第10話 やっぱり基礎は大切

 転生11日目で私が起こした脱走騒動以降、日常生活において常にクロード神父かガブリエルさんの監視が付くようになってしまい、私の『レベル上げ計画』は早くも暗礁に乗り上げてしまった。

 そもそも、戦いの基礎となるステータスを把握するためのスキル、『解析者アナライザー』を洗礼により授かることが出来るのは6歳の誕生日で、そこから基礎的な知識を学びながら大人(この世界の成人は18らしい)の同伴の上で魔獣討伐が許可されるのは8歳の誕生日以降、そして1人での魔獣討伐が全面的に許可されるのは12歳の誕生日以降からなのだという。(因みに、規則を破って勝手に私へ洗礼の儀式を行ったガブリエルさんは1ヶ月間の無償奉仕を命じられていた。)


 最初、このルールを聞いた時には『幼い内からレベルを上げておけば大きくなった時により強くなれそうなのに』と疑問に思ったのだが、何でもこのような規則が制定されているのには大きく2つの理由があるらしい。


 先ず一つ目は、幼い頃にレベルを上げすぎると体の成長が止まってしまう恐れがあるのだという。

 そもそもこの世界、別にレベルを上げなくても18歳くらいまでは体の成長と同時にステータスが上がって行くらしく、その間に筋トレなどで基礎体力を上げればそれに比例してステータスが上昇するのだとか。

 だが、8歳までにレベルを50くらいまで上げていると肉体の強度が魔力異存になってしまう関係か筋肉が発達せず、レベルを上げれば上げるほど幼い見た目のまま成長が止まってしまうのだという。

 この傾向は筋肉が付きにくい女性よりも男性の方が顕著らしいが、それでも発育に影響が出るのには変わりないので男女ともに8歳まで本格的なレベル上げが原則禁止となっているのだ。(勿論、生活環境などによってやむを得ずレベルを上げないと生きていけない場合もあるので罰則などの規定は無いのだが。)

 それに、未熟な肉体でレベルを上げても魔力や魔法力などの才能に左右されるステータス意外の伸びが悪くなると言うデメリットもあるため、ある程度の成長を待った方が得策なのだ。


 そして、2つ目は子供の命を守るためだ。

 昔、まだ今よりもしっかりとした国家基盤などが確立されていない遙か昔はほとんどの人々が魔獣から身を守るため、レベルを上げざるを得ない環境に置かれることが多かった。

 そのような環境の中、勿論ある程度の力量を持った強者が護衛に付いたとしても未熟な子供達を確実に守れるわけも無く、大体生まれた子供の半数以上が命を落とすと言う過酷な環境となっていたのだと言う。

 だからこそ、ある程度の国家基盤が確立され、比較的安定した生活が確保出来るようになった近代以降では未来有る幼い命を守るためにも魔獣討伐に適性年齢を設けるようになたのだ。


 それらの情報をクロード神父から聞かされた私は、既に24まで上げてしまった自分のレベルを思い出しながら『そう言う情報はもっと早くに知りたかった』と1人嘆いたが、全て自業自得による結果であるため将来の自分の姿に若干不安を覚えながらも大人しく報いを受けようと腹を括るのだった。

 まあ、一度だけクロード神父に直接『その情報を知っていればもっと大人しくしていた』的な事を言い訳がましく呟いた気もするが、『攻撃力や防御力の肉体練度と魔力の関係性については説明してたんだがな。まあ、幼いアイリスに分かるよう説明出来なかった俺の落ち度か』と苦笑いを浮かべながら告げられた。


 そんなこんなでレベル上げを封じられた私は、レベル上げが解禁される8歳までクロード神父とガブリエルさんから徹底的に基礎知識と戦い方について指導を受ける事になった。

 なんでも、クロード神父曰く『このまま大人になるととんでもないことをしでかしそうだ』と言う事らしく、だったら最初から自分の手で基礎を叩き込んでまともな大人に育てようと言う事らしい。

 因みに、クロード神父はアイリスの15歳年上、つまりは丁度二十歳だと言うことらしいのだが、当然ながら前世の私黒崎愛里(28歳)より年下だ。


(私って、8つも年下の男性に将来を心配される精神年齢だったなんて……)


 などとショックを受けつつも、私は今後のために必死で基礎を学ぶことにした。

 そう、何事にもいきなり応用など無い。

 全ては基礎からなのだ。


 先ず始めに私が教わったのは戦いの基礎となる各ステータスについてだった。

 ステータスは基本的に『体力』『魔力』『攻撃力』『魔法力』『防御力』『俊敏力』の5つに分かれ、1つでも【戦技】スキルを習得した段階で『技巧値』が追加されるのだという。

 それぞれの説明を簡単にすると


『体力』…体を動かす力を数値化したもの。尽きると動けなくなり、最悪の場合命を落とす。攻撃を受けたり疲労した状態で無理をすると減る。


『魔力』…魔法を発動したりスキルに変換出来る魔力量を数値化したもの。魔法で使用した分は時間経過で回復するが、スキルに変換した物は戻らない。この普段使用する魔力の事を『活性魔力』と言い、身体を強化するために用いられる魔力を『常駐魔力』と呼んで区別される。


『攻撃力』…力の強さを現す数値。自分の基礎的な肉体の強さに魔力によって強化された数値が反映される。この数値が低いと相手の魔力によって強化された肉体にダメージを与えられない。更に、武器を扱う際の重量による疲労度の蓄積や俊敏力の低下にも関係してくる。


『魔法力』…魔力の変換出力を数値化したもの。魔法を使用した時の術の威力は勿論、普段体に纏っている魔法防壁(他者からの魔術的干渉を阻害する膜のような物)の出力値を表しており、魔攻・魔防どちらの要素も兼ね備える。


『防御力』…肉体の強度を示す数値。この数値は純粋な肉体の強度を示す物であるため、この数値が高いほど物理的要因での肉体にダメージを負わなくなる。ただし、魔法による干渉への影響力は無いため基本的に魔法攻撃を軽減はしてくれない。ただし、魔法攻撃によって生じる物理現象(爆風によって生じる衝撃や風魔法で物体を飛ばして来た場合など)のダメージはこの数値によって軽減される。


『俊敏力』…どれだけ素早く動けるかを数値化したもの。この数値が高いほど本気を出した時の最高速度が上がる。だが、最高速度を出しすぎると大幅に疲労度が増加するため注意が必要。


『技巧値』…【戦技】スキルを発動するために必要な数値。詳しい原理は解明されていないが、通説によれば戦闘などによる気の高まりが数値化されたものだとされている。レベル1~19までが100、20~が200まで貯めることが出来るようになり、その後も一定以上までレベルが上がると100ずつ上がるらしい。


 と言った具合だろうか。

 因みに、体力はあくまで体を動かせる限界値を表した物であるため、これが尽きなくても急所に致命的な一撃を受ければ即死もあり得る。

 そのため、こちらの防御力が相手の攻撃力を大幅に上回る場合(基本的に数値が100以上離れていると完全に攻撃が通らないらしい)を除いては一瞬の油断で命を落とす危険性があるらしい。


 こうしてステータスの基礎について学んだ後、次に学んだのは魔獣のことだ。

 基本、人類以外で魔力を有した生物は全て魔獣と呼ぶらしいのだが、それでもいくつかに細分化されるのだという。

 先ず、魔獣の中には魔力を持つ野生の生物と魔石を核に魔力が集まって生み出されるタイプの2通りに分かられるらしい。

 その特徴として、前者のタイプは人間と同じく生殖活動によってその数を増やし固体ごとに強さのばらつきがあり、後者のタイプは特定の条件さえ揃えばいくらでも沸いて出て来るが同種の魔獣は全て一律の強さになるのだという。

 そのため、レベル上げを行う時には生態系に影響せず一定の強さの個体を何体でも狩ることが出来る魔石タイプの魔獣を標的にするのが基本的なのだと言う。

 因みに、この世界の人々が頭髪によって適性魔力の属性が分かるように、例外も有りはするが魔獣も適性魔力によって体毛や表皮の色が変わるため、赤色だったら炎、青色だったら水といった具合に分かりやすくなっているようだ。

 あと、魔石タイプの魔獣は倒すと魔石とドロップアイテムを残して消えるため、私が森の中で出会った2体もこの魔石タイプでファイアフラワーによって丸焼きにされていた鳥が野生生物タイプだったと言う事らしい。

 それと、魔獣の中でも高い知能を持つものを魔物と呼んで区別する事があり、その中でも特に危険なのが竜種と悪魔と呼ばれる分類らしいが、この2種類と遭遇するなど国家クラスの異変であり今の私では到底対応出来るレベルの相手では無いため今はあまり気にしなくても良いらしい。


 あとはスキルの上げ方だったり魔法の熟練度について(熟練度が上がると消費魔力が下がるとか6以上で詠唱が省略できるようになるとか)の情報も学んだが、ここら辺は実際に使ってきたことで大体分かっていたことなのでそこまで目新しい情報は無かった。

 そして、そこら辺の基礎知識を付けた後は適性がある剣(私の場合は神刀『三日月』があるので刀と言った方が良いのかも知れないが)の扱い方について学ぶことになる。

 まあ、単純に言ってしまえば基礎的な動き方や立ち回りを覚えたり、体に刀を振る感覚を覚えさせるための素振りをひたすら繰り返し、時々クロード神父やガブリエルさんと模擬戦を行って実線の感覚を掴むと言ったことを繰り返したのだ。

 結果、『戦神の祝福』のおかげか2年でステータス値が近い(神刀『三日月』装備時は私の方が上になる)ガブリエルさんとはほぼ互角の戦いが出来るようになり、『分身わけみ』を使用すればほぼ間違い無く勝てるようにまで成長することが出来た。

 だがそれでも、ステータスを見せてくれないので強さの底が知れないクロード神父には分身4体と本体の私と言う5対1の状況で勝負を挑んでも全く歯が立たないのだが。


 そう言えば、『分見わけみ』のレベルを上げた影響か、分身体の性能が最初の頃より大幅に上がっていて私の思考パターンを真似て会話をしてくれるようになっていた。

 こうなるといよいよコミュ力が壊滅的な私の影武者として運用する案も考えられるが、分身体は私のように人見知りをする事も無く、本体よりもコミュ力が高過ぎるため直ぐに偽物とバレてしまうと言う欠点もあった。

 正直、普段一緒にいることが多いため普通に話せるようになったクロード神父やガブリエルさんも直ぐに違和感に気付くらしいので、もし初対面の人が分身体と接した後に本体の私と接したことで混乱されても複雑なためこのプランは当分保留だろう。

 そして、分身体を模擬戦で使っている内に分かった事なのだが、分身体に出来る動きは理論的には私も再現可能な動きであるため、基本分身の動きを真似ていればそれだけでどんどん戦闘技術を向上させることが出来るのだ。

 まあ、分身体が本体を真似るので無く本体が分身体を真似る現状、どちらが本体なのだろうかと疑問に感じることもあるが、それでもこうするのが一番手っ取り早く強くなれるのだから仕方ない。

 あと、【CP自動回復】はどうやら分身体を出している間は発動しないようで、私が分身体を召喚出来る限界は4体で、技巧値が回復しないのでその間他の【戦技】が発動出来ない上、分身体を1体でも出すとしばらくの間(大体1時間くらい)『分見わけみ』を使えなくなるといった制限があることも判明した。

 ただ、それだけの制限があっても十分強力なスキルであり、分身体はスキルを使えないが魔法は普通に使え(ただ私と違って魔力は回復しないが)、更に分身体が使用した魔法の熟練度はちゃんと上昇するという特典付きだ。


 そうやって戦い方を身に付けながら気付けば約3年(正確には2年と8ヶ月ちょっと)の月日があっと言う間に過ぎ去り、私は8歳の誕生日を迎えようとしていた。

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