第一章【幼少編】

目覚めた記憶


「レイ様!大丈夫ですか‼」


(……?)


誰かに身体を揺さぶられている俺は閉じていた瞼をゆっくりと開いてみた。開いて見ると快晴な空が目に入り、そして横にはまだ幼さが残り癖毛の目立つ長い赤毛の髪の少女が両膝をつき、仰向けで倒れていた自分の事を覗き込む様に顔を近付けていた。

その少女はぼろ布と言ってもいいぐらの粗末なワンピースのような服を着ており、瞼まで覆い隠している長い髪の間から覗かせるぱっちりとした瞳は涙目となっており何か不安気な表情をしている。



「いつっ…?」


そんな少女をしり目に上半身を起こすと、頭部に酷い頭痛が走ったがそれを我慢してゆっくりと立ち上がる。そして周辺を見渡してみると草花や木々が生い茂る場所に居る事が分かった。



「…あれっ?」


だが周辺を見渡した後に何だか違和感を抱いた。やけに自分の身体が小さいような…いや確実に小さい、と言うか小さすぎる。…それに何だこの服は?俺は身体に合わせられている小さな黒いジャケットとズボンを身に纏っており中には白シャツを着こんでいる、そして靴は新品同然の革靴を履いていた。



「なんだこの格好……と言うか。…俺は、死んだんじゃ…」


いや、そうだ。確かに死んだ、生きていた頃の記憶も鮮明に残っている。そして最後は住んでいた国の法律によって理不尽に殺されたんだ、それは間違いない。


そして今の俺は――そうだ。レイと名付けられたアイザック家の長男、十歳児。そしてこの子…エマと二人でかくれんぼしてたら背後から誰かに何かで頭を殴られたんだ。…それも間違いない。


アドレナリンでも過剰分泌しているのか、急激に痛みがひいてきて冷静に状況把握に努める事が出来る。



――誰かに勢い良く頭を殴られた衝撃で前世の記憶でも蘇ったという事なのであろうか?所謂、輪廻転生でもしたのか?

だとしたら神様やら仏様は何処まで俺を苛めるのだろうか。生まれ変わっても糞みたいな境遇にするとは心の底から恨みたい。



「あ、あの、レイ様…お怪我は大丈夫ですか?」


「…うん?あ、あぁ。うん。大丈夫だよ、心配かけてごめんねエマ。…俺を殴った奴は?君は何もされてない?」


「え、えっと…金属の棒みたいなので殴られたレイ様が倒れて動かなくなったのを見て去っていきました、覆面で顔を隠してて…私は何もされてませんが…暴漢者に何も出来なくて…」


「そっか、良かった。…まぁ二人とも無事ならそれで良いよ。ほら、さっきまでは頭痛がしたけど今は治まって特に何処も支障ないしさ」



俺に続いて立ち上がったエマは変わらず不安気な表情であった、同い年のエマは心配そうに話しかけてくるので、安心させる為に笑顔で受け答えをしながら身体を動かして大丈夫な事をアピールする。



「そ、そうですか…御無事で良かったです。…あ、あの、レイ様。本当にすみませんでした。突然過ぎて私何も出来なくて…」


「いやいや。だから別にそんな事気にしなくて良いから頭上げて、ねっ?」



エマは深々と頭を下げてくるがこんな小さな子…と言っても今の自分よりかは若干大きいが、そんな事をさせるのは気分の良いものではないので頭を上げさせる。



「で、でも…」


「本人が良いって言ってんだから良いの。君の父さんや俺のくそ…じゃなくて父上にも内緒にしとくからさ、安心して」


「……わ、分かりました…」



するとエマは深々と下げていた頭を上げ、少しだけ安心したような表情になっていた。


自分の糞親父はどうとでもなるが、エマの父の性格からしてこの事が知られたら彼女がどんな酷い目に合わせられるか…きっと虐待どころではなくなってしまう。今の自分には彼女の境遇が理解出来ているからこそ安心させられる言葉を投げかけれる事が出来た。



「…まぁ、取り敢えず帰ろう」


「はい…。あの、でも、暴漢に殴られた頭はちゃんとお医者様に診てもらった方が良いのでは?」


「大丈夫、帰ったらシヴァにこっそり診てもらうから」


「シヴァおじいちゃんですか…わ、私もシヴァおじいちゃんに会っても良いですか?……特に理由はないんですが…」


「うん、勿論良いよ。それじゃあ行こう」


「は、はい」



そして嬉しそうな表情になったエマと共に遊び場の山を下りて街まで帰る事にした。

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