第18話 想定外
4人がようやくダンジョン内で合流出来た。
服を乾かしている間に僕は軽く食事を用意して皆に振舞った。
ダミアンは相変わらずガツガツと僕の料理を美味しそうにかき込んでいる。
レイラーニもメリッサも子供のように夢中でパクパクと食べる
美味しそうに食事をする仲間の顔を見るのはやはり嬉しいものである。
1時間もすると服も乾き、僕もメリッサも自分の服を着る事が出来た。
服を着てしまったメリッサを見て、少し名残惜しい気持ちになったが、自分でほっぺたを叩き雑念を振り払う。
「それじゃあ、行きましょうか。防具を探しに」
ローブを纏い、トンガリ帽子を被ったレイラーニが言った。
「そうね。多分また魔物がわんさか寄って来るだろうけど、相手してたらキリがないからさっさと宝箱のある場所へ行っちゃおう」
短弓の弦をビンビン弾きながらメリッサが言う。
「場所分かるの? メリッサ? ダンジョンの地図は冒険者には出回らないんでしょ?」
「いや、もう覚えてないけど、ダミアンなら分かるでしょ? ドワーフはこういうダンジョンみたいな地形、一度来たら覚えちゃうらしいし」
「おう! 覚えてるぞ! このダンジョンには宝箱部屋が7ヶ所ある。他の冒険者に取られてる可能性はあるが、とりあえず一番近い所から回っていこう」
胸を叩き、得意げにダミアンが言った。
「頼もしいね、ダミアン! じゃあ、案内して!」
「任せろ! こっちだ!」
ダミアンの先導に従い、僕たちは駆け足で安地から出てダンジョン探索へと戻った。
♢
5分程走ると、四方から魔物が湧いてきた。
ゴーレムはおらず、
「ははは! 雑魚共が来たぞー! 狩れ狩れ!」
ダミアンの陽気な声に、僕とメリッサは走りながら追い掛けて来る魔物を始末していく。
「レイは魔法温存して欲しいから魔物には手を出さなくていいよ」
隣を走るレイラーニに声を掛ける。
「では、お言葉に甘えます」
少しだけ微笑み、レイラーニは辺りを照らしている杖を抱き締めるように持ち、ダミアンに続いて走って行く。
ダミアンは中々に足が早い。
サブスクリプションで速さを上げておいて正解だった。これなら早く宝箱部屋を回れるだろう。
四方に通路がある広間に差し掛かると、また魔物が湧いて僕らに襲い掛かって来た。
「魔物が逃げるぞー! 追えー!」
他の冒険者たちが、僕らを襲う魔物を追い掛けて四方から集まって来る。
「何だ?? 他のパーティーに囲まれたぞ??」
前方から魔物を追い掛けて来る冒険者パーティーを見て、ダミアンは足を止めた。
「やっぱ、あたし達を狙ってるみたいね、ここの魔物たちは」
メリッサも足を止め、辺りを見回す。
僕もレイラーニも足を止めた。
すると、四方から集まって来た魔物たちを、それを追撃して来た複数の冒険者パーティーが次々と撃退した。
「ダンジョンの魔物が逃げるなんて聞いた事ないぜ」
左側から来たパーティーの1人がボヤく。
「あれ? 何で他のパーティーがこんなに??」
今度は右側から来たパーティーの1人が首を傾げて言った。
「ん? また魔物が出たぞ! お前たち! こっちだ!!」
そして前から来ていたパーティーの1人が背後から来た魔物たちを見付け、踵を返して立ち向かって行った。
それは左右、後方から来ていたパーティーも同様で、僕たちを襲いに現れたと思われる魔物たちを撃退しに動いて行った。
広間にはまた僕たちだけになった。
「何だか知らんが、魔物狩りは他の奴らがやってくれそうだ! 先を急ごう!」
ダミアンがそう言ってまた走り出したので、僕たちはそれに続いた。
♢
10分程走ると、小さな部屋に辿り着いた。
息を切らす僕とレイラーニに対して、平然としているメリッサとダミアン。やはり冒険者ランクが違うと体力も全然違う。
「おい、アントン! 宝箱があったぞ! 開けてみろ!」
ダミアンが部屋の隅にある宝箱を指さして言った。
僕は呼吸を整えてその宝箱を開いた。
「あ……」
中を開いて肩を落とす。空っぽだった。
「大丈夫よ、アントン。宝箱の中身を先に取られる事なんて珍しくないわ。別の部屋に行こう」
「諦めないで、頑張りましょう」
落ち込む僕を、メリッサとレイラーニが優しく励ましてくれた。
「うん、ありがとう。次に行こう」
僕が頷くと、突然ダミアンに腕を引かれた。
「おい、アントン。ここの岩盤、恐らく鉱石があるぞ。このツルハシで掘ってみろ」
言われるままに、ダミアンから小さなツルハシを受け取り、その岩盤を削ってみた。
すると、本当に透明なクリスタルのような石がボロボロと落ちてきた。
「凄い! ダミアン! この石は何?」
「ふむ、コイツはレディーレクリスタルの原石だな。ギルドに売れば1つ500ゴールドくらいだ」
「へぇー! これが原石なんだー!」
落ちた原石を拾い集め、しげしげと眺める。
パッと見は美しくもない石だが、1つ500ゴールド。4つあるので2000ゴールドにはなるのだろう。
「良かったですね、アントン」
レイラーニも僕の手の中の石を見てニコリと微笑んだ。
それから僕たちは休む事なく1層目の4部屋をを走り回り、2層目の2部屋も回ったが、どこも宝箱は空だった。
「2層目まで取り尽くされてるとはな。Eランクダンジョンとは言え、こんな素人には入りづらいダンジョンでここまで品薄とは思わなんだ。だが、あと1箇所残ってる。ここ2層目の最奥の宝箱部屋だ」
ダミアンはしょんぼりしている僕の背中を叩いた。
「うん、ありがとう。最後の部屋に行こう」
相変わらず魔物は押し寄せて来るが、もはやEランクダンジョンの魔物など、僕1人でもどうにかなる程に狩り尽くした。かなりレベルも上がったのだと思う。
そして僕たちは、ダミアンに続いてまたしばらく走り、ついに最後の宝箱部屋に辿り着いた。
だが、その部屋にはすでに先客がいた。
「よう、遅かったなー、キミ達」
部屋にいたのは先程会ったチェイス達だった。
チェイスは宝箱に腰掛けて僕たちを待ち構えていたようだ。
「何だ? アイツは?」
まだ会った事のなかったダミアンが言う。
「さっきダミアンが来る前に安地で会ったムカつく人間共よ」
既に憎悪に満ちた声でメリッサが答えた。
「遅かったな、って事は、僕たちを待っていたんですか? チェイスさん」
「いや、待っていたわけじゃないよ、アントン君。ただ、キミ達がここに来たという事は、やはり宝箱を探していたんだろ? 宝箱の中身を手に入れるには、一足遅かったな、と思ってね」
言いながらチェイスの隣に立っていたフローラが頑丈そうな鎧を持って前に出た。
「宝箱の中身はこれでしたー。
フローラが嘲笑うと、チェイスや他の2人の男もゲラゲラと笑った。
「ああ、要らないなら1つそいつをくれないか?」
レイラーニやメリッサが怒りに目の色を変えている中、1人冷静なダミアンは僕たちの前に出て交渉を始めた。
「こんなゴミ要らないけど、防具屋に売れば高値で買い取ってくれるのよね〜。ダンジョン限定アイテムだし〜?」
フローラの挑発的な言葉に、最初にキレたのはやはりメリッサだった。
「ねぇ、やっぱりコイツらここで殺しちゃいましょうよ。ダンジョンで魔物に殺された事にしちゃえばバレないわ? 幸い、監視員の気配もしないし」
狂気に支配された瞳をしたメリッサは、言いながらも既に短弓に矢を番えていた。
「やめてよメリッサ。同じ冒険者の仲間を殺すとか……」
「一緒にしないでよ! あんな奴らと!」
僕の言葉も届かない程にメリッサは頭に血が昇ってしまっている。
「えーと、キミ達。この鎧が欲しいんだろ? なら、交換条件といこうじゃないか?」
「交換条件?」
「そうだよ、アントン君。だってこれは俺たちが先に見付けたんだ。要らないとは言え、タダでキミ達に譲る気はない。これ1つじゃ不満なら、他の宝箱から手に入れた6つのアイテムも追加しようか」
宝箱が全て空だったのはこの男たちに先に取られていたようだ。自分たちには必要もないのに、僕たちに嫌がらせをする為にわざわざ全ての宝箱を回って回収したのかと思うと腹が立つ。
「その条件てのを教えてよ」
「うん。条件は、そこにいるレイラーニさんが、俺たちのパーティーに入る事」
「……え?」
とんでもない馬鹿げた条件に、僕たちは唖然として言葉を失う。
「よし、決めたわ。殺す。ここで殺してダンジョンの肥やしにしてやるわ!」
「駄目だよメリッサ!」
弓を引こうとしたメリッサを僕は咄嗟に押さえ付けた。
「何すんのよ!? アントン!! あんなふざけた事言うボケナスはさっさと始末した方が世の為よ!」
「だから駄目だってば! 例え気に食わない事言う奴らだからってすぐ殺すとか言っちゃ!」
「だって──」
「2人とも、やめてください」
レイラーニの鶴の一声で、言い争っていた僕とメリッサはピタリと止まった。
「チェイスさん、貴方、ヴィンセントさん達と繋がっていますね?」
「何の事だか分からないですね」
「ほとんど初対面の私を、取引をしてまで仲間に加えたいと思いますかね?」
レイラーニの問に、チェイス達の顔が曇る。
「貴女は魔法使い。魔法使いはこの地方では希少だ。仲間に加えれば、俺たちの戦力が大幅に上がりますからね」
「『
「それは……あれだ、調べたんですよ」
「どちらで?」
「そ、そんな事まで教える必要がありますか?
さあ、レイラーニさん。この鎧が欲しければこちらへ! アントン君の為にわざわざ取りに来たんですよね?」
レイラーニに問い詰められ、しどろもどろになると、チェイスは無理やり取引を進めようと大声を出した。
しかし──
「私は行きたくありませんね。アントン、申し訳ありませんが、防具は諦めてください。また一緒に取りに行きましょう」
僕の方に振り向いたレイラーニは微笑みを浮かべていた。
清々しい程に爽やかな笑顔。僕は無言で頷く。
「賛成だ。他所のパーティーのメンバーを交換条件に指定するようなゲス野郎共とは関わらん方がいい」
冷静に答えるダミアンを見て、頭に血が昇っていたメリッサも深呼吸をして落ち着きを取り戻していた。
「レイがそう言ってくれて良かったわ。なら、もうコイツらには用はないわね。命拾いしたわね、あんた達」
こんな事になってしまっては、正直僕は鎧なんてどうでもいい。レイラーニ、メリッサ、ダミアン。この最高の3人が一緒ならばいつだってアイテム回収に来られるのだから。
だが、メリッサの捨て台詞に、チェイスは鼻で笑う。
「そうですか。ま、そうだろうとは思っていたので驚きはしませんが、とても残念です。あぁ、帰るなら早く帰った方がいいですよ? 何か、そろそろヤバいゴーレムが来そうな気がするので」
「は? どういう事よ?」
メリッサが聞き返すと、突然僕たちが入って来た扉からの方から大きな足音が近付いて来た。
ズシン、ズシンとその足音は部屋自体を揺らし、天井が軋み、パラパラと小石が崩れて落ちてきた。
僕たちは武器を取り、振り向いて身構えた。
そして、足音が部屋のすぐ外で止まると、目の前の扉と壁が突き破られ、巨大なゴーレムが一体部屋に飛び込んで来た。
「な、何だこの大きさ……!!?」
「グォォォ……!!」
低い雄叫びを上げ、ゴーレムは僕たちを見回す。僕が地下水路で見たゴーレムの2倍の大きさはある。およそ6mの巨体だ。
しかもそのゴーレムは弱点である筈の両眼が鉄仮面で隠されている。
「Bランクダンジョンの
珍しくメリッサが狼狽えて言う。
「難儀だな。ここは逃げた方がいいぞ!」
ダミアンが言ったので僕たちは退路の確認の為後ろを振り返る──すると、チェイスは手に持った鉱石を上空に放り投げた。
「では皆さん、俺たちは先に帰ります。ご武運を」
言い終わると同時に、投げた鉱石がチェイスの足もとに落ちて割れ、そこから眩い光が発生したかと思うと、次の瞬間にはチェイス達4人全員がその場から消えてしまった。
「あのクズ人間共、レディーレクリスタルで逃げやがった!!」
卑怯なチェイス達に怒り狂うメリッサ。
ゴーレムはゆっくりと僕たちに迫っている。
背後は行き止まり。逃げ場はない。
「俺たちもレディーレクリスタルで脱出しよう!」
「そうね、ダミアン! あたし1人なら何とかなっても皆を守りながらは無理よ! 各々のクリスタルで脱出! いいわね?」
「分かりました! 逃げましょう! アントン、レディーレクリスタルはありますね?」
「う、うん! ……あれ? 僕のクリスタルがない!?」
「え!?」
腰の雑嚢を探したが、僕がギルドで貰ったクリスタルは何故かなくなっていた。
安地で服を乾かしている時には確かにあった。水路で落としたのではない。
「……まさか、フローラ」
僕は安地で隣にフローラが座っていたのを思い出した。あの時に雑嚢の中からクリスタルを盗られた可能性が高い。
「アントン!? まさか、失くしたの?」
「どうしよう、レイ!?」
そんなやり取りをしてる間も、
メリッサとダミアンはバラバラに部屋の隅に逃れている。
僕とレイラーニも何とか散らばってゴーレムの攻撃を躱した。
「大丈夫ー!? アントン! レイ!」
「大丈夫です! メリッサさんとダミアンさんは先に脱出してください! クリスタルはお持ちでしょ?」
「持ってるわー!」
「俺もあるぞ!」
「分かりました! 私はアントンと脱出しますので、お先にどうぞー!」
ゴーレムの狙いがメリッサへと向かう。
「チッ! 必ず逃げなさいよ!」
メリッサの方でクリスタルの光が見えた。
メリッサを取り逃したゴーレムは標的をダミアンへと向ける。
「クソっ! ここまでか! 済まん、先に行く!」
ダミアンの方からもクリスタルの光りが輝いた。
「アントン! 私たちも逃げますよ! さぁ、私に掴まって」
僕はレイラーニのもとへ駆け出した。
ゴーレムの大きな腕が僕を握り潰そうと襲い掛かるが、地面を転がりながら回避してレイラーニの手を掴んだ。
「
レイラーニの呪文と共に、僕たちの身体は白い光に包まれた。そして、身体が光の粒子になるような不思議な感覚を感じたと思った瞬間には、僕の視界も真っ白で何も見えなくなった。
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