第17話 目覚めると
チュンチュンと鳥が鳴く声がする。
目を覚ますと、見慣れてきたお母さんと一緒に眠っている和室だった。
あれ……私、なにがどうなったんだっけ?
なんか夢のような時間を……ううん、正確には悪夢みたいな時間をすごした気がする。
あれは全部夢だったのかな。ここは家から……と体を起こすと、
「いたっ!!」
お腹と腕と足全部に痛みがはしった。
びくびくしてすごく痛い、無理!
でもこれは、ケガをした痛みじゃなくて……。
あまりの痛みに布団に転がっていると、お母さんが入ってきた。
「立夏! 大丈夫なの? 痛いってどこが?!」
私はなんとか体制を戻して、
「お母さん……これ……筋肉痛だと思う……」
と布団に転がった状態で言った。
昨日、大地くんに連れられて嵐の中走って階段を上って、あちこち体をぶつけた気がする。
見てみると青くなっていたけど、そんなひどくない。
一番つらいのは、筋肉痛だった。私本当に運動しないから、あんなに走ったら……。
痛みで布団に転がっていると、目の前に膝が見えた。
「立夏、大丈夫か?」
大地くんだった。
私はなんとか布団から起きる。
大地くんはもう普通の服装をしていて、元気そうだった。
良かった……。はっと思い出して大地くんの服をつかむ。
「菜乃花さんは? ケガは大丈夫だった?」
「元気だよ。立夏が目覚めたって聞いてもうすぐ来ると思う。なあ……全力でキレる準備は出来てるか。俺はもうあいつを殴り飛ばすバットを準備した」
そういって百円ショップで売っているスポンジ製のバットを大地くんはブンブンと振り回した。
なんていうか……目が本気で怖い。
声がして、中に菜乃花さんが入ってきた。
足には包帯をしていて痛々しいけど、その表情は今まで見てきたなかでも一番明るくて、顔色もよくて、元気そうだったけど……。
背後に鬼のような顔をした大地くんが立っている。
「おら菜乃花……てめー、マジで何してるんだ、大人なのに子どもに迷惑かけるんじゃねーよ!!」
そういってスポンジのバットで菜乃花さんの頭をゲシゲシ叩いた。
「あーーん、ごめんなさい。海見てただけなの、本当に! 雨がやむの待ってただけなんだってーー!」
「意味深な日記書くから、バカ菜乃花!!」
「勝手に見るお母さんが悪いよおお、だって修一に話しかける日記なんて毎日書いてたし!!」
大地くんがバットで菜乃花さんのお尻をバシバシ叩き、私はそれを布団に座って苦笑しながら見ていた。
雨の中「待ってた」と菜乃花さんは私にたしかに言った。
正直どこまで本当なのか分からない。
とにかく菜乃花さんが元気でよかった。
でも菜乃花さんは両家の両親からこってり怒られた。
正直あんなこと、もうしたくないと思う。
嵐の中そとに出たのは……本当に怖かった。
お母さんは私の手を取り、
「立夏……無事で良かった」
と静かに言った。
きっと話を菜乃花さんや道子さんから聞いていて、家にずっといられる状態ではなかったことを知っているのだろう。
でも、もう一度同じことになっても、私はきっと同じことをする。
自分に出来ることがあるってわかったら、修一さんも菜乃花さんも変わりなく。
そう思って、私は驚いた。
そう、私は、もう一度誰かが同じことになっても、同じことを、する。
修一さんも菜乃花さんも変わりなく。
そう思ったら、心の真ん中にあった重たい石がポロンと落ちた。
私は布団から立ち上がって、お母さんの手を引いて、みんながいるリビングに行った。
そこには幸次郎おじさん、大地くん、菜乃花さん、道子さんがいた。
私は顔を上げた。
「私、きっと、また同じように、大切だと思うひとが大変なことになったら、同じことすると思う」
お母さんが私に近づいてきて手を握ってくれた。
「私、お母さんにすっごく甘やかされてたって、大地くんを見て気が付いたの。大地くん、料理とかできてすごいの。でもそれが普通だっていうの。嵐の中もぐいぐい歩いて、大人の人と電話して、たくさんの大人とちゃんと話すのすごかったの。私にしたらぜんぜん普通じゃないよ、大地くんはすごいよ!」
「立夏……」
大地くんは私を見ている。
私は続ける。
「今までずっとおばけが見えるのを普通じゃないって、ダメだって、私はダメな子だって思ってた。でもこれが私の普通なの。困ってるのが修一さんでも、幸次郎おじさんでも、お母さんでも、菜乃花さんでも、大地くんでも、道子さんでも同じように助けたいって思ったの。おばけもみんなも、同じだよ!」
そう言い切ると、お母さんは優しく私を抱きしめてくれた。
おばけが見えるなんて普通じゃない。
でも、おばけでも菜乃花さんでも、大地くんでも、誰だって関係ない。
私は私に見える人を、助けたい。
私になにかできるから、なにかしたい。
同じ、どの人にしたいことも同じ。
それが『私』。
私は私の普通を、少しずつでいいから、好きになりたいって思った。
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