歌い手のステラ編
第9話:小さい頃は、両親がやってくれました
特にやることもなく不貞腐れていたガラガラのドアのベルがリンリンと鳴った。誰か来たらしい。ネズミ男ではないように願いつつ、ガラガラはドアを開けた。
目の前というよりも目の下位の背の高さのにこにこと笑顔を浮かべた少女が立っていた。ガラガラは少女の目の高さまでしゃがみ少女に問いかけた。
「お嬢ちゃん、行きたいお家を間違えていると思うぞ」
「ここで合っているはずだよ。サーシャお母さんとかリリーお姉ちゃんが言っていたガラガラお爺ちゃんのお家はここでしょ」
「サーシャお母さんだと!出産のお手紙を貰った覚えも無いし、それが本当なら出産祝いを贈らなきゃならないが、どうせ嘘だろう。もうちょっと分からないような嘘をつくんだな、お嬢ちゃん」
ぷくーと頬を膨らせながら、腰に手を当てて少女は反論した。サーシャの小さいころの仕草と同じだった。
「サーシャお母さんとリリーお姉ちゃんが孤児院に居た頃、ガラガラお爺ちゃんのお家に行けばご飯食べられるって言ってたもん」
あー、そういう事かとガラガラは、頭をポリポリと掻きつつ、またいつもの事だなぁと思い始めた。この少女も飯を集りに来たらしい。
「あー、結局、腹が減っているんだな。」
「サーシャお母さんの真似をしたら、自分の食べる分が無くなっちゃった。だから、サーシャお母さんとリリーお姉ちゃんからここに来れば大丈夫って聞いてたから、ここに来たの。ステラなら問題無いし、なんとかなるって言ってたもん」
ステラと名乗った少女がにっこりと笑顔で教えてくれた。
「ステラ、とりあえず儂の家に入りなさい」
ガラガラは、ステラの背を押して家に招き入れた。見る人が見れば、ちょっと人攫いみたいだった。周りに人がいなくてよかった。
ガラガラの家に入ったステラは、子供特有の無遠慮さで椅子に座った。
「何を食べさせてくれるの?」
サーシャやリリーは、もう少しお淑やかだった気がしつつ、ガラガラは台所に行き、近くにあった玉ねぎとパンを輪切りにした。玉ねぎを油で揚げ、パンの上に揚げた玉ねぎを乗せて、皿に盛りつけた。その上から適当に塩を振って、リリー仕込みの配膳方法でステラの目の前に皿を置いた。
ご飯が来たステラは一瞬嬉しそうだったが、玉ねぎを見ると眉をひそめて嫌そうな顔をした。
「玉ねぎはいらない。嫌い」
器用にパンの上にある揚げた玉ねぎをナイフとフォークで除こうとしたステラをガラガラは止めさせた。
「この玉ねぎは油で揚げているから、辛くないし、甘いはずだぞ。何がいけないんだ」
せっかく作った料理を無駄にされては叶わないと思っているガラガラは、ステラにどこが嫌いなのか聞いてみた。
「孤児院の食事でよく出てくるし、サーシャお母さんやリリーお姉ちゃんが分けてくれるから、いっぱい食べれるけど、飽きた」
いつもと変化のない食事にステラは、食傷気味な様子だった。
どうしても食べさせたいガラガラは、ステラに提案した。
「仕方があるまい、玉ねぎを食べられるように、儂が『玉ねぎの歌』を歌ってやろう」
さっそくガラガラは、軽く咳ばらいをし、声の調子を整えて、玉ねぎの歌を唄い始めた。
『油で揚げた玉ねぎを好きになろう、
美味いんだから玉ねぎを好きになろう、
油で揚げた玉ねぎを好きになろう、
玉ねぎを好きになろう、玉ねぎを好きになろう
オ・パ・キャマラード パ・キャマラード パオパオパオ
オ・パ・キャマラード パ・キャマラード パオパオパオ』
わざわざ歌ってくれたガラガラの心境を悟ったステラは、仕方なく玉ねぎを食べ始めた。流れに掉さすようにステラが玉ねぎを食べ始めた様子を見たガラガラは、疑問があったのでステラに聞いてみた。
「ステラ、もしかして今日のご飯は玉ねぎだったのか?」
「うん、そうだよ。小さい子には、いっぱい食べさせないといけないから分けてあげた」
ガラガラは、ステラの答えを聞いてちょっと考えた。もしかして、サーシャもリリーも玉ねぎが嫌いだったんじゃないかというよりも、孤児院で脈々と受け継がれる流れなのかもしれない。
年少の子のときに年長の子から沢山の玉ねぎを分けてもらうが、いつも玉ねぎを食べているので玉ねぎに飽きて、自分が年長になった時に年少の子に押し付けているのではないだろうか。
そういえば、サーシャやリリーに料理を任せたときは、まったく玉ねぎが出なかったような気がした。そうかそうだったのかと納得した。
「ごちそうさまでした」
そうガラガラが考えている横で、ステラが食べ終わったようだった。ひとまずお腹が膨れて満足しているようだった。
「ステラ、この後どうするんだ。何か予定でもあるんじゃないのか?」
ガラガラは、とりあえずステラをどうすればいいのか考えていた。
「お爺ちゃん、お話しましょう!まずは、リリーお姉ちゃんが言ってたけど、サーシャお母さんは、お爺ちゃんにとって特別らしいけどなんでなの?」
「ちょっと話が長くなるかもしれん。白湯を持ってくるから、そこで座って待ってなさい」
どうしよう、この話を知っているのは、ネズミ男くらいだ。話してもいいだろうか。あまり話すべきではないかもしれない。まぁ、いいか。
ガラガラが良く分からない得心をしつつ、時間稼ぎにいれた白湯の入ったコップをステラの元へ持って行った。
ガラガラは、軽く咳ばらいした後、話を切りだした。
「おほん、まず、町の近くに橋があるじゃろう。儂が町から外へその橋を渡っていた時には、特に何もなかったのだが、その日のうちに外から町へ戻った時、橋の下から赤ん坊の泣き声が聞こえたのだ。儂は不思議に思って橋の下を見ると、案の定、赤ん坊がいた。とりあえず儂が拾ってやらねば、人間の赤ん坊なんぞすぐに死ぬだろう」
ガラガラは白湯を一口飲んで、話を続けた。
「なんともうるさく泣き続ける赤ん坊なので、すぐに孤児院へ持っていこうと思ったのだが、探し続けたせいで、その日は既に夕方過ぎになった。仕方なく、そのままこの家に持ち帰ったのだ。しかし、赤ん坊の世話なんぞしたことが無い儂は、てんてこ舞いだった。そもそも何処にも名札がなく、名前もわからんのだから、どう呼べばいいのか分からなかった。とりあえずその赤ん坊をサーシャと名付けて、一晩中、慣れない世話を続けた。」
ガラガラは白湯を飲み干して、話を続けた
「次の日の朝、すぐに孤児院に持っていくとき、儂の指をサーシャが掴んだんだ。とても温かったことだけは憶えている。孤児院に持っていく途中、ネズミ男に会ったので、一緒に孤児院へ向かったが、今にして思えば、よく衛兵に捕まらなかったと思う。明らかに赤子攫いにしか見えなかったはずだ。あとは、サーシャを孤児院に預けて終わりだ。その日の夜は、なぜか無性にサーシャの事だけが心配だった。サーシャの名前を付けたからかもしれなかった。これでお終い」
ステラは、へぇーといった表情を浮かべて、感心しているようだった。
「つまりは、名付け親だからサーシャお母さんは特別なんだ」
「そうだ、それに一晩でも面倒をみたことだけでも赤ん坊というものは慈しみを感じるものだ」
ガラガラの表情はどこか遠い懐かしい記憶を浮かべているようだった。
「まぁ、お話を聞けたから、今日は帰るね。また来るから」
ステラはそう言うと、椅子からささっと降りて玄関から出て行った。
ガラガラは、嵐みたいな子だったなぁと思いつつ、ステラが食べ終わった食器を片づけた。その日の夢は、サーシャを拾った時から結婚するまでの思い出だった。
次の日の朝、ガラガラのドアのベルがリンリンと鳴った。誰か来たらしい。ネズミ男を呼んだ覚えが無いが、ガラガラはドアを開けた。
ステラが目の前に立っていた。また来ると言ってはいたが、まさか次の日に来るとは思わなかった。ガラガラは、子供の無邪気さに頭を抱えた。
「とりあえず、家に入りなさい」
ガラガラは、ステラの背を押して家に招き入れた。なんだか会っただけで疲れを感じた。
「ステラ、孤児院の院長はどうしたんだ」
「お爺ちゃんの家に行くっていったから、大丈夫だよ。家の近くまで送ってくれたし」
どう考えても厄介払いしたように思えた。えーと、とりあえずどうしようかと考えたが、一向に良い案が浮かんでこなかった。
「ステラ、何かしたいことがあるか?」
子供の考えることなんぞまったく分からなかったガラガラは、とりあえずステラに聞いた。
「お爺ちゃん、歌を歌いたいの、『夢のつづき』 って歌なの」
「そんな歌は知らないぞ」
「サーシャお母さんから習ったの、初めは私が歌うから憶えてね」
そういうと、タンタンと手拍子をして、リズムを取りながら、ステラは歌を歌い始めた。ステラの歌声がガラガラの家に拡がった。
そのまま、ステラは歌い続けた。歌は佳境に入ったようだ。ステラの歌を聞いていたガラガラは、忘れていた記憶が戻りつつあった。
程なくして、慣れない声でステラは歌い終わった。
ガラガラは、サーシャの結婚式を思い出し、泣いた。
「すまん、すまん。涙が止まらない。すまん、すまん」
ガラガラの鼻水は汚かったが、感動していることだけはステラにも分かった。
それなりの時間が経った後、ガラガラの涙は止まった。
ステラは、ちゃっかりと椅子に座って、コップで水を飲んでいた。
「お爺ちゃん、やっと終わった?」
「うむうむ、もう大丈夫だ」
「えーと、お爺ちゃん、ごめんなさい。そういうつもりはなかったの」
ステラは、申し訳なさそうだった。
「いや、いや、良かった、良かった」
ガラガラは、ステラに感謝したい気持ちでいっぱいだった。
「絶対に憶えるぞ、絶対にだ」
ガラガラの心にケツイが灯った。サーシャの歌だ。絶対に覚えるぞ。
「じゃあ、お爺ちゃん。一緒に練習しましょ」
その後、二人は時間がある限り、『夢のつづき』を練習した。
ステラは、上手になった。ガラガラは駄目だった。
歌の練習をしている時、ステラの指が机にぶつかって、手の爪が割れたみたいだった。
「お爺ちゃん、爪を切りたいから鋏を貸して」
「もう暗いから、明日にしなさい」
「でもでも、今切りたいの」
ステラが手足をじたばたさせて、わがままを言った。
「儂が切ってやるから、静かにしていなさい」
ガラガラは、爪切りで使っている鋏を持ってきて、ステラの爪を切り始めた。
「もう、ちょっと動くんじゃないんだぞ」
鋏でステラの指を切らないように、ガラガラは緊張して鋏を操っている。
「お爺ちゃん、ちょっと爪が曲がって痛い」
無責任にステラが抗議した。
「慎重にしなければならないんだぞ。手元が狂うと死んでしまうからな」
ガラガラは、とても真面目に答えた。
「私でも、もっと簡単に爪切りが出来ればいいのに」
「まさしく、その通りだな」
ガラガラは儲け話の匂いを感じた。だが、まずはステラの爪を整えるのが先決だった。
数日して、ガラガラは、さっそくネズミ男を家に呼んだ。すぐに話を切り出した。
「子供でも使える爪切りを作りたい。原案は既にできている」
「旦那、とりあえず試作品を作ってください。旦那の熱意は分かりました」
「そう言うと思って、ここにある」
ガラガラは、爪切りを机に置いた。
「これでどうだ。いいだろう」
「えーと、どうやって使うので?」
「ここの板バネを押し込んで、パチンと切るのだ」
ガラガラは。自分の爪を切りながらネズミ男に説明した。
「見た感じ、とりあえず売れそうですな。ともかく試作品をください。売り込みます」
パチンパチンと自分の手の指の爪を切りながら、ネズミ男は言った。
「それをやる。とにかく売らなければならない」
ガラガラは、真剣だった。
その真剣な顔を見たネズミ男は、ちょっとだけ仰け反った。なんでこんなにもやる気なのだ。サーシャはもう嫁に行ったのだ。
「ガラガラの旦那、売りに行きますので、そんなに睨まないでください」
ネズミ男は、試作品を懐にしまうと、ガラガラの家からさっさと足早に逃げ去った。面倒事には巻き込まれたくなかった。
ちょっとしてガラガラの家にステラがやってきた。ステラはやって来てすぐに話し始めた
「お爺ちゃん、歌の練習がしたいの。一緒にしようよ」
「すまんがちょっと疲れているんだ。少し眠らせてくれ」
「じゃあ、子守歌を歌うね」
ステラの歌は確かに子守歌だったが、眠れるような声量ではなかったので、結局、ガラガラは眠れなかった。仕方なくお歌の練習に付き合った。
ステラが帰ってから、すぐにベッドに飛び込んだ。すぐに眠れた。子守歌は確かに効果があった。
その後、爪切りは確かに売れたが、使い方の説明をするのに時間が掛かったし、作り直したニッパー型の爪切りの方が売れて、ガラガラは、ちょっともにょもにょした気持ちだった。ステラの為に作ったのに。
そういう考えはいけないのだろうけど、ステラはサーシャのようだった。なんとなくそんな気持ちだった。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、ステラが来た時は、歌の練習に付き合うことを決めた。
ステラが家に来た。歌の練習がしたいらしい。『夢のつづき』を一緒に歌った。なんど歌っても上達しないので、一緒に市場に行った。
歌える人を探すために、道端で恥ずかしながら一緒に歌った。みんな奇妙なものを見るようだった。だけど、何回か歌うにつれ、市場の奥様方が暇つぶしがてらに歌ってくれた。それにつられるように、奥様方に背を叩かれた旦那さんも歌ってくれた。
みんなで歌ったので、衛兵が何事かと飛んできた。良く分からないが、問題ないと思ってくれた。お偉い人達は他に事件が起きたようで、すぐに別の事件現場に行った。取り残された若い衛兵は、手持ち無沙汰になったので、一緒に歌ってくれた。
よく分からないが、市場の皆で歌うことになった。ステラと市場の皆は上手くなった。ガラガラは駄目だった。ちゃっかりといたネズミ男は、むさ苦しい風貌に似合わず、音程はいいし、リズムも良かった。一番目立っていた。爪切りがよく売れた。
とりあえず、ガラガラとステラとネズミ男の三人は、市場でやりきったのでガラガラの家に戻った。ガラガラとネズミ男は儲けた金の話をしていたが、ネズミ男は疑問に思ったようで、ガラガラに聞いた。
「ところで旦那、このじゃりん子は誰ですか?」
「サーシャの子供だ。ステラという」
「ついに旦那も耄碌したのですかい、サーシャにはまだ子供はいませんぜ、ちょっとお腹が大きくなったくらいですよ」
「まだ耄碌しておらんわ、まて、サーシャのお腹が大きくなっただと!そんなこと手紙に書かれていなかったぞ」
「あれ、もう聞いているものだと思っていましたが、サーシャにはあとで謝っておきますので、聞かなかったことにしておいてください」
ネズミ男は、渋々頭を下げた。きっとサプライズだったんだなぁと思いつつ、手遅れだった。
サーシャの事だったので、案の定ガラガラは暴走した。
「ネズミ男。出産祝いは何がいいんだ!儂には分からないぞ!」
「旦那、まだ生まれていない子供のことを考えても仕方がないですよ。どっしり構えてください。サーシャには、もちろん手紙を出さないように。知らない振りをしてください」
ネズミ男は、一応そう言ったが、どうせ止まらないんだろうなぁとも思った。
ステラが言った。
「玉ねぎは駄目だよ。蕪とか芋にしてね」
ステラ自身が食べたいものだった。だが、こういう生ものはその日に食べられるものが喜ばれた。近所におすそ分けして、交流するのだ。それが何よりもサーシャの助けになるはずだった。
幾月か過ぎて、ガラガラの元に子供ができたというサーシャからの手紙が届いた。郵便屋に代わりステラが届けてくれた。手紙を受け取ったガラガラは叫んだ。
「うおー、うおー」
お爺ちゃんうるさいとステラは思ったが、サーシャお母さんはお爺ちゃんにとっては特別なのだからと納得した。だけど、ちょっぴり寂しかった。なんで、私には両親がいないのだろう。
ガラガラの叫びが終わった後、ガラガラはステラにネズミ男を呼ぶようにお駄賃を掴ませて頼んだ。ステラはもにょもにょと思いながら走っていった。
それなりの時間が過ぎて、はぁはぁと息を切らせながらネズミ男がやってきた。一緒に来たステラはピンピンしていた。ネズミ男がガラガラに何かが書かれた紙を手渡した。
「旦那、とりあえずこのリストに出産祝いで贈る物を纏めています。お金と相談して決めてください。ただし、一つだけです。全部なんて言わないでください。贈られる方も迷惑なので」
ガラガラは、リストを眺めつつ、真剣に悩んだ。どれがいいだろ。これかあれかいやいやこれだろう。そもそもネズミ男のリストが正しいのか。あいつのことだから、大丈夫だろう。
サーシャと結婚したあの気立て良い男の事だから、これ位は持っているはずだ。どうしよう。まったく思いつかない。駄目だ駄目だ。どうしようもない。誰かに助けてもらないと。
悩んでいる間にネズミ男が去っていたことを気付かなかったガラガラの目の前にステラがいた。
「助けてくれ、ステラ。サーシャは、どれを貰ったら嬉しいんだ」
「そんな簡単なことも分からないの、お爺ちゃん。お義父さんから貰えると何でも嬉しいものだと思うけど。気持ちが大切らしいよ」
自分は貰ったこと無いけどと思いつつ、ステラはちょっと悲しそうに答えた。
「そうか、そうか、その通りだな」
ステラの言葉に納得したガラガラだったが、結局思いつかなかったので、蕪と芋を贈ることにした。ついでに、子供用にカトラリーも作って贈ることにした。これでいいはずだ。
ステラと一緒にガラガラの家の倉庫へ行き、ガラガラは子供用のカトラリーを作り始めた。ステラは隣でその様子を眺めていた。程なくして子供用のカトラリーが二組出来た。
「お爺ちゃん、サーシャお母さんが産んだ子供は一人だよ。カトラリーの数、間違えてない?」
二組の子供用のカトラリーを指さしながら、ステラはガラガラに指摘した。
「一組はサーシャの子供用だが、色々と世話になったから、もう一組はステラ、お前さん用だぞ。」
頬を掻きつつ、ガラガラは感謝の気持ちを込めながら答えた。
「とりあえずステラのカトラリーは、今包んでやるから、ちょっと待っていなさい」
そういうと、ガラガラはステラ用のカトラリーを綺麗に布で包んで、ステラに渡した。
「ありがとう、お爺ちゃん。大切にするね」
カトラリーを受け取ったステラは飛び上がりたくなるくらい嬉しかった。実際にカトラリーを持ちつつ、嬉しそうにきゃあきゃあと言いながら、ガラガラの周りをぐるぐると走り回っていた。とても興奮した様子だった。
ちょっとの間、ぐるぐると走り回っていたステラだったが、流石に疲れたようだった。ガラガラは、とりあえずステラを連れて、一緒に家に戻った。二人で白湯を飲みつつ、サーシャの子供について話し合った。たしかサーシャの子供は男の子のはずだった。どんな子に育つのだろう。元気な子だろうか、理知溢れる子供になるのだろうか、今から将来が楽しみである。
ステラとガラガラは、長いこと話し合っていたので、すでに夜になっていた。ステラは、ガラガラの家に泊まることにした。ガラガラと一緒に料理をした。もちろん、玉ねぎを使わない料理にした。二人でどこか温かい感じのする食事をした。
ステラはいつもと違うベッドで慣れなかったが、今日はいっぱい動いたので、疲れからかぐっすりと眠れた。その日の夢は、ステラが喜びながらふわふわとお空を飛ぶ夢だった。手には貰ったカトラリーがあった。
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