第7話 会話の極意 遂に現る、これが仙人
「もうすぐ、仙人がいる場所に着くぞ。しかしこれからさらに険しい道のりが待っている。それでも進むのか」
しばらく道なりに進んでいると、仙人がまた話し掛けてきた。
「勿論」
青年はノリノリである。心からこのゲームを楽しんでいるようだった。
「さすがみーちゃん」
愛海もまたノリノリであった。やはり二人は似たもの同士なのだ。
「では、足元に気をつけて進むが良い」
昴はやはり見回してみるが、音響機材は見当たらなかった。
「地味に突っ込みたいんだが、この声ってたぶん仙人の声で、見てるよな。俺らのこと」
昴は段々と仙人の存在を信じてきていることに気付いていない。
「仙人は何でも出来るからね」
るんるんるんと青年が話す。
「そもそもそこなんだよな。何でも出来るのに捕まってるみたいな感じで救い出さなきゃいけないってちょっと変じゃないか」
昴はこのゲームの矛盾を突いてみた。
「昴くんって言ったっけ。あんまり理屈っぽいと女の子に嫌われるよ」
愛海が指摘する。
「余計なお世話だ」
こうして愛海と会話していると普通な部分もやっぱり持っているんだよなって思う。青年とはこうはならない。
「足元に気をつけてって言ってたね」
青年が石橋を叩くように歩いている。
「まあ、あんまり気にしなくてうわっ」
と、昴が沈んでいく。足下を見ると、そこは沼になっているようだった。どんどん、どんどん沈んでしまう。
「昴」
青年が叫んだ。
「なんだこのぬかるみ、足が抜けない。っていうか、もがけばもがくほど沈みやがる」
殺人トラップ第三弾は底なし沼ということだろうか。昴の額に汗が滲み出る。
「昴くん落ち着いて。たぶん底無し沼よ。あんまり動かない方がいいわ、きっと」
愛海が冷静になってアドバイスをする。
「そ、底無し沼。うわっ」
思っていたことだが現実を突きつけられると、更に焦る。落ち着いてなんていられなかった。
「ダメ、暴れちゃ」
「ヤバい、どんどん沈んでく。もう胸まで来た」
底なし沼にさきほどのクッションのような救済措置があるとは思えない昴は、どうしてももがくのだった。窒息死なんて嫌だ。
「昴、止まれ」
と、青年が大声を張り上げる。
「美佐雄」
さすがのこれには、昴も正気に戻った。
「昴、そのままじゃ本当に沈んじゃう。今、助けるから、止まってて」
「お、おうっ」
青年が頼もしくも昴を助けようとする。昴は青年の言葉に従った。
「太い枝、持ってきたわ。これに捕まって」
と、いつの間にか愛海が大きな枝を持ってきた。
「お、おうってヤバい、首まで来た助けて」
昴は枝を必死になって掴んだ。そして、更に沈んでいく。
「昴、落ち着くんだ。今助けるから、いつもみたいに冷静になって」
「わ、わかった」
「みーちゃん、行くよー、せーの、ひゃっ」
と、二人で引き上げようとしたが、愛海が今度は引っ張られ、沼に落ちてしまう。
「あっ、あいちゃん」
「も、もうダメ、だ」
それを最後に昴は沼の底に落ちていった。
「この底なし沼、広がってる。みーちゃん。みーちゃん一人じゃ二人は救えない。先に行って」
よく見ると確かに沼は徐々にその勢力を拡大していた。このままだと青年も飲み込まれてしまうだろう。
「でも」
「みーちゃん。仙人に頼んで。そうすれば私も昴くんも助かるから、早く」
どうやら、頼みの綱は仙人の力になってしまったようだ。
「う、うんわかった」
そうして去ろうとする青年を、愛海は引き留めた。
「あっ、でもちょっと待って。みーちゃん。ううんマイヒーロー。いや、もうヒーローね。ヒーロー、私にキスをして。最後になるかもしれないから」
昴がいたら突っ込むところだが、今や昴はいない。
「最後なんて言わないで」
青年は青年でずれたところを気にしている。
「うん、そうね。でもお願い。私はヒロインだから」
愛海の儚げな眼差しが青年に突き刺さる。
「でも、キスって」
青年は今までキスをしたことがない。一応これでも青春の中にいる男児だ、かなり抵抗がある。
「ヒーロー。男でしょ。しっかりしなさい」
「う、うん」
それでも押しに押されてしてしまうのは、青年が純粋たる所以だろうか。二人は熱いキスをした。
「ありがとう。ヒーロー」
満足げな愛海。
「じゃ、じゃあ急いで戻ってくるから」
顔を赤らめ、急いで去る青年。愛海は沈んでいき、青年はそれを救うために仙人を探すのだった。
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