第16話 素晴らしき愛をもう一度 最初のデート3
「で、二人と別れたんだ」
翌日、青年はいつものごとく昴に昨日のことを話していた。
「うん」
「愛海は嫉妬だな」
昴は考え深げにそう言った。
「えっ、嫉妬」
青年にとっては意外な単語だったので、つい聞き返してしまう。
「女心は複雑だってやつだ」
昴は確信があるようだった。
「えっ、えっ、でも今は達彦と付き合ってるんでしょ」
そうなのだ、愛海は今達彦と付き合っている。だのに青年と美樹の関係に嫉妬するなど考えられない。
「ああ、だから複雑なんだ」
しかし、昴に言わせると嫉妬で間違いないようだ。
「よくわからない」
青年には理解出来なかった。
「まあ、俺もよくわかっちゃいないが、そういうもんだと思っとけばいいよ」「ふーん、わかった」
とりあえず、物知りの昴が言うのだからそういうものなのだろうと思うことにする。
「で、デートは上手くいったんだな」
昴は本題だと言わんばかりに身を乗り出す。
「うん、たぶんね」
美樹の心情はわからないのでたぶんという言い方になるが、別段悪いこともなかったように思える。
「でも本当に意外だわ。美佐雄がまともな人と付き合ってるなんてな」
「何それ、どういうこと」
「普通の恋愛するとは思ってなかったってことだ。愛海のは特殊だったからな。意外とお似合いだったけど」
昴が見てきた青年の恋愛はいつも特殊だった。愛海は勿論、他の子も恋愛目的ではなくて青年のお金目的みたいなところがあったからだ。
「普通の恋愛ってどういうの」
ただまあ、青年にはその普通の恋愛がわからない。
「いや、そう聞かれると困るな」
昴はポリポリと頭を掻く。
「昴でもわからないことあるんだ」
ツチノコを見つけたかのように青年は言った。
「当たり前だ。俺は何でも屋じゃない。まあ、今その美樹さんって人とやってる恋愛だよ」
「ふーん、そうなんだ」
そう言いながら青年は美樹とのデートを思い返してみる。
「そう、そうだ。さあ雑談はここまでだ、勉強に集中するぞ」
「はーい」
二人は勉強机に向き直った。
所変わって再び病院。ここは休憩室である。
「そういえばこの前。私が紹介した人と仲良さそうだったわね」
咲が婚活パーティーのことを話題に出した。
「えっ、なんの話」
美鈴が聞く。
「あーあ、ちょっと気分転換に婚活パーティー行ってて」
美樹が答えた。
「えっ、婚活パーティー。美樹が」
美鈴が驚いて美樹の方を見る。
「びっくりよねー、私もびっくりした」
咲はしてやったりといった様子だ。
「あれっ、咲さんも居たってこと」
美鈴が疑問を口にする。
「私の話は良いのよ」
咲はさらっとその話を流した。
「で、無愛想な変な男と美樹が楽しそうにしてたって話」
「えっ、彼氏出来たの。美樹」
「うん、ちょっと頼りなくて変わってるけど、結構好きかなああいう人。純真無垢って感じで可愛い」
美樹に負い目はないようだ。咲はそれが気に食わなかった。
「ふん、純真無垢ねぇ」
「良いなぁー私もそういう彼氏欲しい」
美鈴がワンダーランドに思いを巡らす。
「美鈴も婚活パーティー行ってみたら」
美樹が軽い感じでそう言った。
「うーん、行ったことはあるのよね」
「えっ、そうなんだ」
美鈴もこれで美人だ。そこで相手を見つけられなかったことに意外を感じる。
「うん、何度か。でもダメ、最近の男はみんな草食系かチャラ男かって感じの人しかいなくて、ほとんど女の子同士でしゃべるばっか。何しに行ってるんだかわけわかんなくなるのよね」
美鈴は肩を落としてそう話を締めくくった。
「あっ、それすっごいわかる。話の面白い人ほどお金無かったりして。女を養えない男って最低」
咲も話に乗っかってくる。これが咲の恋愛観なのだろう。
「やっぱり男の人には引っ張ってって貰いたいかな」
美鈴はワンダーランドの王子様を見つめる。
「その辺は私の彼氏は違うかな」
美樹が一緒に王子を見ながら言った。
「あれは絶対外れね」
咲が好きありと言わんばかりに突撃してくる。
「外れって」
美鈴が聞く。が、それに答える人はいない。
「でも、状況を変えたければ自分から動かないとダメだと思うよ」
美樹の説教が入る。頼ってばかりではダメだと言うことだ。
「何それ」
なまじ成功者に言われると言い返せないが、気に食わないのもまた事実だ。
「なんか、成功者に言われると妙に説得力あるけど、私は私の道を行くさ」
美鈴が空気を読んで中立的なことを言う。
「美鈴に同感」
咲は刃を収めない。
「ふーん、まあ良いけど」
美樹はそれで良いのかなと思ったけど、言葉には出さなかった。
「美樹さーん、美樹さーん」
と、仙人が大声で美樹を呼んでいる声がする。
「また秀彦さんだわ。私あの人苦手」
美鈴が本音を吐露した。
「私も嫌ーい。美樹の第二の彼氏さんだよね」
外ればっか引いていると言わんばかりの言い草だ。
「彼氏じゃないよ。ダメよ、好き嫌いしちゃ。私達がいないと患者さんは孤独なんだから」
美樹は真面目なのもあり、患者を平等に考えるようにしている。
「うーん、もっと気楽に手―抜いた方が良いと思うけど」
美鈴の言うそれもまた一つの正論である。
「そそ、気楽に気楽に」
「私達は精神科のナースよ。プライドもってしっかり取り組みましょ」
しかしそういう緩い考えは美樹の中にはなかった。
「……はーい、ラジャ」
「えらそ」
一応、一番年上なのは咲だ。
「美樹さーん、美樹さーん」
また仙人が呼んでいる。
「はーい、今行きまーす」
休憩中でも行く美樹。
「潰れなきゃ良いけど」
それを心配する美鈴であった。
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