第10話【ハーベスト王国サイド】ミーリの交渉
フラフレがハーベスト王国からいなくなって数日後。
雨がしとしとと降り続けている。
「ふむ、今日も雨か。たまには雨も降らないと農作物も育たぬからな」
「伯父様。もっと喜ぶべきよ? 孤児院出身の分際で聖女のふりをしてた女をようやく廃棄処分できたんです。明日からこの私が聖なる力を発揮して見せますわ」
「それもそうだな。王族の血筋が流れているミーリのような聖女がもう少し早く現れてくれれば、孤児院のゴミであるフラフレなど飼うこともなかったのだが」
「私たちよりちょっと早く生まれたからって……。忌々しいゴミですこと」
聖女であるミーリ=ハーベスト公爵令嬢。
ハーベスト王国には現在、ミーリを中心に四人の貴族聖女がいる。
ジャルパル国王や貴族聖女たちにとってフラフレの存在はまさに目の上のこぶで、予定では地下牢獄で餓死させるつもりだった。
だが、フラフレはしぶとくなかなか息絶えなかった。
やがてジャルパルはフラフレが聖なる力を失ったと知り、彼女が他国へ渡っても問題ないと考えて国外追放という措置を取ったのだ。
「ようやく邪魔者も廃棄処分できた。これからは貴族聖女が国を護っていくのだ」
「……伯父様にお願いがあるのですが」
「何でも申してみよ。今の私はとても気分が良い」
「私たち聖女の報酬をあげてもらえませんか?」
「何だと?」
ミーリは己の力を確信している。
ろくに祈りもしていないのに、天気は常に晴れ。
今まで無意識にミーリが聖なる力を発動していて、今後も楽に晴れさせられる。
彼女はそう確信しており、自信に満ちているのだ。
「孤児院のゴミの力なんて微々たるものだったけど、貢献はしていたんでしょう? それが私たちだけでとなると、それなりに負担も増えるわけで」
「まさか、あんな廃棄するような女の力を認めるとでもいうのか?」
「いえ、そうではありませんが、理屈だけで言えば一人の力を私たちが補うようなものですし。報酬しだいでやる気も上がりますよ?」
「うむ……、まあ良かろう。国費の分配を貴族側にあてられると考えればむしろ好都合かもしれぬ」
「では今までの倍額で」
「な!?」
ミーリはフラフレにそれほどの価値があるなどとは微塵にも思っていない。
だが、値上げの交渉をするために利用するには十分な存在でもあるのだ。
自らの欲望のためにフラフレを利用し、ジャルパルとの交渉を続ける。
「やる気が出ないと、このまま雨が降り続いちゃうかもしれませんし……」
「うむ……。わかった。では本日よりの聖女報酬は全員倍額に上げるとしよう」
「さすが伯父様ですわ。しっかりと毎日祈りますね」
ミーリは、やがて勝手に晴れるだろうという軽い気持ちで交渉を成立させた。
この交渉で責任がどれだけ重いものになるのかなど、まるで理解していない。
ミーリを含む四人の聖女だけでは王都に晴れ間を作ることすらできないことを、このあと彼女たちは知ることになるだろう。
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