第2話:昔も今も重労働です。
暖かくなりつつある日のこと、相も変わらず髪と髭が無くなったドワーフのガラガラが道を歩いていた。その頭は日光が反射し、キラリと輝いていた。
まだ競馬に行っていないので、ガラガラの懐は温かった。
ガラガラが家に帰ると、家の前で髪の短いサーシャが近くの切り株に座っていた。サーシャは、ガラガラに用事があるようだった。
「多分、そろそろ髪と髭を売る時期だと思ったけど、正解だったみたい」
サーシャは、足の埃を払いながら立ち上がりガラガラに呼びかけた。
「飯の集りなら、少しだけ余裕があるが、一緒に食べるか?」
「今日は、ご飯のお誘いじゃなくて、お手伝いのお誘いでーす」
顔の目の前で横ピースサインをしながら、顔を突き出すように体を曲げて、朗らかにサーシャは答えた。
「お手伝い? 何がしたいんだ?」
訝し気にガラガラは、サーシャに聞いた。
「そろそろ月曜日です、お洗濯の日が近づいているので、私がおっちゃんのお洗濯をお手伝いしたいと思います。ついでに、お駄賃も下さい」
サーシャは、ガラガラに胸を張って手の平を差し出しながら答えた。
「そういえば、そろそろ洗濯の日だったような気がする」
ガラガラの住む町では、基本的に月曜日に洗濯する文化があったが、それは町に住む女性が洗濯場でおしゃべりをするついでのものだった。ガラガラのような独り身にとっては、洗濯物を溜めに溜めてから、金があれば洗濯屋に頼むか、金が無ければ仕方なく利用者が少ない時間に洗濯場に行くのが常識だった。
「先週に見かけたときから、服装が変わっていなかったから、もしかしてと思って。ついでに、髪と髭が伸びてきていたから分かったんですよ」
「今は懐が温かいから、洗濯屋に頼もうと思っているのじゃが、サーシャ一人でお手伝いするのは、ちょっと難しいんじゃないのか?」
ポケットからお金を取り出し、どうしようかと悩むガラガラ。
「そこのところは大丈夫でーす。孤児院の皆でお手伝いするけど、私の分のお駄賃だけで問題無いから、そこら辺の洗濯屋よりもお安くできますよ」
サーシャの返答を聞いたガラガラは少し考えながら言った。
「ちょっと待て。孤児院の皆でお手伝いするだと、いや、もしかして、孤児院の分の洗濯ついでに儂の分の洗濯をするというよりも、一人じゃ出来ないから、儂に孤児どもの面倒も見させるつもりか!」
「あら、良く分かりましたね。花丸でーす」
サーシャは、悪びれず笑顔を浮かべた。
ガラガラとしては、洗濯屋に頼むのが一番面倒無いと思っているが、町人に何かと人気があるサーシャの頼みとあっては、少々悩む。可愛いは正義なのだ。
仕方なくといった顔をしながら、ガラガラは、サーシャ達に洗濯の手伝いを頼むことにした。
「それじゃあ、天気が良ければ、今度の月曜日に洗濯物を皆で取りにくるから、忘れないでね。本当だよ」
サーシャは、しめしめ上手くいったというような笑顔で手を振りながら、去って行った。
ひとまず、家に戻ったガラガラは、洗濯物を確認することにした。一般的な男性の洗濯物よりも鍛冶仕事があるガラガラでは、洗濯物の汚れが酷かった。あと、臭いもきつい。このまま洗濯場に持っていくと奥様方から小言を貰うこと間違い無しなので、適当に軽く洗える分だけ洗ってみた。すごい汚れだ。こんなにも溜めた奴は誰だ。
月曜日になり、ガヤガヤと子供の話し声が聞こえたので、ガラガラは目を覚ました。そういえば、何か忘れていた気がしたが、思い出す前に扉のベルが来客を告げた。
「おっちゃん、おはよー。約束の洗濯日和の日だよ。今、孤児院の皆と来たから、早く洗濯物を出してね」
寝ぼけ眼を擦りながら、ガラガラは洗濯物を準備し、サーシャ達に渡せる分だけ渡した。
「これが今回お願いして渡す分」
サーシャ達は、各々持てる分だけ洗濯物を持ち始めたが、その悪臭に気分が落ちていた。
「おっちゃん、今度からはもう少し早く洗濯した方がいいよ。ちょっと臭いがきつい」周囲の孤児達が頷いている。
悪臭を撒き散らしながら、町の中の洗濯場までたどり着いた。洗濯場は、既に奥様方が集まっておしゃべりをしながら洗濯をしていた。洗濯場の構造は、屋根がある建物の中に洗濯用とすすぎ用の水が絶えず流れる二つの大きな腰の高さ位にある洗面器と濡れた洗濯物を叩き洗いや、こすり洗いができる洗面器に向かって傾斜した石のタイルが付いていた。
「ふー、やっと到着した。孤児共がわちゃわちゃしなければ、もっと早くに着いたものなのに」
ガラガラは、やや草臥れた様子で呟いた。
「それも含めての私のお駄賃代でーすよ。さぁ、皆手分けして洗濯するよ」
サーシャは、パンパンと手を鳴らしながら、連れてきた元気な孤児たちに向かって言った。孤児たちは、あらかじめ決めていたらしい役目毎に洗面器に散っていった。
「とにかく儂も洗濯するとしよう」
洗濯物をまず、洗濯用の洗面器に漬け濡らす、タイルに叩きつけたり、タイルの溝でこすり洗いをした後、水で濯ぐ。石鹸水は、いささか予算が無かったので、今回は特に汚れが酷い洗濯物にのみ使用することにした。
濡れて重い洗濯物を叩きつける作業がなかなかの重労働なので、踏んで洗う場合もあるが、今回は、足踏み用の桶は、孤児達に取られてしまったので、仕方なく無言で洗濯物を叩きつける。少し経つと、孤児達が遊び始めるので、見守るついでに隣で洗濯することにした。
一方で、サーシャは、器用に孤児たちの面倒を見つつ洗濯し、抜け目なく奥様方の会話に入って、次のお手伝い先を探しているようだった。
太陽が真上に来る前に何とか洗濯ができた。あとは、天日に干すだけだが、濯いで脱水したとはいえ、濡れた衣類は重いものである。今回は、仕方なくガラガラの家に持ち帰らず、孤児院で一緒に干すことにした。
「さてと、晴れているうちに洗濯物を干しますか」
サーシャは、物干し竿を物干し台に乗せて、衣類を干す準備を始めた。
ガラガラは、衣類の相手よりも孤児達の相手をしなければならず、困っていた。
どう考えても利用された感じがするなぁと思いつつも、これはこれで何かと楽しかった。
どこからか戻ってきた孤児院長とサーシャが洗濯物を干し終わると、昼食の時間となった。ガラガラは一緒に食べようと提案する孤児院長の願いを固辞し、洗濯物の配達を頼み、自宅に帰って行った。
さすがに、困っている孤児院の食料を減らす行為はどうかと思っていたので。
夕方になる頃、家のベルが鳴った。玄関先には、洗濯物を抱えたサーシャが立っていた。
「とりあえず数日分を持ってきたよ。後の分は、また今度乾いたら持ってくるよ」
「ひとまず家の中に入りなさい。温かいといっても、もう夕方なのだから、そこでは寒いだろう」
ガラガラは、サーシャを家に向かい入れた。
「今は、白湯しかないから、これを飲んでから帰りなさい」
「分かったよ。おっちゃん。あと、今日はありがとうね。いつもなら院長とか年長の子がいるはずなんだけど、皆予定が合わなかったみたいで」
白湯を飲みながら、サーシャは弁明した。
「まぁ、そういう事だろうと思ったわい。今日のお駄賃は、こんな感じでいいかな?」
ガラガラは、小さな袋をサーシャに向けて、渡した。
「貰えないかと思ったけど、貰えるなら貰っておく。いつもありがとう」
申し訳なさそうにサーシャは、控えめにお駄賃を受け取った。中身を覗いて、ちょっと多い気がしたけど、黙っておいた。
「そういえば、奥様方とは何を話していたんだ?」
「いつも洗濯が辛いとか、もっと簡単に洗濯ができるようになれば、もっと他の時間に作業を割り振れるのにとか、あとはお手伝いのお願いとか、よくある近所の噂話とかかなぁ」
サーシャは、捲し立てるように話した。
「そろそろ帰らなくちゃ。おっちゃん、さようなら、またね」
ベルを鳴らしながら扉を開き、手を振りながら、サーシャは孤児院へ帰って行った。
ガラガラは、いつもの癖で絡繰りを考えていると、なんだか洗濯に関する絡繰りが作れるような気がしたので、倉庫に向かった。前回作ったはいいが、ガラクタの皮剥き器をばらした。まずは全体の構造から考えてみる。
「そもそも洗濯の工程は、石鹸水とかで洗濯→水で濯ぐ→脱水の3工程のはずだ」
倉庫にある適当な紙に工程を書いてみる。
「まず、洗濯をするという事は、洗濯したものを叩きつけるか踏みつぶす必要がある。ということは、洗濯物を持ち上げて落とすか、何度も何かで衝撃を与える2種類があるはずだ」
「次に水で濯ぐという事は、そのままの意味で、何かの容器に水を入れてから、どうにかして洗濯物を濯いでやればいい」
「最後に、脱水は簡単だ。普通は洗濯物を振り絞って水を出すが、結局のところ、何らかの機構で洗濯物を押しつぶせばいい」
とりあえず一番簡単そうな脱水の工程を考えてみたが、ただのワイン圧搾機の機構を流用するだけで良さそうだという結論に至った。
次の日、市場で適当に材料を買ってきて、以前、皮剝き器は大型にして失敗した経験を元に、今回は小型を心がけて、脱水機を試作してみた。桶の底に脱水するための穴を設け、その桶の直径よりも小さい蓋を作った。
洗濯物を入れた後、誰かが蓋の上に乗るだけで、ある程度は脱水できるだろうとガラガラは思った。もっと脱水するためには、より圧力をかける必要があるが、ひとまずこれで良しと判断した。構造が簡単な方が、普通の人には使いやすいだろう。
数日後、さて、洗濯と濯ぎの工程は、水を貯める必要があるが、これも簡単に解決できそうと思った。水を貯めるには、一般的に樽か桶、陶器の壺くらいしかないのだから、入手しやすく加工しやすい樽にしてみようと思った。
樽を横向きに設置できるように中心に穴を空け、樽と一緒に回るようにハンドル付きの軸を付けた。軸受けと土台の上に樽を乗せ、軸をハンドルで回転させると、考えた通りに樽が回転した。樽の側面に洗濯物と水を入れる投入口をつけて、中身が飛び出さないように入口を固定する機構をつけた。
翌日に倉庫で簡単な試運転を行うことを予定しつつ、疲れたガラガラはベッドで泥のように眠った。
曇り空の次の朝、ノックの振動でベルが激しく鳴った。ガラガラは、折角寝ていたところだったが、ベルがうるさいのでドアを開けた。呼んでもいないのに、家の前でネズミ男が入口のドアをノックしていた。
「ガラガラの旦那、何やら市場で色々と買っているみたいじゃないですか。何やら金儲けの匂いがしたので、色々とご協力できればと思い、参上した次第です」
「こんな朝から大変だな、ご協力といっても、今のところ、何かしらして貰うようなことは……あった」
「へぇ、なんでも言ってください」
ガラガラは、ネズミ男の服装を舐めるように見る。明らかに汚い。
「よし、その汚れた服を今すぐ脱いで裸になれ」
「ひぇ、嘘ですよね。旦那にそんな趣味があったなんて、お尻を隠さなきゃ」
ガラガラは、逃げようとするネズミ男の襟首をドワーフ自慢の怪力で捕まえると、倉庫に引きずって行った。
「ひぃ、旦那、それ専門の方を呼びますので、後生だから諦めてください!」
「お前の体には興味は無いが、お前の服が必要だ!」
「旦那、なんだかもっと悪くなっている気がします!」
ガラガラは、一通りの誤解を解いた後、結局、肌着以外のネズミ男の服を奪った。ネズミ男の分だけでは、洗濯の試験には足りないと思ったので、自分の服も脱いだ。肌着のみ着ているネズミ男は、悲惨な顔を浮かべながら、ガラガラの試運転を見守った。
まず、ガラガラは、洗濯用の樽の投入口に、ちょっとした石鹸水とそこそこの水を流し込んだ。次に汚れた男達の服を入れた。入口を閉めて、ハンドルを回すと、樽が回転し、ジャボジャボと水がかき回される音がした。
腕が疲れる位の時間が経った後、入口から服をトングで取り出した。独身男から見た様子では、綺麗になっているようだった。その後、水を捨ててみると、濁っていたので、とりあえず服が綺麗になったことが分かった。
次に、再び樽の中に水を流し込み、濯ぎの準備をした。濡れた服を樽の中に入れて、入口を閉めた。先ほどの洗濯で腕が疲れていたので、ネズミ男にハンドルを回させようと考えた。
「そこでそんな恰好のままでいると、寒いだろうから、このハンドルでも回して体を温かくしたらどうだ」
ガラガラが心配してというよりも命令に近い提案に頷くしかなかったネズミ男は、ハンドルを回し始めた。
「ちょっと旦那。このハンドル重くありませんか?」
ネズミ男の顔が赤くなっている。
「最初だけ力がいるが、回り始めたらなんとかなるはずだ」
ガラガラは、洗いそびれた汚い手ぬぐいで汗を拭きながら答えた。
ネズミ男がなんとかハンドルを1回転させると、水がかき回される音が聞こえ始めた。
幾分かネズミ男がハンドルを回し続けたのち、濯ぎの成果を見てみることにしたガラガラは、樽の入口からトングで服を取り出し、脱水用の桶に投げ入れた。
水を捨ててみたが、独身男の二人には、濯ぎの成果は良く分からなかった。これに関しては、奥様方か洗濯屋に聞いてみるしかないだろう。
最後に、ガラガラは、脱水用の桶に蓋を被せ、蓋の上に立ってみたが、あまり脱水されていないような気がしたので、飛び跳ねたりしてみたが、あまり効果は無かった。
「よし、ネズミ男、この桶の蓋の上に乗るんだ」
「旦那と一緒に蓋に乗るんですかい。私の姿を見て本当におっしゃっているので?」
自分の貧相な姿をガラガラに見せながら、ネズミ男は質問した。
「そうだ。この桶の中に儂と二人で入るんだ」
こういう時のガラガラは絶対に意見を曲げないことを知っていたネズミ男は、しぶしぶと桶の中に入った。どうかこのむさ苦しい姿を誰にも見られないようにと願いつつ。
二人の男の重さで、桶の底から先ほどよりも、もっと水が出てきた。水が出なくなるまで、二人で立っていると、玄関の方からサーシャの声が聞こえてきた。
二人は、慌てて桶の外に出ようとしたが、足がもつれあって盛大に転んでしまった。その音を聞いたのだろうサーシャが倉庫にやってきて、二人のむさ苦しい姿を見てしまった。
「おっちゃん達がそんな関係だったとは!」
サーシャは冗談のように叫んだ。おなかに手を当てて笑っている。
なにかといたたまれない気分の二人は、立ち上がって、とりあえず脱水の成果を見ることにした。何をしているのか気になったサーシャが二人の後ろから覗き込んだ。
「これ何?」
「洗濯する絡繰りの一つだ。いつも絞って洗濯物から脱水しているが、こいつは、立っているだけで脱水できる」
「へぇー、便利そうだね」
「旦那、一応は、脱水出来ているみたいです。ほら、服を持っても水が滴らない。ところで、旦那、この濡れた服は、どこで乾かすので?」
ぺしゃんこに潰れた自分の服を持ちながらネズミ男は言った。
「家の炉で乾かそう。とにかく寒くてかなわん。ほら早く行くぞ」
自分の分の服を桶から取り出しながら、ガラガラは答えた。奇妙な恰好をした二人と少女一人の三人は、家の中に入った。サーシャが気を利かせて、炉に火をつけている間、二人の男は洗濯機の儲け話を始めた。
「炉で服を乾かしている間に、これが売れるかを考えよう。どう思う、ネズミ男」
「はっくしょん! 洗濯場に置いてみて、奥様方の評判を聞いてみる必要がありますが、洗濯屋には、売れるでしょうな。ただし、あのハンドルの重さを如何にかしないと扱える人間が限られると思います。とにかく回し始めが重い」
「少しだけハンドルの長さを伸ばしてみよう。若干だが効果があるはずだ」
「まぁ、とにかく、まずは服を着てから考えましょう。寒くて考えが纏まらない」
ネズミ男は、体を震わせてながら、提案した。
「仕方がない。服が乾くまで待つか」
「おっちゃん達、可愛いサーシャちゃんが白湯を持ってきてあげたから、これでも飲んで温かくしたら?」
湯気が出ているコップをサーシャがお盆で運んできた。
むさ苦しい男二人がコップを受け取り、その温かさを満喫していると、サーシャが首を傾げて聞いてきた。
「さっきの話だけど、洗濯場にあれを置くとして、誰が買うの? 洗濯場は皆のものだよ?」
「あっ! そういえばそうですよ、旦那。財布の紐が固い奥様方が買うはずありません。一人で使う訳にもいかないですし、共同購入でも誰がどういう負担になるかで揉めるでしょうよ」
「ということはだ。洗濯屋に売るしかないのか」
「もしくは、自宅で洗濯するような金持ちや好事家位でしょうな」
「あっつ。そこら辺は、もうネズミ男に任せるとしよう」
舌を火傷しつつ、白湯を飲みながら、投げやりにガラガラは答えた。
「そろそろ服が乾いたころですな。今日のところは、お暇させていただきます。明日、もっと話し合いましょう」
ネズミ男は、若干生乾きの服を急いで着て、家から出て行った。
サーシャがテーブルの席について、抜け目なく自分の分に注いだ白湯のコップを手に聞いてくる。
「面白そうだから、今度洗濯屋さんに説明するとき、一緒に付いて行っていい?」
「別に構わん。なんだこれ、まだ生乾きじゃないか!」
ネズミ男が服を着たので、もう乾いていると思ったガラガラだったが、じっとりとした感触にげんなりした。
「前に洗濯して、今日持ってきた乾いた服があるから、そっちを着なよ」
洗濯物を指さしながら、サーシャは、したり顔で言ってから、手を振りながら帰って行った。
いそいそとサーシャが持ってきた服を着て、なんだか疲れた気分のまま、ガラガラはベッドに飛び込んで寝た。
ガラガラとネズミ男が儲け話を数日煮詰めてから、洗濯機を持っていけなかったので、洗濯屋を倉庫に連れてきた。必死にネズミ男が洗濯屋に説明しながら、ガラガラが実演した。ニコニコ笑いながら、サーシャは近くでただ立っていた。
二人は、それなりに好評だったと感じたが、いくつ売れるかは、何とも言えなかった。
ちょっと日にちが経って、数台洗濯機が売れた。その後、徐々に洗濯屋の口コミで売れる台数が増えていったが、結局、構造が簡単だったので、他の工房でも作られるようになってしまった。
しかしながら、売れなかった訳ではないので、ガラガラとネズミ男は、それなりに儲けた。儲けを折半するためにネズミ男がガラガラの家に訪ねた。
「旦那、今のところの儲けを持ってきましたので、確認してください」
そう言うと、ネズミ男はお金の入った袋をテーブルの上に置いた。
「ネズミ男のことだから、そこまで心配していないが、一応、確認しよう」
ガラガラはお金を数えた。特に問題はなかった。
「そういえば、どうしてこんなにも売れたのだろう? 何かきっかけがあるはずなのだが」
ガラガラは、ネズミ男にふとした疑問を話した。
「それがですね、旦那。聞いて驚かないで下さいね。なんと我々が実演と説明しただけで売れたと思っていたのですが、決め手はサーシャが隣で笑っていたからだそうです」
ネズミ男は本当におかしな気分でくすくすと笑いながら、話した。
「なんだと! そんな些細なことでか!」
「我々があまりにも必死な顔だったので、少し不安だったそうですが、隣でサーシャが笑っていたので、なんか安心して買える気持ちになったそうです」
「うーむ。そうなるとサーシャにも何か渡した方が良さそうだな」
顎に手を添えてガラガラは悩んだ。
「旦那ならそう言うと思いまして、それなりに日持ちするお菓子を買ってきましたので、今度来た時にでもサーシャにあげてください」
ネズミ男は、鞄からちょっと綺麗な包装をした箱を出して、テーブルに置いた。
「何だか綺麗な小包だが、そうすることにしよう」
何やら準備がいいなと思いながら、ガラガラは了承した。
「では、旦那。今日はこれでお暇させていただきますね」
ネズミ男は、立ち上がり玄関に向かった。
「今度、酒でも飲もう」
ネズミ男を見送りながら、ガラガラは冗談を言った。
「二人とも下戸じゃないですか!」
笑いながら、ネズミ男は鷹揚に去って行った。
ガラガラはテーブルの上のお金を見つめつつ、このお金を何倍にしようかと思いながら、明日の競馬の出走予定馬を思い出していた。
なんだか運が向いているような気がする、儂自信に今追い風が吹いていると思いつつ、明日を楽しみにしながら眠りについた。
次の日、ガラガラは、生活費を除いて全てのお金を失った。
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