混沌の街


少し歩けば街の巨大な外壁が見えてきた、左右見渡しても視界にはずっと街を囲っている外壁が見えて途切れないくらいの広大な街。

この世界に多数ある国々の中で、ガイアナ王国とバルバトス公国と呼ばれる二国の国境沿いにある大きな街、スターリングヤードと呼ばれる所が俺達の住んでいる街である。

二つの国は犬猿の仲であり力関係は均衡して百年以上も争っている様な状態だそうだ、そんな二国の国境沿いにあるという事で治安も街の政局も常に不安定な街なのだが、だからこそなのか…二国だけじゃなく他国からも脛に傷を持つ流れ者達が自然に集まって来る、それに伴って娼婦の宿屋やカジノなどの歓楽施設などが所狭しに立ち並ぶ巨大歓楽街へと発展していったらしい。


表と裏の社会が複雑に絡み合い、欲に塗れたそんな街は今は一応ガイアナ王国の領地内であるが、自分が生まれる数年前はバルバトス公国の領地だったそうだ。



「…あっ、そうだシヴァ。俺が襲われた事は父上とか皆には内緒にしておいて欲しいんだけど」


道を進み、街の外と中を隔てる壁に空いた門の傍で呑気に欠伸を掻いているやる気のない門番を通り過ぎて街の中に入った時、彼に口止めしとかないと。とふと思い、足を止めて隣のシヴァの服の裾を掴んでお願いをする。



「んっ、どうしてですかい?…犯人を見つけてもあの女との繋がりは示せるとは思えやせんが、若が襲われた事実がある以上はその事を当主に報告しやせんと」


「それは分かってるよ、でもそれだとエマがとばっちりを受けちゃうからさ。シヴァも…と言うかシヴァの方がエマの父さんの事を良く分かってるでしょ?」


「…」



反対側で杖を持っていない方のシヴァの手を握っていたエマは気まずそうに顔を俯かせ、シヴァの手をそっと離した。



「そりゃあ、ロックの坊主の事はあいつが街の悪ガキだった頃から知ってやす、それにあの坊主のお嬢さんの扱いに関しては気にかけてる事ですが…しかし…うーん…」


シヴァは困った顔で白髪混じりの頭をポリポリと掻く。



「お願いシヴァ。これからは用心するからさ」


「…」


「……はぁ、分かりやした。若とお嬢さんにそんな顔されたらこっちが折れるしかありやせんな。この件はあっしの懐にしまっておきやしょう。…出来れば若の身辺警護の強化を当主にお願いしておきたかったんですが、話を通さなくて済むんでそれはあっしの孫にやらせたいと思いやすが、かまいやせんかい若?」


「あ、ありがとう。シヴァおじいちゃん」


「うん、それで良いよ。さすがシヴァ、話が分かるね!」



苦笑いを浮かべるシヴァを見ながらエマは安堵した表情を浮かべた。そして気がかりもなくなったので、そのまま三人で街の西にある屋敷へと向かって行く。

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