第9話 フラフレは大浴場で色んな初めてを経験する
湯船に浸かる前に身体を綺麗にすることが大事らしい。
「フラフレ様、これを使って洗いましょう」
汚れた服で洗うのではなく新品のタオルを渡され、しかも泡がモコモコしている。
「このモコモコは?」
「石鹸です。これでゴシゴシと洗い、お湯で流せば汚れも綺麗に落とせます」
「へぇ~。やってみる」
タオルで身体をゴシゴシと擦ってみた。
服で洗ったときの感触とはまるで違う。
「天国だぁ! モコモコすごく良い!」
「気に入っていただけたようでなによりです」
何というか、泡が優しく包んでくれている感じが気持ち良い。
怪我の部分は少しズキズキしたけれど、綺麗にしたかったから構わず擦った。
モコモコを使って頭も綺麗にゴシゴシと洗う。
こんなにも身体がスベスベになるものなんだなぁと満足である。
「ふふふふふふふふっ♪」
「少し落ち着きましょうね! 綺麗になったところで湯船に浸かりましょう」
身体のスベスベに浮かれていて、メインイベントのことをすっかり忘れていた。
全身が水に包まれるのには不安があったけれど、入ってみればなんのその。
むしろ気持ち良すぎて超天国だ。
「世の中の人たちってみんな、こんなに幸せなことを体験しているのかぁ」
「さすがに現在の国の状況では、浴場は各家庭にあるわけではありませんよ。そもそも生きぬくことに必死ですから――」
アクアはしまったというような顔をしながら口に手をあてた。
だが、ときすでに遅し。
まさかリバーサイド王国が本当に噂どおり、贅沢などできない国だとは。
「フラフレ様が気にすることではありませんからね!」
「そう言われても……」
大浴場の窓から外を見ると、今もなお雨が降り続いている。
だが、私の聖なる力はもう使えない。
それなのに私だけこんな贅沢をさせていただくのは流石に気が引けてしまう。
ハーベスト王国を追放されるとき民衆の中に、『あの女が一人だけ王宮で良い思いをしてきたって噂の孤児院出身の聖女だ』と言う人がいたのを覚えている。
あのときは理不尽だと思った。力を搾取され尽くされた上に、私が過ごしたのは地下牢だったんだから。
今は聖女の力もないのに、こんなに優遇してもらっている。
一人だけ王宮で良い思いをしている、税金泥棒……。
「フォルスト陛下はどうして私なんかに良くしてくださるのか……」
「人を助けるのに理由や理屈などありませんよ」
アクアが私の手をそっと握る。
こんなふうに人と触れたのはいつぶりだろう。
「陛下はフラフレ様が倒れているところを偶然発見し、助けることにしました。そして主な原因が栄養失調であると知り、中途半端に助けるのではなく完全に元気になるまで王宮で保護しようと判断したのです」
「なんて優しい王様なのだろう……」
「だからフラフレ様がするべきことは、元気になることですよ。そのためにはよく食べてよく休むのです」
「ありがとう……。元気になったら、なにか恩返しがしたい!」
「お気持ちだけで十分です。陛下は見返りを求めるお方ではありませんよ」
アクアからフォルスト陛下のことを聞き、胸にグサリとなにかが刺さるような不思議な感覚があった。
そして、心拍数が上がっている。
湯船の中に浸かった影響かな。
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