第11話:人時代の歩み方を忘れてしまった
フロストペインから旅立って数日、俺は行き先をどうするか考えながら、とりあえず近場の街へとやってきた。まぁ、俺があの土地に愛着を持たないためにフロストペインを出たかっただけだからなぁ……もちろん、シャトルーニャは俺の後をついてきている。俺は不眠不休でも活動できるがシャトルーニャはそうじゃない。こいつに合わせると旅のペースは落ちてしまう。
しかし、シャトルーニャは俺に着いていくために無理をしてしまうからな。そうなると何かしらの事故が起こりかねない。それで死なれでもしたら最悪だ。そもそも聖女だからなぁ……単に縁があったどうこうだけじゃなく、世界にとって重要な存在らしいし……
まぁそんな理由から適当にペースを落としている。それでもシャトルーニャにはハードだったみたいだが、強い神官になるだの言っていたから修行と思えば問題ないかもしれない。
「ぜぇはぁ……クローさん……疲れないんでづか……?」
俺とシャトルーニャは適当な宿をとり、そこで一休憩とすることにした。
「まぁ俺にはほぼ無限の体力と魔力があるからな。そうだな……俺の体内にいる魔蟲、その一匹の体力が伝説の魔物クラスの体力を持っていると考えてくれていい。それがうじゃうじゃいるわけで、そいつらが交代しながら俺の体を動かしているような感じ……今だって体内のほとんどの蟲は休んでいる状態……だから正確に言うと、常に体力が回復し続けてる。さすがに大蛇と戦ってた時はみんなイライラして起きてたけど……」
「しょんなぁ……じゃあわたしなんて圧倒的な足手まといじゃないですかぁ!!」
「別に急ぎの旅ってわけじゃないし、そんなことねぇけどな。そもそもどこへ行くべきかよく分からねぇ……」
「ええええ!? 目的地決めてないくせにあの鬼の強行軍を!? ここ目的地じゃないんですか!?」
シャトルーニャが絶望の表情を浮かべている。そうか、ちょっとハードかもと思ってたけどあれは鬼の強行軍だったのか……地上へ出てから15年の間にすっかり俺の感覚は狂っていたらしい。ラインマーグは普通についてくるし、そんな大したことないと思ってたけど実際にはラインマーグがおかしかったのかもしれない……
「いやぁ、とりあえずフロストペインから離れたかっただけなんだよ実は……愛着湧いたら困るからな……あーでも、ここら辺あれか……【星都カラスム】に近いのか」
「星都カラスム……えっと、確か鬼神教徒達の街でしたっけ? 傭兵業が盛んで各地から強者が集まるっていう……」
「そうだな。てかそうか、あそこの信仰してる鬼神てラインマーグのことか……だからあいつ……ここら辺旅してる時コソコソしてたのか……ああああ!! そういえばあの野郎!! おい! ラインマーグ、出てこいよ!!」
「そんな適当に呼んで出てくるものなんですか?」
『呼んだ!? クローくんから僕を呼ぶなんて珍しいね!? ってあああ!? 聖女シャトルーニャ!? ついに二人が出会ったんだね!!』
俺が呼ぶとラインマーグは超速でやってきた。いつものごとく人サイズに大きさを抑えて、キラキラ輝きながら。
「てめぇラインマーグ! お前仕込みやがったな!? シャトルーニャに会わせるために俺を……ていうか、邪神が絡んでるって知ってんなら、どうしてお前が介入しない! お前がもっと前から介入すれば……」
「えええええええええ!? この人、いや、この御方がラインマーグ様!?」
『いやぁ、君は聖女なんだから様なんていらないよ! 僕のことはラインマーグと呼び捨てにしてくれてかまわないよ! だから言ってるでしょクローくん。基本邪神が動いても、直接神々に干渉してこない限り、僕は動けないんだ。僕が動けないから……君をあの場所に導いたんだ。君ならば、あの場所で起きるはずだった悲劇を食い止められると思ってね』
「はぁ? ちょっと待てよ。というかお前の話だとファーカラルがあの街で動くって話だったのに! ファーカラルはあの街にいなかったぞ?」
『ちょっとぉ! 僕が嘘をついたみたいに言うのはよしてよ。ファーカラルが動いていたのは本当じゃないか、そりゃ本人が直接動いたわけじゃないけど……まぁその、ちょっと騙すような感じになってしまったかもしれないけど……うぅ、でも僕は謝らないよ! もし君があの場所へ行かず、予言通りになっていたなら……あの街は聖女以外死亡。滅亡してしまったはずなんだ』
「予言だと? おい、ラインマーグ! 今まではお前の仕事のことを考えて追求しないでおいたが、今日はしっかり説明してもらうぞ!」
「そうですよ! わたし以外死んで滅亡ってどういうことですか!? どうしてそんなことが分かったんですか!?」
『予言では邪神の企みのせいであの街は……呪いに滅ぼされてしまう。ただ一人生き残ったシャトルーニャが悲しみから聖女としての力を覚醒させる。そうなるはずだった。まぁ予言と言っても大雑把にしか分からないんだけどね。預言者、君たちも聞いたことあるだろう? 世界の未来、運命を見通す、そうした存在が世界には何人かいる。神々の陣営に所属する預言者の一人が予言した』
「はぁ? じゃあ神々は起きる悲劇をわざと見逃してるってことか?」
『そうだ。神々は元々、人の世界で起きることは人が解決すべきと考えているからね。僕がクローくんと地上で共闘することがあったのは……神々の陣営から出た裏切り者を倒すためだったんだ。ようは自分たちのメンツを守る時しか動かないのさ。そんなのはゴミだ』
「えっ!? ゴミっ!? ラインマーグさん!? だだだ大丈夫なんですかクローさん?」
「おいラインマーグ。シャトルーニャをあまり怖がらせるなよ……」
『あっ、ごめんごめん。でも本当にゴミだと思うんだ。もし神々が基本的に地上へ不干渉を貫いているのなら、僕はその詭弁を認めたかもしれない……だけど、実際にはかなり干渉している。信仰を得るとかいって、人から魔力を受け取って。実際には自分を信仰する者たちに恩恵を与えているし、対立する神同士、信者で代理戦争させたり!! ああもう! イライラするよ!! 本当に! 嘘ばかりじゃないか!! 自分で人の世を乱すのはOKなのに助けるのは駄目、馬鹿じゃないの!?』
「うお……ら、ラインマーグさんは信者達に恩恵は与えてないんですか?」
シャトルーニャからツッコミが入る。まぁラインマーグにも鬼神教徒という信者がいるわけで……普通に考えたらなんらかの恩恵を与えていると考えるのが自然だ。
『え? 僕は恩恵与えてないよ? でも信者達は勝ったら勝手に僕のおかげで勝ったことにするせいで……そんなつもりないのに、なんか信仰されちゃって……だから貰っちゃった信仰心分はどうにか返したいと思って……そのでも、あんまし地上に干渉するのはよくないらしいから、彼らがご飯を食べる時は美味しくなるように恩恵を……』
「お前もバリバリ地上に干渉してるじゃねーか!!」
『ち、違うよ! クローくん! 僕を他の神々と一緒にしないでくれ! みんながみんなそうってわけじゃないけど、彼らは地上の存在から搾取するのが当然だと思ってるんだ。僕は搾取なんてしない! もらった分はしっかり返すんだ!』
「偉いなお前……」
『えへへ、そうかな? いやぁ照れるな~』
「イチャついてんじゃねーよ!! ぐぬうううううう!! まーたクローさんは人外には優しくする!! 人間差別反対!!」
『と、ともかく! そんなゴミみたいな神々のルール、いや詭弁が僕は気に入らないんだ。クローくんが地上に出てから予言の悲劇をクローくんと共に僕は食い止めてきた。そしたらみんな僕を警戒して予言の情報は僕に伝わらないようにした。今回だってギリギリの所で情報を盗み見ることに成功したんだ』
「……うーん、そうだったのか……気持ちは分かるがラインマーグ。お前のやったことによって神々の間でも不利益が発生したりしてないか?」
『ああ! 実はそうなんだよね』
いや「実はそうなんだよね」じゃねーよ……
『でもね、面白いことがわかったんだ。クローくん、君が聖女関連で動く時、予言において真に重要な部分は維持されているんだ。今回だってそうさ。街は滅亡しなかったけど、聖女が覚醒するという部分はしっかりと予言通りさ。他にも聖女の使い魔となる神獣が魔獣の軍勢と戦い勝利するも、片目を失うという予言だって、君が神獣と共に戦ったおかげで片目も失っていないし、周辺の街の被害だってゼロになった』
「神獣? あれ? そんなことあったっけ?」
『ほらあのアザラシだよ! 君が海辺で介抱したあの子のことさ』
「あいつ神獣だったのか……確かに妙に強かったけど、この世界のアザラシは異常に強いんだと納得してたわ……っておい! じゃあこれまでも俺は知らないうちにラインマーグの、神々のルール破りのために利用されてたってことじゃねーか?」
『うっ……で、でも! 君だって悲劇を食い止めたかっただろ? 僕と同じ立場だったら、君だってそうしたと思う。見過ごせなかったんだ……僕が動けないにしても、どうにかできる可能性があるなら……僕は……っ』
なるほどな……こいつがずっと不満げな感じだったのはこんな事情があったわけか……こいつもこいつで、俺に心配をかけたくないから、深くは話さなかったのかも知れねぇな。俺に黙っているから、罪悪感がわいて……だからか……だからこいつ、俺が呼ぶとすぐ来るのか……俺が困ってたらすぐに助けるために……
「ったく、お前……他の神々とやってること同じだぞ? 結局俺がお前の代行者として地上に干渉してるだけじゃねーか。まぁ、俺もお前もスタンスは同じわけだからいいけどよ」
俺はラインマーグに呆れつつも、結局フロストペインでの出来事を詳細に話した。そして、これから俺がどこに向かうべきか相談した。
『うーん、そうだね……バーグリーと繋がっていた邪教、そこを調べればファーカラルとつながっているだろうけど……今はファーカラルを追うよりも、君の戦力を増強するべきかもしれないね』
「戦力の増強? まぁ俺もファーカラルと戦うにはまだ力が足りないか……」
『いやいや、そういう意味じゃなくてね? 確かにファーカラルを倒すには力が足りないけど、そうじゃなくて──僕が言ってるのは君と共に戦う仲間を増やすべきだって言ってるんだ。君が人間を仲間にするのは難しいかもしれないけど、人間以外のタダヒト族や、そもそも人外であるなら問題ないはずだ。はっきり言って、個人の力でファーカラルを追うのは無理があるよ。彼は強力な転移の力と巨大な組織を持っているからね』
「仲間を増やす? おいおい、俺は復讐に関係ないやつを巻き込むつもりは……」
『邪神と戦う理由のある者なんてこの地上にはたくさんいるよ。関係ないやつなんかじゃない。あ! 良いことを思いついたぞ! 【断罪の聖都・ガリアン】に行くといいよ。あそこならきっと君の力になってくれる者がいるはずさ! あそこは邪神に恨みを持つ者がいっぱいいるからね!』
「え? ガリアンて……厳格な断罪神教徒の都だった気がするんですけど……そんなところに行って、クローさんの正体が邪神製の呪いの人形だってバレたら大変なことになるんじゃ……?」
『大丈夫大丈夫! クローくんだって邪神の被害者なわけだし、ちゃんと身の上を話せば納得してくれるさ!』
厳格な断罪神教徒とか聞いただけでヤバそうな字面だよな。俺は不安をおぼえるが、ラインマーグが大丈夫だと言ってるし多分大丈夫だろう。まぁ、俺が死ぬレベルで追い詰められるなんてことはそうないだろう。なんなら聖女もいるしな。まぁ行ってから考えよう。ヤバそうだったら帰ればいい。
俺はラインマーグの助言通り【断罪の聖都・ガリアン】に向かうことにした。
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