第8話 「ああ、この子は…!」まずは、目の専門施設に移って、気持ちと身体を、整えよう。私、群馬という、謎の帝国に向かいます。

 ああ、この子…。

 この子、は…!

 近そうで遠くの面の中で、踊って歌っていたのは…!

 オーディションのとき、タキシード蝶ネクタイに詰め寄った子だ。

 「面接時間が、長すぎると思います。皆のためにも、なるはやで、お願いします」

 ってなことを、言っていた子!

 モモカ。

 モモカ。

 ケンジョウモモカ!

 「何で?」

 あのオーディションには、皆、落ちちゃったんじゃないの?

 司会者が、にっこり!

 「…新人アイドルの、ケンジョウモモカさんでした!」

 新人?

 そうか!

 他の事務所の、他のオーディションに受かったっていうこと?

 いやな言葉を、思い出した。

 「出来レース」

 ちゃっかり、他の事務所に入っていたんじゃないのかな?

 「…コネで?裏金で?」

 やめよう。

 「アイドルの世界って、恐ろしいよう。目が、痛いよう…」

 再審査の日までは、まだ、時間があった。

 「一旦、目の専門の施設に移るしか、ないのかな…?そこで、気持ちと身体を、整えよう」

努力。

 努力。

 「努力のできる女性は、美しい」

 つぶやくと、一層、腰の曲がった母親が、美しく感じられた。

 「ねえ、お母さん?」

 「何ですか?」

 「何か、手伝うことある?」

 「ない」

 「うわ」

 「レイカ?今度、群馬の施設に移るんだって?」

 「うん」

 「お母さんは、心配よ」

 「平気だよ。短期で宿泊の就職施設で、生活できるんだから」

 目の保養施設だとは、言えなかった。

 「レイカ、気を付けてね?」

 「子どもじゃあ、ないのに…」

 「あなたは、充分、子どもですよ」

 「一部、成人扱いでも?」

 「子どもですよ」

 「18歳、でも?」

 「あなたは、何があっても、充分、お母さんの子どもです」

 「…」

 「心配よね…」

 「心配、しないでよ。ショートスティなんだから…」

 「福祉関係の、就職会…?」

 「うん。まあ…」

 「何か、お母さんにおねだりしたいこととか、あるんでしょう?」

 「ちぇっ、読まれていたか…」

 「わかるわよ」

 「そう?」

 「お母さんは、何年、あなたの母親をやっていると思っているのよ」

 心を、読まれる。

 オーディションのときの、タキシード仮面を、思い出しちゃうな。

 間違った。

 仮面は、付けていなかったっけ。





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