第5話 会話の極意 リアルすぎるゲームに危険はつきもの

「うわぁぁぁぁぁ」

「うぎょょょょょ」

「助けてー」


 達彦が、昴が、愛海が叫びながら走っている。そう、青年を含めた四人は大岩に押し潰されそうになりながら道を走っていた。


「きーみーがーあーよーおーはー」


 と、達彦が急に歌い出す。押し潰されそうになりながら現実逃避でもしているのだろうか。


「何でお前は歌ってるんだよ」


 すかさず昴が突っ込む。


「叫び声はギャグにしにくく天狗」


 達彦のそれはもはや病気なのでは、と昴は疑った。ただ一つ言えるのは


「今はギャグ言ってる場合かー」

「あーるーうーひ」


 すると今度は愛海が歌い出す。こちらは正真正銘現実逃避だろう。


「お前まで歌い出すなー」


 とは言え、場が混沌とするので止めるように促す。


「もりのなか」

「もりのなか」


 と、青年が悪ノリしてデュエットし始めた。


「お前らバカ。大バカ。マジ変人ばっか」


 昴が泣いて叫んだのは言うまでもなかろう。


「昴―、なんか楽しいね」


 青年が走りながらも脳天気なことを言う。


「どこかだ、どこら辺がだ。今俺らは大岩に潰されそうになってるんだぞ」


 こけそうになるが、今はこけることが出来ない。一瞬にしてお陀仏だ。


「そうだねー」


 青年のどこまでも脳天気なのには尊敬すら覚える。


「そうだねじゃない。そうだねじゃ」


 青年はこれで運動神経は良い方である。昴は百メートル走で勝ったことがない。


「みんな、あれに捕まってッ」


 愛海がそう言って、目の前の蔦に飛びついた。


「わー蔦だーッ」


 次は青年だ。


「拙い私を許してちょーだいッ」


 そして達彦。


「うがーッ」


 最後に昴が飛びつく。大岩は足下を転げ去った。


「し、死にかけた」


 全身にびっしょりと汗を掻いた昴が言った。


「みんなを助けた私はヒロイン。ね、そう思うでしょ」


 愛海が嬉しそうに皆に聞き回る。


「ああ、ありがとう」


 実際、かなり助かったので昴は素直にお礼を言った。


「ありがとうならいもむしはたち」


 達彦も少しキザっぽくお礼を言う。何故キザっぽいのだろう。


「あいちゃんすごーい」


 全員に感謝をされた愛海は気持ちよくなる。


「良いこと、みーちゃん。みんなに認められるってことはこういうことよ。わかった」

「うん。頑張る」


 頑張るのは良いが、どうか変な方向に頑張らないでくれよ、と昴は思うのだった。

 と、そんなこんなしていると仙人の声が聞こえてきた。


「よくぞ試練を耐え抜いた。仙人がいる場所まではまだまだあるぞ。さあ、進むのだ。勇者たちよ」


 昴は辺りを見回すが、やはり音響機材はない。本当によく出来た脱出ゲームだと思うのだった。


「さあ、みんな降りて。次に行くわよ」


 愛海が先導して、蔦から降りた。


「レッツゴー」

「ゴーカート」


 続いて青年も達彦も降りる。


「いや、もう帰りたい」


 昴も降りはしたが、ついつい弱音を吐いてしまう。というのも、この先が思いやられるからだ。このゲームといい、この仲間といい。肉体的にも精神的にも追い詰められる気がしてならないのだ。それでも、青年達に付いていくのは、青年のことが心配だからだ。誰に頼まれたわけでもないが、お目付役としての責任も感じている。暴走するこいつらを止められるのは自分だけだという自負があるのだ。損な性格である。

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