第28話 海よりも深い愛を探して 白馬の王子様を見つけるために3

 美佐雄の家は豪邸だ。愛海の家もそれなりに立派なのだが、美佐雄のそれは破格だった。よく高校生の時、付き合っていた時に遊びに行ったことがある。引っ越すことは考えづらい。そう思って、愛海は家を訪ねた。


 ピンポーン


 インターホンが鳴って暫くすると、声が聞こえてくる。


「はーい、どちら様ですか」


 女性の声だ。きっと母親だろう。確か名は恭子と言ったか。


「すみません。愛海です。月城愛海です。美佐雄さんいますか」

「まあ、愛海ちゃん。久しぶりね、でも美佐雄はいないのよ。そうね、とりあえずあがってちょーだい、詳しく話すから」


 久しぶりの来客にテンションが上がる恭子。美佐雄はどうやらいないらしい。とりあえず、恭子の言うように上がることにする。

 中庭を通って玄関に行くと、恭子が出迎えてくれる。


「久しぶり愛海ちゃん。元気にしてた」

「はい、恭子さんもお元気そうで何よりです」

「さ、上がって。あれから色々あったのよ」


 そう言って、奥へと案内される。十年以上経っても変わることのない美佐雄の家を眺めながら、リビングへと歩いていった。


「お茶で良い」


 恭子がそう言ってお茶の準備をする。


「お気遣いなく」


 愛海は遠慮深そうにそう言った。


「じゃあお茶ね、はい、どうぞ」


 そう言ってお茶を出してくれる。恭子は気立てが良いのだ。


「お茶菓子もあるから」


 そう言って、お菓子も出してくれた。


「ありがとうございます」


 愛海はそう言って、お茶をすする。


「懐かしい」


 お茶の味は変わってなかった。その味を噛みしめるのと同時に美佐雄と過ごしたこの家での思い出が甦る。よくはしゃいでいたなと我ながら思うのだった。


「だいぶ、大人になったわね。愛海ちゃん」


 落ち着き払っている愛海を見て、恭子がそう言った。


「ええ、私も色々ありましたから」


 まあ、実際は落ち着いているというよりは元気がないだけなのだが、身の上話をしに来たわけではない。

  恭子は美佐雄の母だ。故に障害には寛容である。愛海も障害者扱いされたことはない。


「で、美佐雄のことだっけ」


 恭子が改まって話し出す。


「はい」

「あの子、七浪の末やっとの思いで大学に合格して、医学部に進んだのよ。で、今はそれも卒業して、一人暮らししているの」


 初耳だ。美佐雄が受験をしていたのは知っている。私達が別れた理由はそれだからだ。しかし七浪もしていたことや、大學に進学出来て、卒業も出来て、一人暮らしまでしているとはかなり意外だった。


「正直、一人暮らしは反対したのよ。変な女の子連れ回してたし。でも立派な大人になるんだって聞かなくて。頼りないんだかあるんだかわからないわね」


 恭子のそれは半分愚痴だった。


「変な女の子」


 その言葉に愛海はドキッとする。


「ええ、見た目は大人なんだけど、子どもみたいな子で、美佐雄みたいね。一一人暮らしというか正しく言うと、その子と同棲しているらしいのよ」

「子どもみたいな大人・・・・・・」


 愛海には心当たりはなかった。


「確かーー、美樹って言ってたわね。その子」

「美樹、さん」


 その名前を聞いて愛海は愕然とする。一度嫉妬を向けた相手だ。よく覚えている。最初に美佐雄と再会した時に美佐雄の隣にいた美人だ。


「まあ、美佐雄もああいう子だから、相手は選べないとは思うけど、もうちょっとましな子選んで欲しかったわ、愛海ちゃんみたいに」


 恭子が愛海に視線を移した。愛海はドキッとする。考えていることを見透かされたような気分だ。


「私」

「そう、愛海ちゃん。美人だし、まともだし。ちょっと子どもっぽいところもあったけど、今は落ち着いているみたいだし、そもそもちょっと子どもっぽいくらいの方が美佐雄には合うと思うし、家柄も悪くないわ。あっ、ごめんなさい。家柄は別にどうでも良いのよ。でも良いに超したことないじゃない」

 恭子が一気に言った。


「でも、私振られていますから」


 愛海が苦笑いを浮かべてそう言った。


「えっ、振られてる。美佐雄からは美佐雄が振られたって聞いているけど」


 えっと、一瞬思うが、あっとすぐに思い直した。そうだ、受験の時に別れた時は愛海が振ったのだった。


「あっ、実はこんなことがあって」


 事情を整理するために愛海はこれまでのことを掻い摘まんで話した。


「へぇー、そういうことがあったの。そう、美佐雄がね。そんなことを・・・・・・。でも愛海ちゃん気にしなくて良いのよ。美佐雄はちょっとずれてる子だし、愛海ちゃんが気にして気に病むことではないわ」


 恭子がフォローしてくれる。


「はい・・・・・・。今日来たのは、改めて自分の気持ちを整理したくて来ました。再縁がダメでも、みーちゃんなら何かアドバイスくれそうな気がして」


 愛海は思いのままにそう言った。自分でも自分の言葉に驚いてしまう。そう思ってたのか自分は。


「そう、わかった。美佐雄の住所、教えるわね。愛海ちゃんの幸せを願ってるわ。出来れば奪い取っちゃって」


 恭子がウインクする。そうして、紙に住所を書いてもらった。どうやら、今住んでいるのはアパートのようだ。そのままお暇して、美佐雄の家に向かう愛海。その心中は不安でいっぱいだった。

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