08話.[余計なお世話だ]
この前と全く変わらないと言ってもいい場所なのになんか落ち着く、珠恵ちゃん及び柏倉君と一緒に盛り上がっているため彼がこちらに来ないからだろうか。
ああ、じっとしていられているからというのもあったか。
お喋りが好きでもずっと喋り続けていると疲れてしまうからたまにはこういう時間があってほしいと望んでいるのかもしれない。
「ふぅ、少し疲れたわ」
「お疲れ様、はい、飲み物飲んで」
「ありがとう」
残念なのかよかったのかどうかは分からないけど、彼女に対するデレデレしている千葉君というやつも見られない――いや、落ち着けていたのはだからこそか。
というか、あれだけ真っ直ぐに言ってくれたのに信じて行動しない方が馬鹿というものだろう。
「あれだね、柏倉君って意外と筋肉があるんだね」
「一応鍛えているみたいね」
「お姫様抱っことかされていそう」
「一度だけ風邪のときに運んでもらったことがあるわ」
「おお」
私達は全くそういうことはなかった。
と言うのも、私達二人が元気すぎて弱るということが全くないのだ。
これからどうなるのかは分からないけど、少なくともこれまではそうだったからお姫様抱っこをされるときは延々にこないのかもしれない。
まあ、自分で歩いた方が間違いなく精神的にいいだろうからこなくてもいいんだけどね。
「あなた達の関係はどうなっているの?」
「うーん、曖昧な感じだね」
「ふふ、いざとなったらあなたの方から告白をしそうね」
告白かあ、正直に言うと自分からすることになっても全く構わなかった。
というかもう大丈夫だと分かっているいまなら今日勇気を出してもいいぐらいかもしれない。
これまでは一方通行になるのを恐れて抑えていただけだし、うん、これぐらいは頑張らないとって感じだ。
なんでも千葉君にしてもらってばかりでは話にならないからね。
「疲れた、柏倉はテンションを上げすぎだ」
「ははは、高校に入って初めての夏休みだからテンションが上がっているんだよ」
本当に楽しそうだ、というか、ちゃんと切り替えができていてすごいと思った。
「部活もないものね」
「そうそう」
「夏は馬鹿みたいに汗をかきながら頑張っていたよな」
そうしないと怒られてしまうからやるしかなかった――ではなく、楽しかったから自然と頑張れた。
ただ、汗臭くなってしまうのは確かだったから距離が近かったりすると気になってしまって夏が早く終わってほしいと毎年願ったけどね。
「私はバレーで体育館だったから酷かったわ」
「僕は卓球だったけど、そこまで気にならなかったかな」
「あなたは敢えて汗をかいている私に近づいてきたりしたわよね」
ちなみに腰に手を当てて立っている千葉君もそうだった、臭うだろうからちょっと離れてと言っても聞いてくれなかった。
だから願うことが増えていったという話だけど、残念ながら願ったところでどうにも変わらないのが現実で正直、泣きたくなったぐらいだ。
「当たり前だよ、だって僕はその頃から珠恵のことが好きだったんだから」
「はぁ、それぐらいの大胆さが二人きりのときにもあればいいのだけれどね」
「じゃあ今日は頑張るよ」
あ、今日は彼女からしたら酷いことになりそうだ、彼女が「も、もう勘弁してちょうだい」と言っても「珠恵が煽ってきたんだよ?」などと言って全く聞いてくれなさそう。
その点、こちらはしたとしても膝枕程度だから健全だと言えた。
健全でいいよね、そういう大人の雰囲気というやつはもっと大人になってからでいいのだ。
「よっこらしょっと、由望、俺にも飲み物をくれ」
「はいどうぞ」
昔からそうだけど彼の飲みっぷりは見ていて気持ちがいいものだった、だからついついじっと見ていると「飲むか?」と彼が渡してこようとしたから大丈夫だと返しておいた。
間接キスが嫌だとかそういうことではなく、味が違っても自分の分があるから貰うのは申し訳なかっただけだ。
「さてと、二人がいちゃいちゃしだしたから俺らは俺らで行動しようぜ」
「よし、それなら砂のお城でも作ろうか」
「できるのか?」
「分からないけどまずは挑戦してみないとね」
よし、ここで告白をしてしまおう。
場所的には悪くない、できれば夕方の方がいいけどやっとお昼になったぐらいだから待つのは現実的ではないからそこは諦めよう。
とにかく相手から言わせないということが大切だった。
「千葉君」
「なんで名前呼びをやめたんだ?」
「好きだよ、それで告白をして受け入れられたら名前呼びにしようかなって考えていたんだ」
うーん、ちょっと適当みたいな感じになってしまったけど結局自分から言えませんでした~なんて結果よりはいいと言えた。
ちなみに彼は「なるほどな」とそれだけだった。
まあ、さすがに彼でも同情で受け入れるようなことはしないだろうから大人しく待っておけばいい。
「駄目だなこれ、諦めて歩こうぜ」
「うん」
いやでもね、せめて言ってから次に移ってほしかったけどね。
ドキドキとかはないものの、心から楽しめるようなことはそれからなかった。
「はぁ……はぁ……おぇぇ」
お祭りだからって調子に乗って食べ過ぎた結果がこれだった。
あ、実際に吐いているわけではないけどかなりきついのが現状となる。
「大丈夫か?」
「ごめんね」
「気にすんな、あっちは人がいないからちょっとゆっくりしようぜ」
ふぅ、座れるって幸せだな。
ここでも賑やかなのは分かるから寂しくはならないのもいい。
まあ、彼が横にいてくれている時点で寂しくはないんだけどと内で呟いた。
「にしても今年は人が多いな、去年も一昨年もここまでではなかったからそういうのにもやられたんじゃないか」
「あ、単純にお祭りだから楽しまなければ損、食べなければ損のスタンスでいただけなんだよ」
これは恥ずかしい、だってとにかく自分の欲求を優先した結果で彼に迷惑をかけているわけだから。
関係も結局まだ曖昧なままだし、これは不味いと気づいてももう遅いというやつだった。
「花火を見終わったら家まで運んでやるよ」
「今日は君の家でいいよ」
曖昧なままではいたくないから積極的にやっていきたい。
私の家から彼の家にすることで変化が起きると考えているわけではないけど、そもそも来てもらってばかりだったからたまにはいいだろう。
彼の家に泊まったことだって実は何回もあるからいまから気にしても仕方がないというやつだった。
「俺の家? なにもないが」
「私の家だってなにか二人で楽しめるような物はないでしょ」
アイスを食べながらお喋りをするぐらいはできるものの、それが終わってしまえばどうしようもない。
「あの告白のときと同じで無理してねえか?」
「無理なんかしていないよ、ただ、お祭りの後に別れることになるのが嫌なだけ」
おいおい、告白だと分かっているのならどうして返事をしてくれないのか。
返事をしてくれていれば――あ、いや、それこそ関係が変わっている状態で今日を迎えていたら離れたくないとぶつけてしまっていたか。
うーん、ただまあ結局こうして口にしてしまっている時点で変わらないため、やっぱりはっきりしてほしいとしか言えない。
「いや、それなら俺が由望の家に泊まればいいだろ」
「あ、もしかして部屋にえっちな本があるとかかな?」
昔は冗談で隅々までチェックしてそれらしい物を発見することはできなかったけどいまもそうかは分からない。
彼も男の子だし、珠恵ちゃんの水着姿を見たばかりだからそういう物で~という可能性はある。
「ないが」
「あれ、そうなんだ」
「ああ、由望が自宅の方が落ち着くだろうからと言っているだけだ」
もう告白をしたわけだからこれ以上だだ甘でいる必要はないんだけどな。
何故かまだ続いてしまっている、これを彼が優しいからと片付けてしまうのは違う気がした。
前にも言ったように言い合い的なものをしながらも一緒にいられる関係というやつを望んでいるのだ。
「ねえ、さすがに気に入ってくれたのって三年生の後半ぐらいからだよね?」
むしろそうでないと困ってしまうというやつだった。
ただ、一応一年から一年半ぐらいの時間があれば相手のことを気に入ってもおかしくはないからそうであってほしいという考えからきているだけだけども。
「ん? ああ、一緒に受験勉強をしていたときだな」
「あのときは人生で一番真面目に勉強をしたよ」
とかなんとか言っている場合ではない、それまでだって一緒にいることは当たり前のようなものだったのになにが違かったのだろうか。
放課後の教室に残ることは高校と違ってあまりできなかったから家でやっていたものの、制服のままだったから私服を見て新鮮で~なんてこともない。
えぇ、だって相手をしてくれるからなんて理由ではないでしょ? となると……。
「喋ってばかりの俺達が黙ってやっていたもんな」
「ちょっと待った、なんで君は気に入ってくれたの?」
申し訳ないけどこのまま続けるわけにはいかない、このままでは数時間しか寝られなくなってしまう。
「つか俺から喋りかけたんだぞ、もうその時点で答えが出ているだろ」
「いやいやいやっ、仮にいいなと思って近づいたとしてもそれなりに一緒にいれば本当のところに気づいて離れるんじゃないの?」
「じゃあお前はどうなんだよ?」
それこそわざわざ聞くまでもないことだろう。
不安になることも多かったものの、それ以上に安心できるからこそ彼といたがっていたのではないか。
それなのに敢えてこうして聞いたりするのは意地悪だと思う。
「わ、私的には君はいい子だったわけだし……」
「だから俺にとってのお前もそうだったってだけだろ」
「……いいの?」
「はは、告白をしておいてそんなことを言うのか?」
少しでも自分を安心させたいから仕方がない、あまり効果はないと分かっていても積み重ねていくしかないのだ。
はぁ、頑張らなくても勝手にポジティブ思考ができる人間だったらよかったのにと内で呟くことしかできなかった。
「由望、起きて風呂に入ってこい」
「ん……」
たくさん食べて彼と話して花火が見られて満足した状態で寝転んだ結果がこれだ。
動きたくない、このまま寝ていたい、汗だって普段と違ってかいていないのだからこのまま寝かせてはもらえないだろうか。
「そのまま寝ていると抱きしめるぞ」
「それでいいから寝かせて……」
「駄目だ、早く入ってこい、そのために服を取りに行かせたんだろうが」
はぁ、仕方がないからささっと入ってくることにしようか。
そのためささっと移動してささっと洗って戻ってきた。
もうこうなったら奇麗にしているであろう床にも寝転びたくはないから彼のベッドに寝転ばせてもらう。
「お前なあ……」
「今日はもう寝ようよ」
「はぁ、明日の朝文句を言ってきたりするなよ」
大丈夫だ、いまので眠気的なものは全部飛んでいったから問題ない。
でも、隣に寝転んだ彼に抱きついたら温かさからすぐに戻ってきた。
そのため、そのまま勢いに任せて朝まで寝て、少し早く起きた私は先にベッドを下りる。
「黙っていると可愛いんだよなあ」
「……余計なお世話だ」
「歯を磨きに行こ」
よし、これでもっと近づくことができる。
案外自分から動けるということが分かったため、これからはもう遠慮したりはしない。
「珠恵ちゃんと柏倉君はどう過ごしたんだろうね」
「意外と俺らよりも恋人らしいことができていないかもな」
「キスとかしていそうじゃない?」
「するとしても柏倉からだな、三宅ができるとは思えねえ」
いやいや、女の子はそのときそのときによって変わるからもうやばいだろうな。
特にお祭りの後とかなら、ふふって感じだ。
「あ、そういえば言い忘れていたが受け入れるぞ」
「えー」
「いいだろ、そもそもあの流れで適当に告白をしてくるお前が悪いんだよ」
て、適当なんかではないやい、あのときにするのが一番よかったのだ。
また今度でいいやと先延ばしにしていたらここに泊まるようなこともなかった。
「これからもよろしくな」
「うん、よろしく」
「あ、そういえばこれもあれだが、どうなったんだ?」
「ああ、まだ戻すわけではないみたいだね」
一緒にいる機会を増やしているけど母は「でもな」とか「んー」とか言ってばかりだった。
一応父とのことをちゃんと話してくれているものの、私が力にはなれそうにない。
だからこっちも待つしかないという状態で――あ、そういうことかと気づく。
「君が答えてくれなくてもそこまで不安にならなかったのは二人がどうなるのかがまるで分からなかったからだ」
「ほら適当じゃねえか」
「違うよ」
攻撃してこようとしたからその腕を掴んで離さないようにする。
「なんだよ」と言ってきた彼に対してただ触れたいだけだと答えておいたのだった。
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