決意
「…レイ。お父様は奥の部屋で寝ていますから、屋敷の中で遊ぶなら静かにしなさいね」
「うん、分かりました継母上。エマ、部屋に行こう」
「…はい」
シヴァが居なくなるといつもの冷たい継母に戻り、此方を一瞥すると再び屋敷の奥へと引っ込んで行った。継母の姿も消えて二人になったので取り敢えず自分の部屋にでも行こうと思い、エマを連れてフロアの二股に分かれた階段を上り二階の自室へと行く。
「…あの、レイ様。シヴァおじいちゃんと別れて良かったのでしょうか?本当にバートリ様がレイ様を殺そうとしているのなら、シヴァおじいちゃんには居て貰った方が安全だったのでは?」
子供部屋とは思えないぐらいの十分な広さの自室に入りドアのカギを閉めると、エマは先程聞いた話のせいで心配そうにしていた。
「まぁ…流石に大丈夫だよ。シヴァがあんだけ釘を刺してたし」
継母は小賢しく欲深い女ではあるとは思うが愚かではない事は確かだ、あれだけあからさまな警告を受けて足が付きかねない屋敷内で殺そうとする真似はしないだろう。
だが外に出れば継母に行動を把握されている時には身の安全は保障されない、シヴァが言っていた通り今日の様に家とは無関係なチンピラを殺しに雇ったりといくらでも白を切り通せる手段があるから。
と、話しながら部屋の隅にあるベッドの上に上着を脱いで放り出してからそのままベッドの端に座ると、エマは俺の了解を得て近くにあった木製の椅子を引き寄せて対面に座る。
「そうだったんですか?バートリ様と話している時、シヴァおじいちゃん何だか怖いなと思ったけど、そういう事だったんですね」
「うん。だから家の中は安全だとは思うよ」
「それなら良かったですが…でもずっと家から出ないって訳にもいかないのでは…」
「うーん…そうだよね」
自分としては別に何年でも引き籠っても構わないが、家のしがらみなどもありずっと屋敷内で過ごす事など出来ない。
それに親父はどんだけ長く生きれても余命数年程と診断されている。なので、親父が死んでから動いては遅いので死ぬ前には必ず継母は異母弟を後継者にする為に多少の無茶はするだろう。信頼出来る味方が片手で数えれるぐらい少ない自分の身の安全は時限的なものである事は確実である。
…だが、せっかくの二度目の人生では黙って殺される真似はしたくないし、するつもりもない。
前の人生の最後に願った自由な人生を手に入れる――その為にはこの世界で必要なのは力だ。
財力や権力、それに純粋な力。
しかし財力や権力は今の処ただの後継者でしかなく親父に嫌われている自分と、当主の妻である継母との間では圧倒的な差がある、ならば残された道は力…マフィアの核を成す純粋な
そうだ…向こうが殺す気なのならば、それを捻じ伏せられる
信頼出来る味方を増やし、自分を鍛えてその日に備えるんだ。
―――そう心の中で決意をする。もう自分の人生を理不尽に奪われない為に、出来る事は何でもしてやると固く心に誓う。
「レイ様、大丈夫ですか?」
エマは黙り込んでいた俺の事を心配そうな表情で覗き込むように顔を近付けて来た、そんなエマをじっと見る。…親よりも身近な存在であり、何よりも信頼出来る味方のエマ。だからこそ先ずは彼女に転生の件は除いて自分の思いや考えを話す事にした。
「…どうかな?」
「…」
そしてエマは真剣な表情で話を最後まで黙って聞いてくれた。話しを終えるとエマは顎に指を添えて少し考え込み、しばらくすると考え終えたのか再び真っ直ぐな目で此方を見ながら口を開く。
「レイ様、私なんかに最初にお考えを話して下さってありがとうございます。…お父さんに言われてるからとかではなく、私はレイ様のお味方としてこれからもお傍にいます」
「…でも、これからは危ない目に遭う事があるかもしれないよ?」
全てを話してそれを受け入れてくれたエマ、だからこそ彼女には包み隠さず話す。これからは自分の力を手に入れる為に時には危ない事もしなければいけないという事が分かっているから。
「勿論分かっています。…でも、此処で私が背を向ければレイ様は一人ぼっちになってしまいます。だからレイ様を一人になんかさせません」
「…ありがとう」
少し脅してみてもエマの決意は一切揺れる事なく固いままだった。そんなエマに心から感謝の言葉を口にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます