第42話 海よりも深い愛を探して これが愛2
「うがー、うごー。怪人だぞー」
と、突然入り口から剛が入ってきた。ショーの時の姿で、である。何やら手にはピンクの何かを持っている。
「な、なんだ」
びっくりする白馬が声を漏らす。
「戻れ戻れ戻れ」
剛が、外に出ようとする白馬と春恵を押し戻す。そして、ベッドルームまで来ると剛がピンクのそれを愛海へ投げた。
「着替えとけ」
「剛さん」
「なんだ貴様は」
ケンがそう叫ぶ。
「貴様はだまっとれ」
そう言いながら、本気のパンチがケンに炸裂する。軽く吹っ飛ぶケン。
「な、なんなんだ君は」
白馬が怯えたように部屋の隅にいる。
「見てわからんのか、怪人だボケ」
剛がそう言いながら窓の方へ行き、カーテンと窓を開ける。
「な、何をやってる」
その行動があまりに不可解で白馬は疑問を口にした。
「援軍を呼ぶんじゃボケ。ほら、もう良いぞ」
剛がそう叫ぶ。
「てめぇ、よくもやりやがったな」
そこで、ケンが剛に襲いかかるが。
「ミネラルブルー、見斬首」
と、上の階から戦隊の衣装の達彦がワイヤーを使って跳び蹴りしながら入ってくる。それがケンにヒットする。
「ぐふっ」
ケンは先ほどよりも盛大に吹っ飛んだ。
「たつ、ひこ」
愛海が呆然とそう言った。
「愛海、早く着替えるんだ」
達彦がそう言っている間に白馬が外に逃げ出そうとする。
「行ったぞ、レッド」
すかさずブルーが叫んだ。
「ミネラルレッド、大事な仲間は俺達が守る」
逃げる白馬をボコボコにしながら、守が入ってきた。やはり、戦隊の衣装だ。
「わ、私は関係ない」
そう言って、今度は春恵が逃げようとする。
「イエロー」
レッドが、白馬を抑えながら叫んだ。
「関係ないわけないでしょ。ミネラルイエロー、参、上」
イエローこと静香が春恵を捕まえて連れてくる。こちらも衣装だ。
「て、てめら、もう許さねえ」
と、その間に回復したケンが再び
「ヒュイッと見参。ミネラルグリーン」
窓からワイヤーを使って現れたグリーンのドロップキックを受けて盛大に吹っ飛んだ。と、さすがに気絶したらしい。
「なんなんだ。離してくれ。僕が何をした」
白馬がレッドの拘束の中で説明を求める。
「俺達の仲間を騙した」
剛がそう冷たく言い放つ。
「仲間、騙した。何のことだ」
白馬には見当がついていないらしい。
「しらばっくれるな。お前は愛海を騙しただろうそく」
達彦が言う。
「ああ、愛海の仲間か。それがどうして」
「探偵に頼んだのよ。あんたという人物を調べるためにね」
と、磯野マネージャーが来た。
「あ、あんたはさっきの」
春恵が反応する。
「どうもー、さっきぶりー」
磯野マネージャーは余裕の表情で返す。
「あんたは誰だ」
次から次へと人が出てきて混乱を隠せない白馬。
「そこのブルー、こと達彦君のマネージャーよ」
「なんで、そのマネージャーが僕のことをーーあっ、あの時の愛海の元彼か」
そこで、ようやく達彦のことを思い出す白馬。
「そうだ。君がリーセントのナンバーワンだってことは知ってる。大人しく観念するんだな、だんな」
達彦が言う。
「だからどうしたと言うんだ。君たちは警察ではない。これは立派な暴行罪だ」
白馬が虚勢を張る。
「ばーかちゃんと警察呼んでるよ。今頃順が手配してる所よ」
「捕まるのは君たちだと言ってるんだ。愛海とのことは一つの恋来の延長でしかない」
白馬は余裕の様子でそう言った。
「そろそろ、準備出来たか、愛海」
剛が言う。
「うん、でもこんなものを着ろと」
愛海が戦隊姿で現れる。
「僕が見たかったからだよ愛海」
達彦が応える。
「達彦が、どうして」
愛海は不思議そうに頭をもたげる。
「昔の元気はつらつだった愛海に戻って欲しくて」
「昔の、私に」
昔の自分に自信が持てなくなっていた愛海はその意外な言葉に驚きを隠せなかった。
「そう、僕のギャグを足蹴にしてた時の君忍者」
「私忍者じゃないし、ギャグは嫌いなんだけど」
そういう愛海は少し笑ってるようだった。
「そうなのか、七月七日、七夕気分でるんるんルンバ」
「今日、七月七日じゃないよ。全くもう」
愛海は何だか温かいものを胸いっぱいに感じていた。大嫌いなギャグを聞いているはずなのに、こんな気持ち初めてだ。
「やっぱり僕には君しかいない。お願いだから僕のパートナーになってくれんが」
「人に頼む時くらいギャグは止めなさいよ。はあ、懐かしいね」
愛海と達彦はいつもそんなやり取りをしていたものだ。そう思うと、懐かしくてたまらなかった。確かにあの頃は楽しかった。ギャグは嫌いで、王子様だとも思っていなかったけど、達彦はいつも愛海を守ってくれていた。何かそのことを思い出すと、無性に達彦が愛おしく見えてくる。脱出ゲームの時も、今も身を挺して私を守ってくれている。私の王子様。そんな言葉が頭に浮かぶ。
「だって、愛海に突っ込まれたい問答無用」
「はあ、しょうがないなぁ」
そう言って、愛海はふふっと笑った。
達彦はいつも愛海を普通の人以上に大切に扱ってくれた。周りが愛海を奇特な目で見る中、達彦は愛の目で見ていてくれた。それが自覚されてくる。
「そうなに言うならパートナーになってあげるよ」
愛海は笑顔でそう言った。
「やったぁ、良かった。愛海がいれば百人力だ」
達彦が飛び跳ねる。
「こら、語尾はどうした語尾は」
愛海が語尾を忘れている達彦に突っ込んだ。
「君のことを愛してルンバ」
「はいはい、わかったわかった。語尾気持ち悪いぞー」
もう、愛海は冷たくあしらうことはしない。
「本当に、愛してるよ」
と、いきなり達彦が真顔で愛海の前でひざまずく。
「えっ」
愛海は戸惑いを隠せない。
「結婚してくれ。幸せにするから」
そして、達彦は愛海の手を取ってキスをした。
「う、うん」
愛海は今までで最高のロマンスを感じながら、その言葉にそう応えた。
「よし、話はまとまったようだな。じゃあいつもの、昔の調子で頼むぜ愛海」
少しの後に、剛がそう促す。
「えっ、あっ、うん」
いつのまにか達彦をじっと見つめていた愛海が我に返る。そして、息を吸ってこう言った。
「時に世界のヒロイン、時に悲劇のヒロイン、時に達彦のヒロイン。白馬の王子を見つけた私は最強よ。ミネラルピンク、愛海」
「出たー、長い台詞。待ってましたー」
剛が歓喜する。
と、そこで、サイレンが近付いてくる。
「ということで、年貢の納め時ね、龍」
愛海が元彼に対峙する。
「だから、捕まるのは君たちだって言ってるだろ」
白馬は段々余裕を取り戻してきているようだ。
「そのことなんだけど」
磯野マネージャーが横から入ってくる。
「リーセントの悪行は全て調べがついてるのよねー、今回のことも音声データがある程度取れてるし」
そう言って、春恵の鞄から盗聴器を取り戻す磯野マネージャー。
「貴方のやったことは立派な犯罪よ。女性を監禁して手込めにしようとしたんだから。私達はそれを助けただけだし」
そう宣告する。
「その通りだ。お邪魔するよ」
とここで、警察の方が入ってくる。
「盗聴器から色々聞かせて貰ったけど、どうやら私が逮捕すべきなのは白馬君、君たちの方みたいだね」
「わ、私は関係ない。何も知らなかった」
春恵が抗議する。
「犯罪を見逃すのも立派な犯罪なのだよ。詳しく話は聞かせて貰うから、覚悟しておいてくれるね」
そう言われてしゅんとなる、春恵。
「そんな」
白馬もさすがに観念したようである。
「では、ご協力に感謝致します。ミネラル戦隊の諸君」
そう言って、警察の方は白馬たちを連れて行った。こうして、この一件は落着した。
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