第5話 今度は、足元をすくうと言って、母親に注意されました。社会の、流れ、言葉の、流れ。大人なアイドルなら、ぶれないようにしたい!

 世間ずれって、ピンチ?

 「あなたも、じいじとばあばの世代、ね」

 「はい?」

 「それとも、今どきの学校の先生?」

 「はい?」

 「良いですか、レイカ?」

 「うん」

 「世間ずれっていうのは、世間からずれているっていうことじゃなくて、世間とすれた…。社会経験の中で、こすりあって、ずる賢くなったっていうことです」

 「そうなの?」

 「ただ…。レイカは、まだまだ、子ども」

 「むかっ」

 「社会経験を重ねたわけじゃないから、レイカには、どうかと思う言葉だけれど」

 「…」

 「何ごとも、経験か…」

 「そうだよ、経験だよ!早く、アイドル審査の日がくれば、良いね?」

 「気楽ねえ…」

 「あーあ。知らなかったなあ。世間ずれって、世間とずれているっていう意味だと、思ってた」

 「あんた…。本当に、社会で、恥をかくわよ?」

 こうやって、母子の会話っていうのは、どちらかの主導権でバランスを取り合って、コントロールされていくものなんだろう。

 「困ったね、お母さん?」

 「困ったわねえ。何をしても許されてきた世代は、ずる賢さで、足元を見ているのね」

 「そうだね。社会は、私たちに、足元をすくわれる」

 「ほら、また、違う」

 「え、あれ?」

 「足元をすくうんじゃなくって、足元を見る、でしょ?」

 「あれ?足元をすくうって言っていたアナウンサーが、いたよ?」

 「あれは、そういうレベルの子なんです」

 「アナウンサーって、誰でもなれるんだ」

 「…」

 「アイドルも、誰でもなれる?みたいな」

 「…ああ。人材不足社会の、ワナ」

 「…はい?」

 「困るよねえ、レイカ?」

 「何が?」

 「そんなに努力しなくても、就職できちゃう社会。今は、国語辞典でも、足元をすくわれるの言い方を載せているものがあります。言葉の変化は、ネガティブでもある。使う人が、本来の意味を、見失っちゃったからでもあるでしょう。だから、辞書の書き方も、変わってきた。社会が変われば言葉も変わり、その逆もありって、その通りねえ」

 「…ちぇっ」

 「足元をすくおうとしても、そこは、空気です。スカッと、空振り」

 「はい、はい」

 大人なアイドルって、言葉の勉強もしなくっちゃならないんですか?






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る