進む路

「次の春から、皇宮警察学校に通おうと思っているんだ。」

「えっ……!」


 紡の言葉に驚愕の声を上げたのは、絃ではなく麟の方であった。


「待ってくれ紡、それじゃあ道場にだって……」

「そうだな、通えなくなる。だから、時を同じくして剣術は辞める」


 言葉を失った麟の様子に、紡は胸を痛めながらもそれを覆すことはない。


「……つむ。それは誰かに強制されてのことではありませんか?つむが望んだ事ですか?」

「ああ、俺自身が決めた事だ」

「そうですか。なら、絃は応援します。勿論、寂しいですけどね」


 絃は紡に微笑んでみせる。

 彼女にとっては、この神社の階段で蹲っていたあの日の少年が未来へ歩いてゆけるのならば、これ以上に嬉しいことはないのだ。


「でも、たまには元気な顔を見せてくださいね?時々でいいので、お話も聞かせてください」

「それは、必ず。」

「……。」


 未だに呆然と立ち尽くしたままの麟は、二人の会話をどこか遠い世界の話の様に聞いていた。

 絃もそんな彼の様子を気にしているのか、紡と顔を見合わせている。


「話は、それだけだ。まだ半年以上も先のことだけど……二人には伝えておきたくて」

「ありがとうございます。絃は、承知致しました。」

「俺は……。」


 納得出来ない様子の麟に、紡はどうしたものかと小さくため息をつく。

 そして彼の手を取り、軽く引きながら言った。


「途中まで一緒に帰ろう。」

「……うん」


 こくりと小さく頷いた麟を連れて、紡は境内を出る。

 絃はその二人の背中に、小さく手を振って見送った。

 彼女が見た麟の心の桜の萎み具合は、実に悲壮なものであった。

 彼にとっての紡の存在が途轍もなく大きなものだということには気が付いていたが、紡本人が遠方に赴く事を望んでいる以上、絃には彼を引き止める理由もない。

 三人で過ごす日々は、とても心地よいものであったが……いずれまた、同じように集まれる日が来るだろう。


 絃はただ、麟が紡の決心を受け入れられることを祈っていた。

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