしい。

 かと言って国王様自らが私のゴルドラント高等学院入学を提案してしまうと反対派閥の反感を買ってややこしい事態になるため、『未知の属性が危険な物であるかを知るためにも然るべき年齢に達した後ゴルドラント高等学院で学ばせ、観察と研究を行うべきだ』と政治的に中立の立場にいる教皇様が発言することで周囲の反発を最小限に抑えたのだと言う。

 正直、『だったら飛び級でもさせて今すぐゴルドラント高等学院に入学させても良いのでは?』と疑問もあるが、そこについても色々と複雑な事情が無数に絡んでいるらしく、ある程度の事情を説明されてもいまいち理解出来なかったので『まあ、そう言うものなのだろう』と、とりあえず考えることを放棄した。


「――このように、アイリスさんにとっては非情に息苦しい生活を余儀なくされてしまうでしょう。しかし、それでも私達アルテミス教会はアイリスさんの平穏な生活が脅かされないよう、出来る限り力を尽くしますのでご安心下さい。今もこの村にひっそりと侵入を試み、アイリスさんの身に危害を加えようとする過激な思想の方々はクロードくんを始め多くの仲間達によって防いできました。ですので、ゴルドラント高等学院入学後も引き続きクロードくんにアイリスさんの身辺警護を任せるなど、極力アイリスさんの負担にならない方針を考えていますので心配はありませんよ」


 これまでに私を狙った賊がやって来ていて、それらの脅威に対処するためにクロード神父やその他協会関係者が私の知らないところで対処していたなど初めて聞いた情報だったので多少驚きもしたが、そう言えば思い当たるような違和感がこれまで何度かあったなと思い出す。

 村で見かけた事の無い(と言っても私は村の人とほとんど交流が無いので『初めて見た気がする』程度の認識だが)人とクロード神父が妙に真剣な表情で話し込んでいたり、妙にガブリエルさんが疲れた表情を浮かべている時があったり、いくら私が何をしでかすか分からないとは言っても過剰なほどクロード神父は私の行動を気に掛けたりなど、思い起こせばいくらでも上げる事が出来る。


(もしかして、いきなりガブリエルさんが他の村に転属になったのも本当は政治的な力が働いたから? それに、何時まで経ってもガブリエルさんの後任が配属されてこないのも、信用できる人員の選定に時間が掛るから、とかだったりするのかなぁ)


 そんな事を考えてみるが、当然ながら聞いても答えてはくれないだろうし、そもそもそんな突っ込んだことを初対面の、それも凄い偉い立場の人に聞く度胸は無いので一言「ありがとう、ございます」とお礼の言葉を告げるに留まる。

 そして、私のその言葉を聞いた教皇様は再度笑顔を浮かべた後、再び表情を引き締めて「最後に」と再び口を開いた。


「同じ歳のため間違い無くアイリスさんと同時期に入学してくると思われるエルム侯爵家の一人娘であり第1王子の婚約者、つまりは未来の王妃となられるユリアーナ様には注意して下さい」


 確か、この王国での爵位は上から順番に大公、侯爵、伯爵、子爵、男爵で、一番上の大公は基本的に王族に連なる家柄で領地運営を行わずに王都で要職に就いているはずだから、侯爵家とは領土を預かる地方貴族では最高位だったはずだ。


(私が住んでるブルーロック村を管理するエルム家は結構位が上程度のレベルじゃ無くて、最高位って事!?)


 今更ながら自分が住んでいる村の責任者がとんでもない人物だと気付き、私が驚きの表情(と自分の無知さに対する羞恥)を浮かべていると、それをどう取ったのか教皇様は私を落ち着かせるような静かな口調で言葉を続ける。


「いきなり自分の住んでいる領地を管理する家系の令嬢を警戒しなさい、と言われても戸惑ってしまうでしょうが、しかし彼女は非常に危険な存在である可能性があるのです」


 そうして教皇様はエルム家の一人娘、ユリアーナ様について様々な情報を語ってくれた。

 彼女は5歳の頃からエルム領を離れ、第1王子の婚約者として相応しい教養を身に付けるべく王都で生活を始めたらしいのだが、その頃から次期王妃と言う立場を利用して様々な問題を引き起こしているらしいのだ。

 その中には『王都で要職を務めていた貴族を気に入らないからといきなり追い出した』とか、『教会が行う予定だった大規模な行事を必要ないと突然取り止めさせた』とか言った暴君を思わせる我が儘で横暴な性格を窺い知る事が出来るエピソードが非常に多かった。

 だが彼女は非常に頭が良く、噂によれば4歳の頃には既に父親に領地運営について意見を出していたと言われており、我が儘を言いながらも周りがそれを呑まざる得ないような理屈もきちんと用意してくるので、その立場も相まって周りが口出しできない状況なのだという。

 そして、一部には彼女を飛び級させてでもさっさとゴルドラント高等学院に入学させ、卒業後はさっさと次期王妃としてある程度の要職を任せてしまえば大人しくなるといった意見もあるらしいが、当の本人が『いずれ王妃となる私が特別扱いを受ければ、カルメラ王家の統治を良く思わない反対派閥に攻撃の材料を与えるだけ』と一笑に付したらしい。

 更に、彼女は力を得ることにも貪欲な性格であるらしく、まだ8歳になるまで1ヶ月は期間があるにも関わらず持って生まれた高い闇魔法適性を伸ばすため、日々同じ歳の第2王子を相手に模擬戦を繰り返しながら魔法の熟練度を上げ、底レベルながらも最上級闇魔法の『漆黒の光ダークネスレイ』を習得しているのだとか。(因みに、魔法はレベルアップで覚えるのが基本だが、一部は系列魔法の下級から中級、上級と順々に熟練度をマックスにしていく事で覚える仕組みになっているらしい。)


(やっぱり、このユリアーナ様の立ち位置ってまんま悪役令嬢ポジションだよね。しかも、頭脳も力も地位も持った上でさらに強くなることに貪欲だなんて……これはこのユリアーナ様がラスボスで決定、かな?)


 そう仮説を立てながら、『だったら学院入学後は極力ユリアーナ様を避ける方針で』などと作戦を立てていると、教皇様から更なる情報が告げられる。


「更に、ここ最近ユリアーナ様に『エルム領内で奇妙な噂を聞いたことが無いか』といった事や、『エルム領内で珍しい髪色の少女を目撃したと言う話を聞いたことが無いか』と問い掛けられた守護者が数人おり、どうやらユリアーナ様はアイリスさんの存在にどうやってか気付いている様子なのです。勿論、現エルム領の当主であられるライザヘルト侯爵はアイリスさんの存在を知っておられますが、ライザヘルト侯爵は現在領地運営のためにエルム領におられ、対するユリアーナ様は王都におられるためそこからの情報漏洩は考えづらいのです。それに、2人の王子達へはアイリスさんの情報をお伝えしておりませんのでそこから漏れた可能性もゼロなのにも関わらず、です」


 その情報に、私は『これはどう言う事だ?』と考えを巡らせてみる。

 すると、1つの可能性に行き当たった。


(そう言えば、ユリアーナ様が王都で生活を始めたのは5歳の12月頃で、私が転生して来た直後くらいだよね? そして、王都に行く前はエルム領の何処で生活していたのか何故か情報が無い。つまり、私がこの力を手に入れたのはユリアーナ様が原因だったりしないかな! 例えば、本来ユリアーナ様が得るはずだった力を何らかの事故で私が取っちゃったとか! だから将来、学院で再開した時に私を昔取り逃がした少女であると気付き、本来自分が得るはずだった力を取り戻そうと襲って来る、とか! ……うん、何かあり得そうな設定っぽい!)


 私がそんな思考を巡らしている間、教皇様はユリアーナ様が8歳になられるのに合わせ、年末頃にこのエルム領に一旦戻ってレベル上げを行うつもりらしい事や、基本的に弱い魔獣が多く生息しているが、ティターン大森林の奥地に進めば強力な魔獣も存在しているため幅広い層に需要があるこのブルーロック村近辺が選ばれる可能性が高いと言った情報も教えてくれた。

 そして最後に「ゴルドラント高等学院入学前にユリアーナ様がこの村を訪れ、アイリスさんに接触を図ろうとされるかも知れませんが、相手の思惑が分からない現状で安易に接触を行うのは危険です。ですので、アイリスさんがゴルドラント高等学院へ入学する直前まで我々も貴女の存在を出来る限りの範囲で隠しますので、くれぐれもご自身の特殊な状況を忘れずに行動して下さいね」と釘を刺され、緊張のトップ面談は幕を下ろすのだった。

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