第40話 海よりも深い愛を探して 白馬の王子様の秘密4

 さて、愛海の方は。


「いや、やめて」

「やめないよ」


 寝ている間に四肢を拘束され、ケンに良いようにされていた。


「私は白馬の彼女よ。白馬に顔向け出来るの。こんなことして」

「白馬さんからの許可は貰っている」


 その言葉に愛海は胸が叩かれて急激に落ちるような感覚に陥る。


「嘘よ」


 それでも、ケンが都合の良いことを言っているだけだと思い直す。


「嘘じゃないさ。電話してみようか」


 これは願ってもない申し出だった。何かあったらすぐ電話してって白馬は言っていた。


「うん、して。白馬がそんなこと許すわけない」

「わかったよ」


 ケンの余裕の態度が一瞬恐ろしかったが、それでも愛海は白馬を頑なに信じた。


「あっ、兄貴、俺っす。ケンっす」

「ああ、ケンかどうした」


 律儀にスピーカーモードにしてくれている。


「龍、助けて」


 愛海はすかさず助けを叫んだ。


「例の件っす。兄貴の口から説明してやって下さい」


 ケンは少し、面倒くさそうにそう言った。


「ああ、わかった」


 龍の声は淡々としている。愛海は何か嫌な予感がした。


「僕の大切な愛海聞こえてるかい」


 それも束の間。白馬の優しい声が聞こえる。愛海はその声に、言葉に安心した。


「うん、聞こえてるよ。今ね、ケンが私を犯そうとしていてーー」

「わかってる」


 訴えようとしていたら言葉を止められた。何がわかっているのだろう。


「僕が許可したのさ」


 愛海がその言葉を聞いた瞬間、ずーんと想い石をくくりつけられて海の底に放り出された気持ちになった。


「えっ」

「彼を、ケンを救ってやって欲しい」


 龍の懇願する声の意味がわからなく、愛海は海上を見上げた。


「どういうこと」


 やっとの思いで絞り出した言葉だが、混乱もあって愛海はその答えを知りたいのか知りたくないのかわからなかった。


「ケンは今、元カノとの思い出から解放されようとしているんだ」


 二言目にはケンはケンはという。まるで自分よりもケンが大切みたいで愛海はショックを隠せないでいた。


「解放されるのは良いことだと思うよ。でも、なんで私が身体張る必要があるの」


 百歩譲って龍がケンの方が大事だとしても、私がそこで出てくる意味がわからない。


「ケンはどうやら君に恋をしたからなんだ」

「何それ」


 何それ、何それ何それ。愛海は段々と怒りすら覚えてくる。


「僕は愛海を捨てる気は無いよ。安心して」


 白馬の甘美な声が愛海を再び包んだ。


「ならどうして」


 愛海は自分の中に広がる泥を吐き捨てるようにそう言った。


「思い出作りさ」

「思い出作り」


 愛海は聞き返す。なんとも釈然としない言葉だ。


「ケンは今回の情事で愛海からは手を引いてくれる。自殺も止める。愛海はたった一回我慢するだけでまた僕のものだ。僕と君はまた元通り愛し合える。確かにこんなことになったのは申し訳ないと思ってる。でも、僕の愛する愛海なら多少の無茶でも聞いてくれると思ったんだ。いつも僕の無茶を聞いてくれるから。それに、僕も君の無茶も聞いているだろう。白馬の王子様として君をエスコートしている。周りの目なんか気にせずに。それは君を愛しているからなんだよ。だからお願い、今回は僕の無茶を聞いてくれる」


 愛海としては無茶ぶりをしているつもりはなかったが、確かに白馬は愛海の無茶を聞いてくれているんだと思う。白馬の無茶の一環の一つ。そう思うと、少しだけ良いかなとも思えてくる。


「でも・・・・・・」

「わかった。確かに心の準備は必要だよね。なら、僕が帰ったらやろう。ケンには僕から言っておくから」

「うん・・・・・・」


 愛海は何か釈然とはしなかったが、その提案に乗るのだった。やっと手に入れた白馬の王子様だ。その方の言うことなら何でも聞こう。そう決めていたのだから。

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