帰宅
―――
――
街に入り人混みで混雑している中心街から外れて外壁を沿いながら西の方へ行く、しばらく歩くと立ち並ぶレンガ造りや木造の家が小さく見えるぐらいの大きな屋敷が見えた、そこが俺が住んでいる屋敷である。
屋敷の敷地は特殊な鉄柵で囲われており、外から見える広い庭は手入れが行き届き、芝生が敷き詰められている庭には数人の黒いスーツを着た男達やローブを身に纏っている者達が敷地の警備の巡回をしていた。
「…ただいま!」
「おぉ。若様とエマちゃんですか、お帰りなさい。デートはもう終わったんですか?」
「デ、デートじゃありません!」
街の門番とは違い腰に剣の鞘を指して甲冑を着ている屈強な屋敷の門番が俺達を見ると口元に笑みを浮かべる。
勿論からかい半分なのだと思うが、エマは真に受けて顔を真っ赤にしながらそれを否定する。…別に良いのだが、そこまで露骨に否定されるのも何だか少しだけ寂しい気もするが。
「ウィル。あんまり小さな子を困らせちゃいけやせんよ」
「んっ…って、'シルヴァー'さんじゃないですか!お久しぶりです。二人と一緒とは…珍しい組み合わせですね」
「えぇ、西門の所で若とお嬢さんの帰り道に偶然会いやしてね。最近物騒だから屋敷まで付き添って来たしだいで」
「そういう事ですか…。あっ、今開けますね」
門番は一緒に居たシヴァの姿を見てびっくりすると、あだ名ではなくシヴァの本名を呼んで礼儀正しく敬意を持って接し、そして自らの仕事を思い出したかのように急いで門を開ける。そして門を開けて貰ったのでそのまま門を潜り、屋敷まで続くレンガで整備された小道を歩いて石造りの階段を数段上り、屋敷の装飾の施された大きな扉をノックした。
扉をノックするとそれに反応して扉は内側に自然に開き始めたので中に入るが其処には誰も居ない。それは扉が自動で開いた現象は魔法の一種な為であり、アイザック家の者と許可された者以外には反応する事はないのだ。
「あらっ。誰かしら…夫は寝ているし…」
屋敷の中に入ると扉が開いた音を聞きつけたのか、大理石の床を踏みしめながら屋敷の奥から誰かがやってきた。
その人物は綺麗な顔立ちをしておりまだ若々しく、ブロンドの滑らかな長い髪に派手なドレスを着ている女であった。
「ただいま
「なっ…あ、あぁ。お帰りなさい…レイ」
その女は俺を殺そうと企んでいるバートリ・アイザック、継母であった。継母はあからさまに挙動不審な態度で此方にぎこちなく笑みを向けると、隣に立っている二人に視線を向ける。
「レイ。あなた、そこのスチュアートの娘と山に遊びに行っていたんじゃないの?それに…な、なんでシルヴァーがいるのかしら?」
「うん。遊びから帰って来る途中でシヴァに会って、それで屋敷まで送って来てくれたんです」
「…そ、そう。もう引退の身なのにご苦労かけたわね、感謝するわシルヴァー」
「いえいえ、めっそうもありやせん。まだ正式には引退しちゃいやせんし、何より最近は色々と物騒でありやすから、アイザック家の大事な跡取りである若の身に何かあったら大変でありやすんで。…まぁ、万が一にも若の身に何かあったら…あっしは若の身に何かした犯人達をどんな立場の人間であろうとも、やった事を心底後悔させてから…必ず殺しやすがね」
「……それは、頼もしいわね」
物騒な物言いのシヴァは穏やかな表情を浮かべているが、継母を見ている目は全く笑っていない。表面上は普段接しているいつもの優しげな雰囲気なのだが、継母に対しての威圧感は凄まじい。
全てを知っている身からすると、明らかなそんな警告を表面上は取り繕って世間話の様なていで継母に言っているシヴァ。継母は少し狼狽するが直ぐに面の皮を厚くして平然を装い、にっこりとシヴァに笑顔を向ける。
「ありがたいお言葉でありやす。奥方も当主の体調など色々と気にかける事があると思いやすが、お身体に気を付けて」
「え、えぇ。ありがとう」
「それでは若とお嬢さん、あっしはこの辺で失礼致しやす」
「うん」
「ばいばい。またねシヴァおじいちゃん」
手を振るエマの頭を優しく撫でた後、シヴァは小さくお辞儀をして開いている扉から外へと出て行った。シヴァが出て行くと用が済んだ扉は再び自然に閉まる。
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