第9話:謀略が暴かれてしまった



「アブソリュートウォール!!」



 街を走り去るはずだった俺は見覚えのある、輝く槍の檻に閉じ込められ、逃走を妨害されてしまった。



「んぐっ!? しゃ、シャトルーニャ!? お、お前余計なことすんなよ!!」



「嫌です!! クローさんのことを誤解させたまま行かせるなんて嫌です!!」



「シャトルーニャ、誤解ってどういうことだい? あの男がみんなの復讐を奪ったのは事実じゃないか。それに邪悪な、化け物の触手を体から伸ばしていたじゃないか」



「シスター・フラン! 確かにクローさんは気色悪くて、化け物みたいだけど! 心は誰よりも優しい人です!! だって! 見ず知らずのわたし達を命がけで助けて! わたし達に同情して泣いてくれたんですよ!? みんなもクローさんが泣いてたの見ましたよね!?」



 シャトルーニャに同意するように俺もクローが泣くのを見たとか、わたしも見たとか。そういう意見が出てきちゃった……想像以上に目撃されていたらしく……気づけば大蛇と戦った広場にいたほとんどの人、80人ほどが、俺が泣いていたのを目撃していたことがわかった。



「ふふ、わたしにはわかりますよ! クローさんがなぜあんなことをしたのかがね! おかしいと思いませんか? 呪いの大蛇を倒して、街を救って、そのお礼を、持て成しをしろって言って、領主に会いに来た。だけど実際には持て成しを拒否して、領主の悪事を暴いて、その領主を殺して去っていく。おかしくないですか?」



「確かに目的がよく分からないねぇ……復讐のエネルギーを糧にする妖怪だったりするのかねぇ?」



 やめろ、シスター・フラン……それっぽいことを言うんじゃない……



「そもそも命をかけてわたし達を救う理由がクローさんにはないはずです! だけどそうした。救ったあと、わたし達を見て! 良かったと泣いていた! これはわたしが思うに、クローさんが超ド級のお人好しなんじゃないかって! お人好しだから、命がけでわたし達を、救う必要もないのに助けて、わたし達のために泣いた」



 っく……違う。俺はお人好しなんかじゃない……ただ身勝手なだけだ……



「そして、領主の悪事を知ったクローさんは領主バーグリーが裁かれるべきだと思った。だけど、こんなことをしでかしたバーグリーを誰も許すわけがありません。罪が暴かれたなら、みんなバーグリーを殺してしまう。でもみんな忘れてないですか? バーグリーは悪党だけど領主ですよ? わたし達が殺せば、その罪は王都、国に追求されることになったはず。クローさんはそれが嫌だったんです! わたし達が罪を背負わず、これからを生きていけるように、領主殺しの罪を背負ったんです!! そう、わたし達のために!!」



「っぐぬっ……や、やめ、やめろぉ!! シャトルーニャ、余計なことをするんじゃなーいぃぃ!! そこまで意図が読めるならやめろよぉお……」



 俺がそういう言うとシャトルーニャはニッコリと笑った。なんでだよっ!!!



「領主を殺して、わたし達の復讐を奪ってしまう。クローさんはそんな罪悪感から、自分を悪いやつに演出しようとしたんです。よそ者の自分を悪者にして場を収めようとしたんです! でもそんなのおかしいです! わたしはそんなの納得できない!! だってこの人! いい人じゃないですか!!」


「ねぇ、シャトルーニャ。だったらクローさんの気持ちを汲み取ってあげるべきだったんじゃないかい? せめてあの人がここを去ってからみんなに説明するとかさぁ……」



 シスター・フラン……なんていいヤツなんだ……あんたが正しい、シャトルーニャは間違っている。



「嫌!! そもそもクローさんは自分を悪者にする必要なんてありません! 確かにクローさんは領主を殺した、領主殺しの罪を背負った。だけど! わたし達が! 彼を憎んだり、誤解したまま生きる必要なんてどこにもない! 恩人に、そんな不義理な感情を抱くなんて間違ってる! 受けた大恩を返す! それが筋ってもんでしょ!」



 ね、熱血、そしてパワー系だ……民衆はシャトルーニャに……説得されてしまった。誤解も何もない……俺が望まない形、民衆が俺を穏やかな笑顔で見つめてくる……おい、お前ら、忘れていないか? その笑顔の横に……バーグリーの首が転がってるんですけど……



 結局俺はこの領主不在のフロストペインで持て成しを受けることになってしまった。どうにか抜け出そうとしようにも常にシャトルーニャに監視されている。



 こいつが寝ているうちに抜け出そうかとも思ったが、その思考を読んでいるシャトルーニャは気合で起きようとした。目を無理やりかっぴらいて、隈をつくったシャトルーニャの顔はホラーだった。流石に可哀想なので、俺は逃げないから寝ろとシャトルーニャを寝かせた。



 俺が嘘をついたのかもしれないのに、シャトルーニャはそれを信じて、あっさりと寝た。穏やかな寝顔だった。聖女……これがなぁ……俺が追ってきた邪神ファーカラルの因果に繋がる存在。強い力を持っている。ただの人として生きられない宿命を持っている。だけど、思ったよりも普通の女の子だった。暑苦しいしパワー系だったけど、いいやつだった。



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