第50話:デートでデート相談



「やっと追いついた……なんで? 俺のほうが圧倒的に早いはずなのに……」


 シャトルーニャを追いかけて結構走ってしまった。追いかけてる時、物だとか、人だとかが俺の進行方向にタイミング悪く出てくるもんだから。中々追いつけない。


「うううう!!」


 立ち止まり、うーうー唸って頬を膨らませるシャトルーニャは、淡くオレンジに光っていた。


「おいおい、俺から逃げるために聖女の力使うんじゃないよ……というか、戦闘じゃなくても今は力使えんだな」


「使えません! でも、クローさんに意地悪してやろうと思ったら出来たんです。なんか、力が協力的な感じで……」


「なるほどねぇ。聖女の力は俺のこと嫌いみたいだからな」


「き、嫌いばっかじゃないですよ!? だってクローさんを助けようとする時に協力してくれる時だってあるんですから!」


「そうなのか? まぁ乙女に宿る力故に、複雑なのかもな」


「むーー!! なんで着いてくるんですか! わたしのこと雑に扱う癖に!」


「う……その、知らねぇ土地でこんなやたらと走り回ったら迷うだろ?」


「あ……あれ? クローさんは道分かるんですか?」


「あ……」


 よくよく考えると俺もこの辺全然知らなかったわ。地獄つってもここは俺の活動してた地域じゃないし、そもそも茨御殿から出歩けるようになったのだって割と最近だったし……


「あはは! ミイラ取りがミイラですね! じゃあ迷ったついでに一緒に街を周りましょうよ。クローさん」


「あ、あれ? 怒ってたんじゃ……」


 シャトルーニャは怒っていた次の瞬間には笑っていた……結構な感じで怒ってたと思うんだけど……


「デートですよ。今まで色々、怒ってましたけど、一緒にデートしたら許してあげます」


「で、デート!? いや、それは……でも、あー……うーん。わ、分かった……と言ってもここらに何があるかなんて分からねぇからな」


「そんなの聞けばいい話じゃないですか! あ、すみませーん! この当たりに恋人とかがよく行くスポットってないですか? あ、曲がり角を右でしばらく真っ直ぐ、はいはい、分かりました! 情報提供、感謝です!」


 シャトルーニャは街の住民に即話しかけ、デート……の目的地を瞬時に設定した。やはりこいつはコミュ力と行動力が高い。


 俺はシャトルーニャに連れられて、黙々と歩く。そして、花々と鳥たちが彩る花鳥園のような場所にたどり着いた。


「おー結構綺麗ですね~」


「そ、そうだな……花、なんの花なんだろうな……」


 駄目だ、何を言えばいいのかまるで分からない……そもそも俺はデートという概念がよく分からないんだ。


「あの鳥、どんな味するんですかね? 結構美味しそうじゃないですか?」


 シャトルーニャは一瞬で自然公園の美しさから興味を失い、可愛らしい鳥たちの味がどんなものかと、興味の対象を移していた……


 く、食い意地……


「あーあの鳥は確かボーゲン鳥だったか? 確か美味かったはずだ。綺麗だけど害鳥でさ、多分とって食っても怒られないだろうな」


 ボーゲン鳥は緑と青の大きい鳩みたいな鳥で、体を弓のようにしならせてナイフのような羽を飛ばすことで、他の動物を惨殺し、その血を吸う鳥。タダヒトを狙うことはないが、家畜を襲いまくる害鳥だ。


「へぇ~~~でも、今日はやめときましょう。狩猟モードだったり料理モードになっちゃって、デートだってこと忘れちゃいますし。でも、実を言うとわたしデートってよく分かんないんです。自分でデートしようって言っておいてあれなんですけどね!」


「お、俺もよく分からない。分からないけど、マロンちゃんもラインダークも執着してたから多分特別なんだろうな」


「あーー!!! それ、わたしでも知ってるルール違反ですよ!! デート中は他の女のことを話題に出しちゃ駄目なんです!」


「う……ごめん」


 デート……か。シャトルーニャが俺と行きたい場所ってどこだろう? 俺がシャトルーニャと一緒に行きたい場所は? そうだな……シャトルーニャが行きたいってなると、あいつが好きなことができる場所とか? 歌と飯と、考古学? 歌は下手だけど歌うのも聴くのも好きみたいだったし、飯は作るのも食べるのも好きだったはず。


 妙な所で歴史や地名を知ってたりする。ラインダークだって西大陸以外じゃマイナー神なはずだけど、シャトルーニャは知っていたし。俺がマロンちゃんに言われて転移門を取りにドラッシャーの地元へ行った時も、シャトルーニャは俺についてきて古代遺跡を見て目を輝かせていた。学者達に話しかけまくって困らせていた。


 じゃあ俺は? 俺はシャトルーニャとどこに行きたい? 一緒に、というか俺が行きたい場所は……う~ん? 正直自分の事のほうが分からねぇな。俺がこう、日常的に求めてるものってなんだ?


 ……うーん、分からん。


「はわッ!? わ、わかりましたよ! わたし、クローさんとどこに行けばいいのかがわかりましたよ! ズバリ! モンスターテイマーの牧場です! クローさんは、動物が好きですからね! 昔ペットを飼ってて、やたらと撫でることに拘ってる。今わたしが美味しそうと言った鳥の名前も憶えてるし……思えば、わたしが旅の中で動物に関する質問をすると結構答えが返ってきました。結構無視されることが多いわたしですが、動物に関することだけは、やたらと返答率が高かった。どうですか? わたしの推理は?」


 推理? まぁでも、こういう変なテンションの時のシャトルーニャは楽しそうだ。俺もなんか、シャトルーニャのテンションがおかしくなるのを期待してるような所がある。


 なんか、それが”来る”と来た来た来た! ってなるんだよな。これだよこれみたいな……俺……なんでそんなもんを期待してるんだ?


「そっか。俺……動物好きだったか。なんか、完全に無意識だったわ。きっと、俺が可愛いだとか、カッコイイと思う動物だとかも、お前にかかりゃ全部美味そうに見えるんだろうな。はは、まぁ俺も美味そうって思ったりはあるけどさ」


「えへへ、貧しかったもんで、すぐにそれが食べられるか気になっちゃうんですよね」


「じゃあ、俺も当てるか。お前とどこへ行けばいいのか……そうだな、うまい飯があって吟遊詩人のいる酒場。どうだ?」


「それは大正解です!! でも、ちょっとズルいっていうか。わたしの場合難易度低すぎじゃないですか? だってご飯が美味しいならどこでもいいですし……というか、そのうまい飯があって吟遊詩人のいる酒場って、いつもわたしがワシャルドで通ってる酒場じゃないですかぁ! デートもなにも、すぐ近所ですし、別に特別じゃないし……」


「でも、そこがいいんだろ? 無理すんなよ。俺も、お前が酒場で歌いながら、歯車巨人とかオライオンドーズと暴れてるの見るのは好きだよ」


「もぉ!! それって珍獣観察かなんかのノリじゃないですか!? うぅうう!! もっと、色気のある感じのアレがいいです!」


「お前に色気なんてあるわけないだろ! お前は笑ってりゃいいんだよ! お前だって笑うのが好きなんだろ? 俺はそれを見るのが好き、それで全員幸せだろ!」


「色気がないって、失礼ですよ! 一応成人してる大人のレディなんですよ!? って……あ、あれ? え? ……今、好きって言いました? 言いましたよね?」


「いっ!? 言ってない! 言ってない! 言ってないぃ!!」


 好きだなんて言ってない! 言ってない……仮に言っていたとしても、それは別に恋愛的なアレじゃないんだ。俺はそう、シャトルーニャを守るべき存在として見てるだけなんだ。確かにただの友達って感じじゃないけど、そう……守りたいと思ってるだけだ。


「えー? わたしの勘違いでしたか」


 良かった……誤魔化せた。


「別に、クローさんがわたしのこと好きじゃなくても。わたしはクローさんのこと好きですよ。わたしと、故郷とみんなを助けてくれたからじゃないんです。誰かを守るために無理をするクローさんが好きなわけでもない。わたしが好きなクローさんは、人の話を、自分のことみたいに真剣に聞いて、自分のことみたいに表情をコロコロと変えてくれるクローさんが好きなんです。不気味な顔してるのに、可愛いって思っちゃうんです」


「えっ!????? 馬鹿な……俺が可愛いだと? ありえん、キモイなら分かるけどよ」


「いや実際顔はキモイですよ?」


「ぐはあああああああッ!??」


 感情の緩急で俺は大ダメージを受けた。


「ほら、今だって! 照れからのグハーーッですよ? すぐ顔に出るし、嘘も下手だし、もう分かっちゃました。わたしのこと好きですよね?」


「あっ……ち、違う」


「でもわたしの分析によると、クローさんの今の表情は、わたしのことを好きですって言ってますよ? ま、同じ顔が、他の人にも向けられてたりするのムカつきますけど」


 ま、まずい……俺、そんなに顔に出てるのか……く、くやぢい……シャトルーニャごときに、この俺が手玉に取られているだと? 色気なんて全然ないガキのはずなのに……


「やめろ……! それ以上はやめるんだ……シャトルーニャ……仮に、いいか? 仮にだぞ? 俺がお前のことを好きでも、俺はそれを認めるわけにはいかないんだ。俺がそれを認めて、その先を見ちまったら、考えちまったら……俺、俺……お前と一緒にいられなくなっちまう……そんなの、嫌なんだ……俺、もう……お前がいないと、嫌なんだ……」


 気づけば俺は泣いていた。男らしさのかけらもなく、無様に泣いていた。


 そうか、俺が、俺がシャトルーニャを変に避けたりしたのは。怖かったからなんだ……俺は、自分が怖がってることすら自覚したくなかった。


 ドラッシャー達から逃げた時のことを思い出しちまう。シャトルーニャは、俺の人間を愛せない呪いには耐性がある。だけど、俺は、友達のその先になったシャトルーニャが、俺から離れていってしまったなら、俺は……どうなっちまうんだろう。


「認めなくてもいいですよ」


「え?」


「勝ちましたんで」


「は?」


「わたしが他の子に負けそうになったら認めてもらいますけど。それまではいいです! まぁこれもハンデですよ。よし! クローさん! 皆さんと合流しましょう!」


「え?」


 ……シャトルーニャはなんだかよく分からないことを言って、一人納得していた。別に俺が認めなくてもいいらしい。そして切り替えが異常に早いシャトルーニャは、街の住民に城の中心地の方向を教えてもらい、俺達はあっさりとみんなに合流した。


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