死刑囚だった俺は異世界転生しても主人公とかではなかったので裏社会で成り上がる
@yuki0228
序章
俺が死んだ日
「四十二番●●、出房」
「……」
ついに来てしまった、薄暗い独房の中で俺はドアから入ってきた五人の看守を見て生唾を呑み込む。いつも通りに来ないでくれと祈っていたけれどもそれも今日で終わりを迎えてしまう。
手足が震えて動悸が激しくなり思考が鈍る。看守達は物々しい雰囲気で蹲ったままの俺を取り囲んだ。
―――怖くて苦しくて狂ってしまいそうだ。
「し、死刑、執行…ですか…?」
「…あぁ」
「そう…ですか」
目の前に立つ俺の担当官を見上げて少しばかりの否定を期待して質問してみるけれども、分かってはいたが期待通りではない答えが返って来た。
…此処でどんだけ暴れて駄々を捏ねようが無駄だろう、その為の大人数の体制なのであろうから。
「…自分で立てるか?」
「……はい」
いつの間にか目に浮かんでいた涙を手で拭い、諦めを感じてゆっくりと立ち上がった。
そして看守達に囲われながら独房を出る。
「……」
暗い俺の心とは裏腹に廊下の鉄格子付きの窓からは雲一つない快晴の中で眩しく輝いている太陽が昇り、そして大地を明るく照らし出している。
俺は今日死ぬらしい、無実の罪で。――天国へ行けるのだろうか?子供の頃に死んだ母の元へ行って会いたい…そんな事しか考えられなかった。
そんな事を考えている中、看守達の先導の元で歩いていた俺は普段通らない場所を通ったりなどして一つの扉の前で立ち止まった。
「良し。入れ」
「……」
此処に来て少し足が竦んでしまう、目の前で開かれた扉の中に入りたくなかった。入れば否応なしに死が待っているのは分かっていたから。
でも時は戻っても止まってもくれない、非情にも進んで行くだけ。
「お世話になりました…」
「…あぁ」
仕事だからという事は分かっているが、唯一親身になってくれた隣に居る担当官の看守に礼を述べ、手錠が外された俺はもっと大人数が待っている部屋の中へと意を決して足を踏み入れる。
部屋に入ると優しそうな初老の男のありがたくない説教が勝手に始まった。
「神は貴方の罪を許します」とかなんとか…俺の罪ってなに?と言いたかった。俺はただ頑張って生きていただけだった、家族なんていない世界で、一人ぼっちでも必死に生きていただけだった。
けれども今まで悪い事なんてした事はない、亡き母との約束だったから。
「……」
お説教が終わって男は俺が無言なのが心打たれたとでも思ったのか自己満足して下がると、最後の時間が一刻と迫って来ているのが分かった。
「座っていいぞ」
「はい」
促されて部屋にあるふかふかのソファーに座ると、目の前のテーブルに置いてあったお菓子などが目に入る。
「食べるか?別に食べても良いんだぞ」
「…それじゃあ、いただきます」
「煙草は吸うか?」
「あ、いえ…大丈夫です。ありがとうございます」
それは正しく最後の晩餐、市販の何処にでも売っているようなお菓子ではあるが甘い物自体久しぶりだった俺は出来る限り味わって最後の晩餐を食す。
「遺書とか誰かに書いておくか?」
「…はい。支援団体の方に書きたいです」
お菓子を味わった後、紙とペンを貰った俺は弁護士でさえ無実な事は信じてくれずに如何に減刑出来るかが前提だった中、今まで無実を信じて一緒に戦って来てくれた支援団体の人に感謝の手紙を書き残した。
手紙を書き終えたタイミングで部屋の扉がノックされて誰かが入って来た。
「…良し。時間だ」
「はい…」
それは三年間の長い拘置所暮らしで数回しか見た事のない所長であった。俺は立ち上がって現れた所長の前に連れて来られる。そして左右に刑務官で挟まれながら所長の前に立たされた。
そして高そうなスーツを着た前に居る所長は淡々と持っていた紙を読み上げる。
「……令和元年○月×日において、死刑判決を受けた●●の死刑執行を命じる」
と、続けて法務大臣の名を読み上げた後に所長は俺の目を見た。
「何か最後に言い残したい事はあるか?」
「…そうですね。無駄だって分かってますけど言わせて下さい。――俺は、無実です」
「…胸に留めておこう。では準備を」
左右に居た刑務官は所長の合図と共に再び俺に手錠を付け、そしてアイマスクを掛けられる。
真っ暗になった視界、物静かな部屋の中で自分の吐く息の音がやたらと大きく聞こえて来る、すると佇む俺の腕を誰かが掴みそれに誘導されて俺は何処かに立たされた。
「……」
首に何かが掛けられた、当然縄なのだろう…もう何も見えないので分からないがそれしかないと理解出来る。
そして足元も縛られた俺は完全に身動き出来ない状態となった。
「執行!」
(次があるのならば…きっと…)
―――所長の大声と共に俺が立っていた床下が外れ、そして俺は意識を失った。
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