アイザック家

「ちょっ。どうしたの?」


「…申し訳ない若。若が襲われるって物騒な情報を今朝方小耳に挟んだんですが、若はスチュアートの処のお嬢さんといつもの山に遊びに出かけたって聞きやして、心配になって来てみたんですが少し遅かったようで。…けど命がご無事で何よりでありやす」


「…あぁ、なるほど」



珍しくシヴァが街の外に出て来ている事や先程の発言にもこれで納得した。



「頭上げてシヴァ…それってもしかして前に言ってた継母上ははうえの仕業?」


頭を上げたシヴァは片膝を付いたまま神妙な表情をしていた、そして少しだけ口籠るがやがて口を開く。



「…えぇ。この前若に話した通り、中々尻尾が掴めずまだ断定は出来やせんが。若の異母弟おとうとのロイ坊ちゃんを後継者にする為についに実力行使に出て来やがったようですね」


「そうなんだ…」


「…バ、バートリ様がレイ様を殺そうとしたんですか?」


「そうらしいね」



事情を知らず黙っていたエマは驚いていた。それもそうだろう、血が繋がっていないとは云え一応俺の母にあたる人物が俺を殺そうとしているのだから。それにエマも裏社会の人間の娘であるから、それがどういう事なのか幼いながらも分かっている様子である。


――それはつまり後継者争い。

身内と一部の側近達は知っている事だが、親父は若い頃からの派手な生活が祟ったのか先が長くないらしい(…別にどうでもいいが)


そして現在の親父の女が身籠ったのでその女が親父の妻となり継母となっていたのだが、継母のバートリは弱小になったとはいえ何代も続くマフィアのボスの座を自分の血が繋がった息子に継がせたいと考えたのだろう、アイザック家は当主の意向などは関係なく当主の長男を後継者にする絶対的な掟があるので、自分の実の子を後継者にする為にどうやらこの身が邪魔なので殺そうとしているらしい。


先代からアイザック家に仕えており今は半ば隠居気味であるが、内部の情報には精通しているのでその情報を掴んでいたシヴァは身を危惧してくれて親父にも忠告したりしているのだが、親父は継母と異母弟を溺愛しており昔から自分に対して意見や注意をするシヴァの事を煩い老人扱いしている為その忠告を無視している。


そんな状態な為に、バートリはアイザック家の現当主の妻なのでシヴァは確実な証拠がない限り直接的な動きは出来ない。その為シヴァは身の回りに注意するように声を掛けてくれていた。…のだが、暴漢に殴られる前の俺はただの十歳児であり、シヴァの注意を能天気に受け止めていたのでエマを連れて不用心にも子供二人で遊びに出かけてしまっていたのであった。



「…それで若。どんな奴に襲われたんですかい?」


「んっ。あ、いや。背後から殴られたみたいで犯人を見れてないんだよね。エマが目撃してたみたいだけど」


「そうですか。ではお嬢さん、若を襲った奴について教えてくれませんかい?」


「うん。えーっと…覆面被ってて、背はシヴァおじいちゃんよりも高かったです。それでレイ様を金属の棒みたいなので一回殴った後、レイ様が倒れて動かなくなったのを見て直ぐに逃げて行きました」


「ふむ…なるほど、随分やり方が雑みたいですな。棒で一回殴っただけで死んだ事も確認しないとは…しかし不幸中の幸いと言えますな、この件は間違いなく素人の仕業かと。…恐らくあの女は発覚しないように家の者は使わずに街のチンピラでも雇ったのではないかと思われやす」


「あっ、シヴァおじいちゃん。それで殴られたレイ様の頭の具合を見て欲しいんですが」


「…っと。それもそうですねお嬢さん。状況把握は何時でも出来るので後にしときやしょう。それじゃあ若、少し失礼致しやす」


「うん」



エマは犯人について見た事を全部言った後に先程の事を思い出してシヴァにお願いをする。エマから聞いた話を分析して分かりやすく話してくれていたシヴァはそれを聞き入れて杖を地面に付きながら立ち上がり、了承を得ると頭にシヴァの無骨で大きな手が触れた。



「痛いですかい?」


「うーん。特に…あっ、でも後頭部がちょっと痛いかな」



シヴァは痛い処がないか慎重に俺の頭を触っていく、すると後頭部付近を触られた時に若干の痛みが走ったのでそれを伝えた。



「此処ですね。分かりやした。――治癒ヒーラ


「…」



痛い箇所を伝えるとシヴァはその言葉を唱える。その言葉を唱えると頭を触っていたシヴァの片手が一瞬淡い光に包まれてあっという間に痛みは消えた。

――それを体験した俺は、この世界には魔法が本当に存在する事を改めて実感する。



「ありがとうシヴァ。もう治ったみたい」


「そうですか、それは何よりです。では若とお嬢さん、取り敢えず家に帰るとしましょうか」


「うん」


「はい」



これ以上いつまでも道で立ち止まってる理由もないので、エマと同意して二人と一緒に再び街まで歩き始めた。

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