第14話:頭が悪かった



「ラインマーグが戦力増強のためにあなた方をここへ導いた。とするなら、やはり私をその戦力するつもりだったとしか考えられない。彼は私と同じく武人タイプのはずなのに頭が回る。おそらく私の性格を鑑みて、私がクローくんに協力することを即決するだろうと予測できていたんだろうね」



「え? 俺に協力を即決って……いいのか? あれ? 神々のルール、人に関わりすぎるなとか、邪神と戦っちゃいけないとかは大丈夫なのか? ラインマーグも元々破りがちだったけど、デルタストリークは大丈夫なのか? 一応、罪を裁く断罪神なんだろ? だったらルールを守らなくていいのか?」



 教会本部、一般人が立ち入りを許されない聖殿。俺たちとデルタストリークの話し合い、それが始まるなり、デルタストリークがいきなりぶっこんできた。話が早いのは助かるが、こう超スピードで決まると、何か穴があるんじゃないかと疑ってしまう。



「私は人の世界に干渉することを許されている数少ない神だからね。元はそうじゃなかったんだけど、他の神々と交渉することでその権利を勝ち取ったんだ。それに断罪神教は教義的に邪神、正確に言うと人々と敵対する上位存在と戦うことは正しいことだし、そもそも私に設定された役目が断罪だ。後付の神々のルールでは私を縛ることはできないかな」



「交渉? それってどういった感じで通したんですか?」



 シャトルーニャがデルタストリークに質問するが、正直俺はすでに検討がついている。デルタストリークと共にこの教会本部へとたどり着くまでに彼女に向けられた、信徒たちの視線でなんとなく理解した。明らかに「畏れ」があった。そしてその一方で安心感のようなものもある。断罪神、おそらくその名の通り、デルタストリークは咎人として認めたものを決して許さない。



 そして、勘違いで俺を断罪しようとしたオラン神官はあっさりと許された。悪意と罪、その二つが条件として満たされない限り、無闇に人を裁くことはない……そんな感じだと思う。判断が比較的人に近いが故に問題にならないだけで、融通の効かない神、それが俺のデルタストリークの分析。だとするなら行動パターンも大体読める。



「もちろん、私の断罪を止めるなら神々をも私が裁くと言ったまでです。創世神の造物に過ぎない彼らが、創世神の与えた私の役割を穢すことは許されない。確かに、最初は反対もありました、しかし、あなた方が経験した通り、私にはその者の記憶や心を読み取ることができます。なので反対した者の記憶や心を読み取り、邪神との関わりを看破、断罪し、四柱を私が殺した段階で交渉は成立しました」



「えぇ!? 殺したんですか!? よ、四人も!? もしかして、デルタストリーク様ってもの凄く強いんですか!?」



 シャトルーニャが驚いているが、俺からすると、まぁそうだろうなって……基本スタンスが俺と似たようなもんだからそうそう問題は出ないと思うが、下手に地雷を踏むと作戦も何もかも滅茶苦茶になるタイプだ。正直……俺と同系統、後先考えない暴走愚か者タイプだな。俺も、今はこうやって冷静に考えられるが、いざ目の前で事が起こってしまえば、今ある冷静さなどあっさり消える。



「もちろん強いですよ!! ラインマーグにだって勝ったことあるからね! あーでも、相当前のことだから今は勝てないかな。彼は一般的な神々と違って成長ができる、タダヒトからの成り上がりだからね。はぁ~羨ましいな本当」



「なるほどな。だがなんとなく神々の中でのあんたの立ち位置、扱われ方がわかった気がするぜ。地上でほぼ自由な活動を許されていて、邪神の駆逐だって止められているわけじゃない、にも関わらず、邪神はうじゃうじゃいるし、悲劇を防ぐこともできていない。なら答えは一つ、デルタストリーク、あんたは脳筋で、戦略面では全くの無能……他の神々からは腫れ物扱いで、邪神の情報はあんたに入ってこない。そんな感じだろ」



「ぐっ……!! いくら本当のことでもそれは失礼だと思わない?」



「いいや、はっきりと自覚するべきだね。自分の弱点を直視するべき、そして対策をしっかりと考えるべきだ。デルタストリーク、あんたも俺の記憶をすべて見たのならわかっているはずだ。俺があんたと同系統の馬鹿で、あんたから力を奪ったような存在だとな。これはつまり、あんたと俺は共に行動すれば全く同じ罠にしっかりと嵌まるということだ。ストッパー役がいなければ容易く全滅する。実質的に邪神と戦争状態になるってんなら……その可能性はかなり高い。となると……ラインマーグの考えた戦力の増強……穴があるんじゃないのか?」



「ふむ……確かにクローくんの記憶を見た限り、君がこれまで掛かってきた敵の罠、謀略、おそらく私も全て引っかかっていたと思う。うんうん、間違いない、私も君の記憶を追っている時、君と同じ選択肢を選び、あーこれ私も罠にかかったなと思ったからね。ああ、だけど……ラインマーグの考え、私は悪くない選択だったと思うよ」



 悪びれることもなく、自分も俺と同じ罠に引っかかるだろうと断言するデルタストリーク。正直、俺はデルタストリークと馬鹿の相乗効果を発動して滅茶苦茶になってしまうんじゃ? という心配しかない。



「ラインマーグが私に求めたのはそもそも私の出来の悪い頭脳じゃないだろう。私を信仰する信者達、その力をラインマーグは見ている……私はそのように思うな。確かに私は馬鹿だが、信徒の中には賢い者もいる。うん、組織の力、頭脳がラインマーグは欲しいんだ。私にもそれぐらいの検討はつく……だがそうなると問題が出てくるな。私個人が、君たちに協力することはいいんだが、信者達までとなると、話は別だ」



「なるほど、そういうことか……ラインマーグも失礼なヤツだな」



「はは、でも彼は私のことを精確に、しっかりと分析して、評価しているだけだよ。悪意はない、むしろそのままを見てくれるだけ嬉しいことだよ。私のことを腫れ物扱いする神々の方が多いんだからね。ま、信者達を巻き込むのなら、君達が、君達の行動によって協力を取り付ける必要があるね。聖女はともかく、私のお墨付きがあろうと、クローくん、君が認められるのは難しそうだが……君はどうするつもりかな?」



 さっきまで笑いながら、柔らかな表情をしていたデルタストリークの表情が真剣なものへ変わる。俺を試すつもりか、何を試したいかしらんが……デルタストリークがどんな答えを望もうと、俺の考えは変わらない。



「俺は、覚悟のない者を巻き込むつもりはない。俺が求めているのは、そう、イカれ野郎達だ。未来を見ることができなくなっちまった……邪神を憎む、復讐者達。道半ば死んだとしても、最後に邪神を倒したなら、納得してくれるヤツ。俺はそんな奴らと一緒に戦いたい」



「なるほど、良い答えだ。君は本当に人がいい。現実的に考えるなら、戦力は多いほうがいい、雰囲気に流されて来る者だって戦力に数えたい、だけど君はそれをまるで考えない。理性は何が正しいか見えていても、君はそれに賛同しない。本当に迷いなく、勝つ可能性を投げ捨てた。だというのに! 君は本気で勝つ気でいる。矛盾しているよ。でも、だからこそ、私が全力で応援する価値があるというものだよ! ま、君の言う者たちが君に協力するのは……私には願うことしかできないけど、君ならきっと大丈夫だ。私はなぜだかそう確信しているよ」



 デルタストリークが満面の笑みを浮かべている。やはり俺とこの女神のシンクロ率は高いらしい。



「……きっと二人共滅茶苦茶なこと言ってますよね? クローさん……」



「そうだな……別に俺たちが優勢ってわけでもないのにさ。だけど、俺は諦めたくない。方法は探す。だって俺は決めたからな。今までと違って、同じ志を持つ者たちと、共に戦うと決めた! やるって決めたからこそ見えてくる選択肢だって、あるはずなんだ」



「やると決めたから見えてくる選択肢もある! いい言葉ですね! その発想はなかったです。現実的じゃないのかも知れないですけど! きっと、現実的なアレコレは他の人のやり方で、その人の役割で、クローさんのやり方が、きっとクローさんの役割なんですよ! いえ、間違いありません! だって、クローさんが馬鹿だから! 私の友達も、家族も、私の心も守られたんです! 私が今この場所で元気でいることが! クローさんのやり方の正しさを証明してるんです!」



 ……ック……なんてことを言いやがる……シャトルーニャ。俺にだって内心不安はある。だけど、お前のその言葉、なんか……すげー勇気が湧いてきたぞ。まじでやれる気がしてくる。あまり俺の心を揺さぶるな……俺はお前と仲良くしないって決めてんだ。




 ──決意を決めた俺たちだったが、現実はそう甘くはなかった。そう、俺たちには問題がある……それは俺達には頭脳担当がいないこと……衝撃の事実だが、なんと白蛇が一番賢いことが発覚した。馬鹿っぽい喋り方のくせして、知能指数は俺達の遥か上だった。しかし、その白蛇は協力者集めにまるで興味がなかった……はぁ?



「協力者なんて無理に集めるもんじゃないも。そもそもあたしが直接わざわざ動かなくても、もう終わってるも!」



「はぁ? もう終わってるだぁ? まだなーんも出来てねぇだろうが! 待ってりゃ、協力者が増えるとでも? おい白蛇、お前だけが、頼りなんだ。頼むぜぇ……」



「む~。お兄さんうるさいも! 仕方ないからちょっと助言してあげるも! ドットルード王国、王都の馬屋から馬を大量に仕入れるんだも! 送り先はもちろんここ、ガリアンだも」



「そんなことでいいのか? 大量ってどれぐらいだ? まぁ金には余裕あるが……」



「えーっと、最低40、できれば100頭欲しいも。一度にその数頼まないと駄目だも!」



 とのことなので、俺はドットルード王国、王都の馬屋から100頭の馬を仕入れるためにガリアンにあるその馬屋の支社で交渉した。特に値切らず、交渉するとあっさりと交渉は成立した。シャトルーニャはぼったくりじゃないかと金額に怒っていたが、白蛇はそれでいいと言っていた。これがどういう結果を生むのか……まるで分からねぇな。



 そして時が経つ、馬がドットルード王国から届いた。


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