第49話:地獄観光に行く
「いや流石に自分の中に俺が入るのは無理なんじゃねぇかなぁ?」
「やってみたら意外とできるかもしれないよ? クローくんの体かなり不思議なことになってるから。うちが応援してあげるから! ね?」
「そうだよ。君の体を折り畳んで一部を転移門から出せばいけるかもしれない」
はぁ~こいつら無茶言い過ぎだろ。地獄の観光だかにみんなで行きたいって話になったのはいいけど、転移門が設置されている俺自身は行けないんじゃないか? と俺が指摘したところ、自分の中にある転移門に自分を入れろって言われ……あ~~~! もう頭がこんがらがって来た!!
「マロンちゃんはクローくんの本拠地を地獄のクローくんの土地にしたいみたいだけど、それ決めるのはクローくんだし、うちとクローくんの神殿、聖地に近いワシャルドの方が絶対いいもん! プンスコッ」
「やれやれ、10万年も生きてるくせにラインダークは情緒が育っていないね。どちらがいいかこれから確かめようと言うんだ。君も言った通り決めるのはクローくんなんだから。それと、ボクのことマロン”ちゃん”て呼ぶのやめてくれないかな? ボクをそう呼んで良いのはクロー君だけなんだからさ」
「うわ~~ん! 陰険! そっちだって体は子供みたいじゃない! 全然育ってない!」
「グハァツ!?? し、仕方ないだろう!? そういう、設計なんだから。あーやっぱり創世神許せないなぁ。殺してぇ~~~」
マロンちゃんがやさぐれている!? あの比較的に冷静と定評のあるマロンちゃんが……あれ? でもよくよく考えると、俺の前ではマロンちゃんはあんまし冷静じゃなかったかも……周りからは比較的冷静って言われてたけど……でも比較的ってわざわざ付け加えられてるのが気になるところだよな。冷静じゃなかった時もあったのかな?
「大丈夫ですよ!! ラインダークちゃんも、マロンさんも! 育ってなくても大丈夫です! だってわたし達は大体どこかしら育ってないですから!! 中心的存在であるクローさんが未熟さを隠していないんです! これはクローさんが体を張って皆さんに自己肯定感を与えようとしているんです! みんな駄目でも大丈夫! 俺も駄目だからって!」
「んなつもりねーよ馬鹿! おい、シャトルーニャ。なんか怒ってる……? あたり強くない? 棘あるよ棘」
シャトルーニャが言葉の棘をばら撒き、無差別爆撃を行っている。しかしマロンちゃんとラインダークはそれもそうかと納得していた。はぁ? なんでだよ。納得すんなよ……
「そりゃあ怒りますよ! だってわたしだけクローさんの中に住ませてもらえないじゃないですか! ずるいです! 全然仲良くもなってない歯車巨人の人達はいいのに、わたしは駄目なんておかしいです!」
「いや、あれは……あいつらは、マキに頼まれたから住ませてるだけで……」
「うううううう! マキちゃんが頼んだらすぐに言うこと聞くのに、わたしはなんで駄目なんですかぁ~!」
「そうだよ! クローくん! シャトルーニャちゃんが可哀想だよ! うちはシャトルーニャちゃんもクローくんの中に住ませてあげるべきだと思うよ!」
「確かにちょっと可哀想かもね。敵に塩を送るわけではないけど、デル姉ぇですら住んでるのに、シャトルーニャが駄目な理由が分からない」
ま、まずい……ラインダークもマロンちゃんもシャトルーニャの味方だ……そうだ、マキとデルタストリーク! あいつらはどう思ってんだ?
「なぁマキ、デルタストリーク、お前らはどう思うよ?」
「別に問題ないと思うも」
「別にいいんじゃないかな? シャトルーニャは料理うまいし、私は一緒に住みたいかな?」
マキは興味なし、デルタストリークはすでに餌付けで懐柔されていた……こ、こうなったら……
「ちょ、ちょっと俺、自分の中に入って転移門通れるか試してみるわ! よし!」
強引に話題を逸らす、これに限る!
結局色々試してみたら、俺は俺の中に入れたし、転移門も通れた。ただし条件付き、俺の体の一部を分離させ、地上側に残す必要がある。もちろん俺が地獄から戻ればすぐに合体して元に戻れる。分離といっても、転移門分のスペースが必要なだけで、成長した今の俺にとっては微々たる大きさだ。手のひらサイズの肉に転移門が余裕で入る。
転移門自体は巨人系が通ることも想定されてたのか、それ相応の大きさだが、結局俺が育ちすぎて人か巨人かなんて誤差でしかない。
嫌々自分の中に入って色々試したわけだけど、実際には収穫がかなりあった。実は俺が分裂して分身できること、魔蟲達が歯車巨人達の発声機構をパクって人語を話せるようになってたこと、マジで俺の中に街とか要塞が作られてたこと、腹痛の原因がマロンちゃんとラインダークの喧嘩だけじゃなく、マキが作った実験体、人造生命体の魔竜の暴走もあったこと……おそらく大体マキ主導の元、やりたい放題されていた。
正直ビビった。魔蟲のやつら……歯車巨人の体を参考にして、人型に変形できるやつもいたからな……最早寄生虫でもなんでもない、俺の魂から養分吸うのが趣味の人じゃん!
まじで、ふざけやがって……! あいつら俺から養分チューチュー吸うだけじゃ物足りないのかよ! 何が「中に娯楽施設建ててもいいっすか?」だ! クソッ!! まぁでもいいか、俺の中に娯楽施設ができたら、テーマパークが出来たら、俺は俺の中に入ればいつでも遊べるわけだし……いいのか? それで? 本当に……?
俺がやりたい放題されて悩んでいるうちに、俺達の地獄観光の日はやってきた。
──────
俺側から転移門を抜けるとそこは、地獄の俺の支配地域ってことになってる【ウナボロス】ウナギとウロボロスを合わせたってこと? まぁ十中八九オライオンドーズが提案した名前だろうな……
ここは茨御殿があった場所とかなり様相が違う。溶岩とかも流れてないし、熱くない。代わりに危険な食人植物が大量に生えている。そして、この地域の特徴として、植物系のタダヒトであるトレントマンが住んでいる。こいつらは食人植物達に襲われないし、対話も可能で、操れるようだった。
「じゃあこの地域ではトレントマンから嫌われたら生きていけないってことか。だからトレントマン達はここが邪神の支配地域であってもなんの被害も受けなかった……けど、すげーなこれ……トレントマン達が作ったんだろ? これ……」
マロンちゃんに案内されてやってきたのは、マロンちゃんの新たな拠点であり、俺の地獄での拠点でもある【魔王城・メドゥーサの鼓動】
めっちゃデカい……岩で出来た触手のような柱が幾重にも折り重なることで出来たトゲトゲの城。岩のように見える柱も実際には木らしく、表面の硬い岩部分を剥がすと生きた木が出てくる。この城は生きているんだ。
トレントマンが植物を操る技術を使って短期間で生み出した城、荒々しい見た目だけど、その分威圧感があって、魔王城って感じだ。別に魔王になったつもりないんだけどな……
マロンちゃんが言うには魔王ってことにしておいた方が予算申請が通りやすかったとのこと。この城はまだまだ未完成というか、これから成長させて、もっと堅牢で重厚な城にするらしい。まぁそれでもすでに滅茶苦茶でかいんだけど……普通に街一つ分ぐらいある。まぁ城下町が城の中にあるって感じで、領民達も普通にここに住んでいる。
領民達は岩木の柱と柱の間に木材の板をはめ込んで住居を作っていた。鳥の巣みたいな感じで、移動する時は木々の間にロープを通した魔導ゴンドラを使う。なんというか立体的な移動を必要とされる街で、慣れるまでは大変そうだった。でも、色んな方向に伸びたロープを使えば行きたい所に最短距離でいけるから、移動時間とかは短いかな?
「これ……マロンちゃん、どうやってトレントマン達を説得したんだ? 流石に大工事だったんだろ? 金とかだけでこんなに動くもんなのか?」
「ああ、彼らの種族神である木神イサイルマッカの神殿をこの中にも建てるって約束してね。あとは君の友達が協力してくれたんだよ」
「俺の、友達? 一体誰が……」
「ああ! クローの兄貴! 久しぶりだなぁ! 元気そうで何よりだ」
木の上で全体を見渡していた俺達に下から声をかけてきた者がいた。俺のよく知る男、俺のこの世界での最初の友達、フロデスマルクだ! 緑のいかついマッチョ!
フロデスマルクは大ジャンプして、俺達のところまでひとっ飛びで登ってきた。俺とフロデスマルクはハイタッチ、拳と拳を合わせた後、ハグをして再開の挨拶をした。
「フロデスマルク、この野郎~! 来るなら来るって言えよなぁ? そしたら土産だって持ってったのによぉ」
「土産? 別にいいよぉ。そんなのさ、おいらクローの兄貴に今まで貰いすぎたから。クローの兄貴に相談しなかったら、おいらは一生茨御殿で安月給だった。おいらなんてそんなもんて、諦めるところだった。でもクローの兄貴と女房にケツ叩かれて、今じゃ地獄連合の法務大臣! まぁでも、最近は平和だし、マロン様の改革のおかげで人的余裕がありすぎて、おいらも暇してるんだけどね。でも暇だからこうして会いにこれた! 最高だ!」
「法務大臣? あれ? 俺が地上に行く時は地獄警察のトップじゃなかったっけ?」
「あれからまた出世したんだよ。マロン様と一緒にファーカラル一派を地獄から追い出して、地獄を浄化していた活動が評価された。ほら、異形再誕事変で地上は物凄い被害を受けたけど、地獄は全然被害がなかったから。だからマロン様なんてもう実質的に地獄のトップだよ。いやぁ~もうやばいっしょ、みんなマロン様を認めてるし、派閥的にはもう最大級よ」
「そ、そうだったのか……すげーなぁ~お前ら……」
「確かに凄いです! それにしても、クローさんのおかげで偉くなれたって具体的にはどういう感じだったんですか?」
シャトルーニャの疑問も最もだよな。正直俺ほとんど関係なくねって思うもん。こいつらが元々有能なだけだろというのが俺の認識だ。
「いや、別になんも大したことしてねぇぞ……? フロデスマルクは元から真面目で細かい所まで気にするやつでさ。ほとんどバイトみたいなポジションだった癖に、労働環境の改善案とか考えてたんだよ。怖くて上司には言えなかったみたいだけど……なんでも真面目に取り組み過ぎて、逆に全体的なパフォーマンスを下げてしまうっつー欠点があったから、肩の力抜いて目標を絞れって言ったんだよ。あと転職を勧めた、明らかに茨御殿で腐ってたら勿体ないヤツだったからな。そしたらなんか……出世しまくったんだよなこいつ」
「それだけじゃない! おいらが女房と結婚できたのだってクローの兄貴のおかげだ。お互いの思ったこと、感情を言う。そういう時間を助言されて作った。そしたらすれ違いがなくなってさ、まぁ代わりに喧嘩は増えたけど。おいら達には合ってたんだ」
「ほら言ったろ? 別に大したことは言ってないんだって」
「違うってクローの兄貴! だって、クローの兄貴がおいらに言わなかったら、きっと誰も同じことをおいらに言わなかった。だってさ、おいらなんて他のやつからすればどうでもいい存在だ。そんなやつに親身になって、一緒に悩んでくれてさ! おいら嬉しかったし、救われたんだ。きっかけが些細なことでもさ、人生を変えることってあるっしょ!」
そ、そうだな……俺はフロデスマルクに反論できなかった。まぁ反論する意味もないんだが……俺だってそういうのあるしな。些細なきっかけってわけじゃないけど、マキを呪いの大蛇から解放した時だって、マキがもの凄いやつで、俺の人生っつーか、運命を大きく変えるだなんて分かんなかった。完全に想定外だ。
俺はただマキを救いたくてそうしただけで、それから俺とずっと関わるとも思ってなかった。
「ま、おいらがここにいるのは本当は仕事なんだけどさ。ちょっと抜けてきただけっしょ。ここがクローの兄貴とマロン様の本拠地になるってことは、ここが地獄の本丸みたいなもんだ。地獄で一番偉くて、派閥も大きい人と、いずれは神となる、地上の大戦争を終わらせた魔王の如き傑物、ようは地獄の中心が変わる。地獄そのものの、今後数千年、下手をするともっとか? 遠い未来にまで関わる大変革の時っしょ。おいらは法律関係のその調整とかしてる。獄神達から色々提案があるからさ。ま、全てはこの地獄をより強く、より平和にするためにさ」
大変革……そういえば、マロンちゃんは天界の、オライオンドーズとか武神合軍に地獄の土地を与えたんだっけ? 天界とも交流してくって……あれ? 待てよ? マロンちゃんて預言者だろ? 元の予言では天界が滅ぶこととかって知ってたんだろ? なのに、天界との未来を見据えていた? どういうことだ?
「な、なぁマロンちゃん……マロンちゃんは天界が滅ぶ予定だったって、予言で知ってたんだろ? なのに、天界と交流を考えてって……」
「ああ、その話ね? 言ってなかったっけ? それがボクが天界を追い出されたというか、出てきた理由だよ。僕は元から天界の滅びも何もかも、潰すつもりだったんだ。アラバイルが裏で色々やってたことまでは知らなかったけど、ボクは滅びの未来を受け入れているアラバイルが気に入らなくて、反発からこっちに来た。だから、ボクは予言の未来を潰す前提で、未来を考えているんだ。まさか君が予言を滅茶苦茶にするとは思わなかったけどね」
「えええええええええ!!?? 初耳!? そっか……確かにこれは比較的冷静って評価かも……」
「えっ? なんのこと?」
「バリバリに上司と創世神に喧嘩売ってるじゃん……」
「ま、潰すつもりだったって言っても、その方法なんて分からなかったから。気持ちだけしかなかったんだけどね。でも、君と出会って……なんとなくその方法が分かったんだよ。橙の激流の外に目を向けるべきってね。橙の激流の外にあって、強い力を持つ者、そんな者達の力を結集すれば、予言の力、創世神の押し付けだって壊せる、そう考えた。だからこの【魔王城・メドゥーサの鼓動】は! その力を結集させる、象徴、中心なんだ! 絶望を破壊し、未来を切り開く、その始まりだ!」
か、カッコイイ……マロンちゃんの宣言に俺は震えた。そうか、例え創世神であっても戦うという意思の元、あえて魔王という名を使ったんだな。この宣言に他のみんなも顔つきを変えた。創世神と戦うかはともかく、悲劇の運命を破壊するという考えはみんな同じだからだ。
「よ! 大将! それはそうと式はいつにするんです?」
「式? フロデスマルク、なんのこと言ってんだ?」
「何ってそりゃあ、結婚式っしょ? マロン様がクローの兄貴を好きで、いずれは
「──ブウウウウウウウウウウウ!????」
なんで、そんなことに!?
「図ったなマロンちゃん!? 地獄のみんなを騙して既成事実化するだなんて!! で、でも! マロンちゃん知らないの? 地上ではクローくんの番はうちってことになってるんだよ? きせいじじつだもん!」
「あれ? そうなんすか? クローの兄貴? なんかマロン様から聞いてた話と違うなぁ……?」
「いやどっちも、別に番なんかじゃねぇよ。周りが勝手にそう思ってるってだけだろ? 結局さ」
「あーなるほどね。まぁおいらもおかしいと思ってたっしょ。クローの兄貴ち●こついてないし、恋愛とか興味ないし。でも、あれだ、地上でも地獄でも、そういうことにしておいた方がいいんじゃないか? 表向きにでも”そういうこと”にしておけば、地獄も地上も結束が強まる。あーそうだ、どっちもクローの兄貴の妻ってことにしておいて、マロン様もラインダーク様もお互いを認め合い、一緒にクローの兄貴を支えてるってことにしとけば、地上と地獄の結束まで強くできるかも」
「はぁ~? ボクとラインダークがお互いを認めあってる!? そんなのありえないね!」
「うちは別にそれでもいいけど……その方がみんなハッピーになれそうだし、うちもマロンちゃんも、これからクローくんを振り向かせるために努力すればいいだけだよ」
「えっ……!?」
予想外に冷静な一言を放つラインダークにマロンちゃんはフリーズしてしまった。
「ご、ごほん! そ、そうだね。君の言う通りだラインダーク。ボクも最初からそう思ってるからね? 別に君に、寛大さで負けてるわけじゃないからね?」
「う、ううううう! おもんなっ! 全然おもんない! クローさんの馬鹿馬鹿馬鹿!!」
ラインダークとマロンちゃんが歩み寄り始めたと思ったら。シャトルーニャは怒って物凄いダッシュで走り去ってしまった……
か、カオスだ……ってそうじゃない、追わないと! 知らねぇ土地に来てんだ、ぜってぇ迷うだろ。
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