第9話 お家に帰ろう

 【特殊】スキルを手に入れると同時、私の頭の中に異なる2つのスキル情報が流れ込む。


【パッシブ】収納空間アイテムボックス 現実とは異なる空間へアイテムを収納できる。


【戦技】空間転移ディメンションムーブ CP30 目視できる範囲に空間転移が可能となる。


(この2つは『次元のディメンショナル支配者ドミネーター』を手に入れた副産物って考えて良いのかな? でも、どっちのスキルを使っても帰るのは難しいような……。もしかして、『空間転移ディメンションムーブ』で高いとこに転移して目的地を探せって事?)


 『どうしよう。私、高所恐怖症だから高いところはちょっと……』などと思い悩んでいると、私の葛藤を知ってか知らずかプロメテウスさんが再び口を開いた。


「さて、これで其方は『転移魔法テレポーテーション』を習得したことによって一度訪れた場所には自由に行き来出来るようになったわけだ。が、この空間は試練を突破した者と会うために我が一時的に作り出した仮初めの空間だ。よって、ここに再び転移を行おうとしても無駄だ。フフ、残念だがそう易々と我と相見える事が出来るとは思わぬ事だな」


 別に私はプロメテウスさんにもう一度会う用事など無いとは思うが、当然ながらそんな事をわざわざ言葉になどせず曖昧な笑みを返しておく。

 そして、先程プロメテウスさんが告げた『転移魔法テレポーテーション』の知識については頭の中に流れ込んで来なかったので魔法だと当りを付け、ステータス画面の『習得魔法』のページを開く。


(あっ、ちゃんとあった! ……あれ? 何か他にも2つ魔法が増えてる? まあ、今は関係無いし後で見とこう。そう言えば、この魔法って『熟練度』じゃ無くて『Lv.』表記になってるし、【特殊】スキルと一緒でレベルの横にバツ印が付いてる。やっぱり他とは違う特別な魔法だからかな? まあ、そこら辺も後で考えると良いか)


 とりあえず、突然私がいなくなった事でクロード神父達が心配しているといけないので、発動に必要な魔力200も余裕で回復しているのでさっさと『転移魔法テレポーテーション』を発動して帰るか、と考えていると、ふと先程持って帰るのを諦めて放置した私の頭ほどの大きさがある魔石を思い出す。


(さっきは持って帰るのが無理そうだから諦めたけど、もしかして『収納空間アイテムボックス』のスキルを手に入れた今なら持って帰れる?)


 そう思い立った私は、そもそもさっきの部屋に戻れるのかと言う疑問が浮かび、一応プロメテウスさん聞くべきかとしばらく悩む。

 すると、その私の葛藤を見て取ったのかプロメテウスさんの方から私に「どうした? 帰らぬのか?」と声を掛けて来た。


「あの…さっき、私が取らなかった魔石は……」


 尻すぼみに声を小さくしながら、魔石がどうなったのかと尋ねるとプロメテウスさんは私の意図を勘違いしたのか、「ああ、あれか? あれは我が試練を乗り越えた勇士への褒美として用意した物の1つであったが、どうやら其方には不要の産物であったようだな」と返事を返してきた。


「えっ? いや…その、不要だったんじゃ無くて――」


「なに? では、あの程度の褒美では不服だったと?」


「ふぇ?」


 予想外の返しに私は思わず変な声を漏らす。

 そして、その返事をプロメテウスさんはどう取ったのかニヤリと笑みを浮かべ、再び豪快に笑い出した。


「フハハハハッ! 良い、良いぞ! 彼奴を思い出させるようなその強かさ、なかなか気に入ったぞ! ならば、其方には相応の武具をくれてやろう。さあ、頭の中に望む武具の形を思い浮かべるが良い!」


 そう告げながら再びプロメテウスさんの足下に魔方陣が展開される。

 突然武器などと言われてテンパった私は(いきなり言われも! そんな、日本人ならやっぱり日本刀とか? なんか、戦闘の時にエフェクト付きで異空間から取り出したりとか格好いいよね)などと考えてしまう。

 そして次の瞬間、目の前に光が集束したかと思えばそこには70cmほどの大きさの美しい日本刀が抜き身の状態で現れた。


「ふむ、召喚されたのは神刀『三日月』か。なんとも珍しい武具を選んだものだな。それとも、これも奴の影響か」


「ええと…あの――」


「何をしておる? 早く手に取ってみるが良い」


「あ、はい」


 プロメテウスさんに促されるがまま、私は目の前に浮かぶ柄に手を触れる。

 直後、その刀は私の身長に合わせるようにみるみる小さくなり、やがて1mちょっとの身長しか無い私でも十分振り回せるくらいの大きさになったのだった。


「心配せずとも、肉体の成長に合わせて神刀『三日月』も最適な大きさに変化するだろう。それに、魔力を込めれば自由に大きさを調整することも出来よう」


 そう言われ、試しに魔力を込めると50cmほどだった刀の大きさが60cm程まで伸びる。

 だが、不思議な事にその重さが変わることは無かった。


「さて、これで其方も満足であろう?」


 もはやここまで来て『こんな物貰えません』などと言えるわけも無く、私は引き攣った笑みを浮かべながら「ありがとうございます」とお礼の言葉を述べ、そのまま『収納空間アイテムボックス』のスキルを発動させて神刀『三日月』を異空間に収納する。

 そして、これ以上ここにいると更にややこしい話しになりかねないと「それでは、私はこれで失礼します!」と早口で告げ、『転移魔法テレポーテーション』を発動すべく意識を集中する。

 そして、帰るべき私が寝泊まりをしていた一室を思い浮かべながら、自然と頭に思い浮かぶ詠唱の文言を口にしていく。


「転移座標指定、周辺地形把握、転移障害物探知完了。大いなる星の力よ、2つの異なる地平を繋ぎ、星に流るる力の大河にて我を運び給え。発動せよ、転移魔法テレポーテーション!」


 直後、私の体は光に包まれ、その後奇妙な空間をしばらく浮遊していたかと思えば、気付けばこちらの世界で唯一見慣れたと言っても良いいつもの部屋へ戻ってきていた。


「やった! やっと戻れた!!」


 思わず歓喜の声を上げなら、そう言えば今何時だろうと時計へ視線を向ける。


(ええと…15時過ぎ、か。つまり、7時間以上は迷子になってたって事か)


 我ながら、よく無事に生きて帰って来られたものだと感動していると、そう言えば屋外から直接転移して来たので部屋の中なのに靴を履いたままだと言う事に気付く。


(ちゃんと室内履きに履き替えないと)


 そう考えながら私は直ぐに靴を脱ぎ、そのまま手に持って玄関へと向かって歩き出す。

 そして、玄関に辿り着いたところでドアの外からガヤガヤと大勢の人声が聞こえるのに気が付いた。


(何かあったのかな? うーん、少し離れてるのか良く声が聞き取れないなぁ)


 興味を引かれた私は玄関で再度靴を履き、少しだけドアを開けて外の声を聞き取ろうと試みる。

 だが、何人もの声が重なっていたのに加え、金属がぶつかり合うようなガチャガチャと言う音が邪魔をしていまいち何を話しているのか聞き取れない。

 そのため、私は外の様子を窺うためにそっとドアの隙間から顔を出してみた。

 するとそこには鎧を着込んだ複数の男性や、魔術師のようなローブに身を包んだ男女、弓のようなものを装備した軽装の人など、ざっと数えて30人ほどの人物が集まっていた。

 そして、普段の神父っぽい服装では無く鎧を着込んでいるものの、その集団の前で私に背を向ける形で立っているのは恐らくクロード神父だろうと言うことを察する。


「皆、一旦話を止めてこちらを向いてくれ! これからの捜索について俺から説明を行いたと思う!」


 クロード神父がそう告げると、今までの喧騒が嘘のように静まり返り全員の視線がクロード神父へ集まる。

 そして、全員の視線が集まったことをクロード神父は確認した後、良く通る声で全体に語り始めた。


「先ず、今回の急な招集にも関わらず近隣からこれだけの人員が集まってくれたことに礼を言わせてくれ」


 クロード神父は数秒頭を下げ、その後顔を上げると同時に再び語り出す。


「諸君も概要は知っていると思うが、本日の朝、教皇様より最重要保護対象とされている少女が行方不明となった。目撃者の証言などから誘拐などの線はほぼ無いとされているが、彼女が向かったとされる先は魔獣が多数生息するティターン大森林であり、奥地の方へ入り込めば100レベル帯の魔獣が多数生息する非常に危険な場所だ。よって、捜索は一刻を争う事態となっている。だが、大森林中央にある精霊の泉を越えなければさほど脅威となる魔獣も観測されていないため、彼女のステータスから考えれば集落側に留まっているのであれば生存の可能性は高いだろう。よって、本日は俺や高レベル帯の者数名で精霊の泉近辺やその奥、霧の魔境付近までを捜索し、残りの者で集落から精霊の泉までの間を捜索してもらいたい」


 そこまでの説明を聞き、『あっ、これって私の捜索隊なんだ』と言う事に気付き、私の顔からさっと血の気が引くのを感じた。

 そして、丁度良いタイミングで先頭(クロード神父側)にいた何人かが視線をずらしたタイミングでドアから顔を覗かせる私の存在に気付き、呆気にとられた表情を浮かべる。

 だが、その先頭の人達の反応に直ぐに気が付かなかったクロード神父はしばらく説明を続けるが、次々に異変に気付いて私に視線を向ける人数が増え始めたことでようやく事態に気付く。


「――以上の3名は北側から南下し……ん? どうかし、た……」


 そして、振り返って後ろを確認したクロード神父の視線と私の視線が重なったことで、クロード神父の表情が凍り付き、そのまま言葉を失ってしまう。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!)


 ダラダラと冷や汗を流しながら、私は身動きを取れずにその場に凍り付き、クロード神父も予想外の事態にフリーズしたのか一言も発せず固まってしまったせいで気まずい沈黙が場を支配する。

 そして、その沈黙に耐えられなくなった私は『何か言わなくては』と頭をフル回転させ、やがて引き攣った笑みを浮かべながら「ただいま」と一言告げ、さっと頭を引っ込めるとドアを閉じて脱兎の如く自室に向かって駆け出したのだった。


 その後、当然ながら私はクロード神父から日が暮れるまでの長時間説教を受ける事になり、その際『一応身体に異常が無いか調べさせてもらうぞ』という一言でこの数時間で有り得無い成長を果たした私のステータスがバレ、その結果教会の上層部(と言うかトップの教皇様)の判断により15になった次の年の4月、基本的には貴族か富裕層である商人の家系で強大な魔力を持って生まれた者のみ入学を許される王国最大の教育機関であり研究機関でもあるゴルドラント高等学院への入学が強制的に決定されたのだった。

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