第22話 アイドルへの思いは、忘れかけていた記憶を、はるかな距離によみがえらせる、装置だ。あの人に、チケットを、2枚もらっちゃいました!

 「レイカさん?」

 「はい」

 「私…」

 「はい」

 「倒れた間…。うわさ、されていました」

 「…」

 「あの子は、消えたんだよね。もう、復帰できないんじゃないのって」

 「…」

 「あの子、モモカって、いったっけ?死んじゃったんじゃないのって」

 「…」

 「ステージのライバル、減った!って…」

 一息、ついた。

 事務所からは、あっさりと、解雇されたという。

 「解雇通知をもらったとき、頭の中が、真っ白に、なりました。もう、私は、売れ筋商品なんかじゃあ、なくなっていたんですね」

 「…」

 「アイドルを…。このモモカを、バカにしないでよ!って思っちゃって。皆、死んじゃえば良いんだ!って…思っちゃって」

 「…」

 「私は、泣いてしまいました」

 「…」

 「もう、無理。こんな私は、本当のアイドルには、なれないんだろうなって…」

 「…う」

 え?

 私も、泣けてきちゃったじゃないか。

 「これが、アイドルの世界なんですよ」

 「…」

 「レイカさん?」

 「はい」

 「あなたが、ダンスをして、アユを歌う姿が…。今、疲れてしまった私の心と目に、はっきりと、見えてきました」

 「え」

 「私の疲れた目の力の代わりを、私の身体のどこかが、やっていてくれているのでしょうか?医学的な、代償作用なのかな?」

 「…」

 医学の話まで、出ちゃった。

 モモカさんって、頭も、良いんだろうなあ…。

 「レイカさん?」

 「はい」

 「あなたは、立派なアイドルになってね」

 「…」

 どうしよう。

 もう、アイドルになるんじゃなくって、目に障害を抱えた人の力になりたいと、思いはじめていたんだから…。

 「私は、アイドルになりたかった」

 そんなことすら、忘れかけていたんだし。

 アイドルへの、思い。

 それは、忘れかけていた、本当にやるべき記憶を、はるかな距離によみがえらせる、装置なんだろうな。

 「…レイカさん?」

 「はい…」

 「これを…あげます」

 チケットを、2枚くれた。

 「ぜひ、きてください」

 「これ…」

 「これが…ラストステージの…私の、最後のライブチケットです」

 「あ、ありがとうございます!」

 「このステージで、私は、アイドルを、引退しますから」

 「卒業、ですか…?」

 「いえ…引退です」





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