束の間の勝利の余韻を楽しむ話。
決死の一戦ののち、僕といっちゃんは二限目の授業をサボった。
手強い相手とのケンカ。しかも僕にとっては生まれて初めての殴り合いだ。
それを経た僕らの体はもうヘトヘトだったのだ。
授業をサボるのなんて初めての経験だったので、罪悪感は感じつつも新鮮さも同時に味わった。
まぁ、ヌマ高生が授業サボるなんていうのは珍しいことではなさそう。実際、佐竹たちだって真面目に授業受けるって感じじゃなかったから、外なんかでタムロってたんだろうし。
だから一回や二回サボったって……いやいや待て、そういう考え方はマズい。こういう軽い考え方は常態化のモトだ。一応、サボった罪悪感だけは大切に秘めておかなくては、単位足らずで卒業できなくなる可能性が出てくる。
——閑話休題。
時刻はおよそ午前十時半。二限目をサボった僕といっちゃんは現在、屋上に来ていた。
通常、学校の屋上というのは開放されていないはずなのだが、そんなことが天下のヌマ高で守られているはずもなく、
そうして訪れた屋上は、澄み渡った快晴の空が
途中で昇降口にて購入したクリームソーダを一緒に煽りながら、僕といっちゃんは談笑していた。
いっちゃんの頬には、保健室から黙って持ち出したデカい絆創膏が貼ってある。痛々しいその見た目に反して、いっちゃんの表情は明るかった。きっと、佐竹というトラウマを乗り越えたからだろう。
そんな談笑の中で、ある話題が出てきた。
「——そういやユキ、お前知ってっか? 『
「ライオット?
「はじょ? ……まぁいいや。その反応は「知らねー」って事だろうし」
気を取り直したいっちゃんが、説明してくれた。
「『
「ゾク、って……今時まだいるのぉ? 暴走族なんて」
「いるんだよぅ。いいかユキ、世の中お前が思ってるほど平和じゃねーんだぜ? それにゾクってのも案外バカにできない存在なんだよ。ゾクの中には独自の
「ええ? だったらとっととしょっぴかないと。完全に犯罪者予備軍じゃないか」
僕の言葉に、いっちゃんは「ちっちっ」と人差し指を振った。
「
「ユキちゃんはやめてってば。女の子みたいじゃん。ほら見て僕の腕、サブイボだよ?」
「わーってるっての。まぁとにかく、「ゾク」って一口に言っても、いろんな連中がいるわけよ。『
「穏健派の武闘派」ねぇ……なんか意味が矛盾してる気がする。
「『
いっちゃんは、まだ見ぬ期待に胸をふくらませたような顔で続ける。
「おまけに、『
「ふーん」
「ふーん、って、お前な……一度見てみたいと思わねーの? めっちゃ美人なんだぞ? もっと興味持てよ」
「いや、美人って言われても……僕はそれより、アホみたいに強い、ってところに興味があるかな」
「枯れてんなぁ。うーん……俺も聞いた話でしか知らないんだけど……」
いっちゃんは少し考えてから、口にした。
「パンチとか、蹴りとか、そういうハッキリした技は使わねーんだよ。なんていうか……変な技を使うんだとよ」
「変な技?」
「だから俺も聞いた話でしか知らねーんだってばよ。あと『
「うわー、いっちゃんサイテー」
「う、うるせー! 男のサガなんだよ!」
やいのやいのと笑い合う僕ら。
そんな感じで、僕らは二限目をサボって楽しんだのだった。
僕はたった二日で、すっかり不良になってしまったかもしれない。
今日、生まれて初めてケンカをしてしまったし。
だけどそのケンカも、無事に勝利で幕を下ろした。
これからもこの調子で、なんとかなるかもしれない。
勝利をもたらしてくれた『五輪書』には、感謝の言葉もない。
僕はスッキリした気分で、屋上の青空と微風を楽しんだのだった。
だが、その解放感は、一時的な快感でしかなかった。
ケンカというのは、その場を勝つ事だけ考えてればいいとは限らない。
勝った後にどうするのか、も時には重要なのだ。
僕は今日の放課後——それを思い知ることとなった。
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