第10話:パワー負けしてしまった
「でもクローさんはなんであんな回りくどいことを? 何か理由があるんですよね?」
俺はシャトルーニャ達、フロストペインの住人から持て成しを受けていた。と言っても俺が、生活に支障がでるようなレベルのは嫌だったので、質素な感じで頼むというと渋々納得してくれた。苦しい思いをしてきたこいつらに今無理をさせたくない。結局、俺はシャトルーニャの育った教会の孤児院で持て成しを受けた。まぁ、ここの子供らも俺のついでにいつもより豪華な飯にありつけるだろうしな。味は良かった。
子供はうまいうまいとはしゃいでいた。良かった良かった。そうじゃねぇ……そうじゃないだろ……
「俺には人間を愛せない呪いがあるからだ」
「え? でもクローさんは人々を思いやってるじゃないですか、矛盾してないですか?」
「……俺としてもあんま納得いってないんだけどさ、なんかこの呪いは俺が対象と関係を築かないという意思、決意があれば発動しないんだ。だから今も俺はお前らと深い関係は築かないと思って接している。もし発動したならお前たちをとんでもない不快感が襲う。100%吐く、もし完全に発動したら自害すら考えるだろうな」
「えぇ~……? そんな変な呪いあります? そんな都合よく回避できてしまう呪い、なんか変じゃないですか? あ! でもでも! わたしは神々さえ防げない呪いの影響を受けないんですよ! ということは! クローさんはわたしのことは愛しても問題ないってことですよね! つまりわたしは世界で唯一人、クローさんが愛しても問題ない人間ってことじゃないですか!?」
「──ブーーーーーッ!?? 何いってんだお前!? 意味分かって言ってんのか??」
「やれやれ、これも若さだねぇ。わたしゃイライラしてきたよ」
シスター・フランが小言をこぼす。それでシャトルーニャは冷静になったらしく……
「あ……あああああああああ!? わ、わたしはなんてことを言って……あうぅ……」
自爆していた。顔を真っ赤にしていた。忙しいやつだ。
「まぁでも、ちょっと試してみてくださいよ。もしかしたらわたしにはクローさんの人間を愛せない呪いが効かないかもしれないですし」
「……じゃあ、やばくなったら言うんだぞ?」
俺はシャトルーニャに対して、人を愛せない呪いを発動させてみることにした。シャトルーニャを愛したいだとか、そういうわけではなく、単純に聖女に対しての効力はどうなのか? ということが純粋に気になったからだ。結局、俺はこの呪いのことがよく分かっていないからな。他の呪いはほとんど制御できるようになった俺だが、この呪いは制御できるようになっていない。この呪いは最初から変な抜け道があって、俺が頑張ってどうにかしたものじゃない。
とりあえず小手調べで、領主の倉庫で兵士の兄ちゃんを吐かせた程度の出力で発動してみた。
「あれ? これ発動してるんですか? 確かになんか、うーん? でも全然余裕ですけどね!」
シャトルーニャは余裕、と笑っている。それじゃあ出力をあげる。常人であるならば自殺を考えるレベルに引き上げる。
「ぬがっ……ぐぬ……ぬぬぬぬ、ぐ、まだ! まだいけますよ!!」
露骨に顔が青ざめるシャトルーニャ。胸を抑え、吐き気を我慢しているのが分かる。まぁ明らかに大丈夫じゃないな。というかこんなの飯時にやることじゃねぇな、冷静に考えたら。
「やめやめ、どうみても大丈夫じゃねーだろ。今は飯時、無理して滅茶苦茶にされたんじゃたまったもんじゃねーよなぁ? なぁお前ら」
「あはは、ルーニャ姉ちゃん変な顔~!」
子供達は吐き気を気合で耐えようと変顔になってしまっているシャトルーニャを笑った。まぁ発動は切ったが、吐き気の余韻は残るからな。
「まぁでも確かに、耐えてるな、かなり……今のは常人なら自殺を考えるレベルの呪いの強さだった。でもお前は吐き気程度に軽減されていた。完全な無効化は無理みたいだが、どうやらある程度の耐性があるみてーだな」
「あれ? でもそれっておかしくないです? だって聖女であるわたしは創世神の力で呪いを無効化できるはずじゃないですか? なのに軽減だけなんですね。となると、創世神の力でも無効化できない呪い、創世神に匹敵する何かの力を持った呪いってことに……」
「まぁ、そういうことになるな……謎は深まるばかりだ……だが、この呪いはファーカラルによって受けた呪いだ。ならファーカラルも創世神の力、もしくはそれに匹敵する何かの力を持っているってことになるのか? ん~でもファーカラルはタイマンだとラインマーグにボコられる程度の強さらしいんだよなぁ。はぁ~わけがわからん」
まぁ結局この呪いについて知ろうとするならファーカラルのことは避けては通れない感じだな。元々ファーカラルに用があるわけだから別に行動指針が変わるわけでもないけど。
「そう言えばちょいちょいクローさんラインマーグって言ってますけど。ラインマーグって聖鬼神ラインマーグのことですか? お知り合いなんです?」
「あれ? ラインマーグのこと知ってんのか? そうだ、聖鬼神ラインマーグのラインマーグだ。あいつは知り合いっつーか、友達だな」
「あれ!? 友達!? 待ってください! クローさんは人を愛せないんじゃありませんでした!?」
「まぁラインマーグは神だからな。呪いは発動しなかった。ちなみに言うと地獄の住民、魔族たちにも発動しなかった。普通のエルフは発動したがハイエルフになると発動しなかった。ホント、人間族ピンポイントなんだよ」
「んなぁーーー!!! ずるいずるい! そんなのずるいです! 人間差別反対です!」
「あのなぁ、俺だって好きでそうしてるわけじゃねーんだよ。大体、差別しまくり排斥しまくりの人間に言われたくねーよ」
怒ってブンブン手を振り回すシャトルーニャ。行儀が悪い。
「ラインマーグって有名なのか? あいつは神になって日が浅いから地位が低いだのどーだの言ってたけどさ」
「あんた知らないのかい? ラインマーグ様は有名も有名、超有名だよ! なんてったって人間族と同じく、タダヒトの怒鬼族(どきぞく)から神様にまで成り上がった。傑物だからねぇ~あの御方の英雄伝説は数しれない。武人は大体ラインマーグ様を信仰してて、超大人気なのさ」
興奮してラインマーグのことを語りだすシスター・フラン。え? なんで?
「おいおい、どうしたんだよ。シスター・フラン。そんなに興奮して……」
「あーもう、クローさんたらほんと分かってないんだから! ラインマーグ様は超イケメンで、武人からだけじゃなく女子人気が高いんだよぉ! あたしも、若い時はラインマーグ様の夢小説を書いたもんだよ」
夢小説? なにそれ……
「ラインマーグってイケメンなのか? 俺素顔見たことないからわかんねーな。あいついつも光り輝いてて顔見えねーんだよな」
「そりゃそうさ! あの御方がイケメン過ぎて、顔がさらされてると女神達がまともに呼吸もできなくって、歩けなくなったって話があるんだよ!? だからラインマーグ様は優しさから素顔をお隠しになったんだよ。あんただってラインマーグ様の素顔を見てたらラインマーグ様の女になってたかもしれないよ!?」
「いや、あの、俺男……」
「そんなの関係ないよ!! 男だろうがなんだろうが、ラインマーグ様の前では女になるんだよ!!」
「そうなんだ……」
俺はシスター・フランの圧に負け、納得するフリをしてしまった。結局変な逸話しかわからなかったけど、ラインマーグは思ってたよりも凄いやつっぽいな。けど元はただの人間……ではないけど、人族系の存在だったんだな。
「さて、そろそろ俺はまた旅に出るぞ。世話になったな。達者で暮らせよ」
「旅に出るんですね! じゃあ、行きましょうか!」
「は?」
シャトルーニャ? お前は何を言ってるんだ?
「だってクローさんは世直しの旅に出るんでしょう? きっとまた人助けの旅をするはずです! 仮に旅の目的が人助けでないとしても! きっと人助けをしてしまうはずです! 実は! わたしもそういう人になりたいんです! 理不尽を打ち砕く! 強くて立派な神官になりたいんです! だから、恩返しも兼ねてわたしもクローさんと一緒に旅をします!」
「そうかい、がんばりなシャトルーニャ。ここしばらくクローさんと一緒に過ごしてわかったけど、この人は危なっかしいところがあるからね。あんたが助けになってやんな」
あれぇ?
「おい、俺は──」
「──無駄ですよ!! クローさんが断っても、勝手について行って、勝手に恩返しするんで!! もう! 決めたことなんで!!」
ぱ……パワー系すぎる……
「それにクローさんも内心嬉しいんじゃないですか? だって顔がニヤけてますよ? これまでの旅、一人で寂しかったんじゃないですか?」
は? いや、そんなわけ……俺は部屋の隅にある鏡を覗いた。すると、そこには微妙なニヤケ面を浮かべた、死ぬほど血色の悪い男がいた。
「……っく……だが、俺はお前と仲良くするつもりなんてない! 勘違いするなよ!?」
こうして俺の旅に、シャトルーニャが勝手に同行することになった。
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