第97食 真の理由があったとしても、やっぱり黄色イメージのカレーは金曜だよね:やっぱりカレーは金曜日だよね(B21)

 この日、〈金〉曜日の午前中、九段下駅から出た書き手は、市ヶ谷方面に向かって靖国通りを上がっていった。

 目指すカレー店は、その名も「やっぱりカレーは金曜日だよね」である。


 市ヶ谷と言えば、防衛省が位置している界隈で、それゆえにか、店内には、航空機のミニチュアが置かれ、自衛隊にちなんだメニューもある。

 例えば、「空上げ(からあげ)」とは、もちろん、唐揚げの事で、そもそも、「航空自衛隊」の食堂のメニューであるらしく、この名称には、「空自全体で上を目指す」という想いが込められている、という。

 だからこそ、この店も唐揚げ、もとい「空上げ」を提供しているのだ。


 一方、「陸上自衛隊」に関しては、全国の各駐屯地によって様々なメニューがあり、〈丼〉メニューだけでも多種多様らしいのだが、市ヶ谷のこの店では、北海道の〈美幌〉駐屯地の「ロコモコ丼」が提供されている。


 しかし、やっぱり、店の中心となっているのはカレー・メニューである。


 カレーに関しては、例えば、「市ヶ谷ブラックイカスミシーフード」といった、店が位置している「市ヶ谷」の地名が入った皿、月替わりの「海自カレープレート」といった海上自衛隊を想起させる皿、あるいは、「やっぱり金カレー」、そして「やっぱり金カツカレー」といった曜日が名称に入っている皿、すなわち、市ヶ谷、海自、金といったように、この店では、何らかの関連語が品名に入っている次第なのである。


 ところで、何故に、海上自衛隊ではカレーが定番メニューになっているのであろうか?


 店の机上に置かれていたプレートによると、「長い船上生活で曜日感覚を忘れないため」に、海自では「毎週金曜日にカレーを食べる慣習が定着」したそうだ。

 ちなみに、艦艇や基地ごとに、様々なカレーのレシピがあって、その数は二百種類以上にのぼり、ここ「やっぱりカレーは金曜日だよね」では、各基地において金曜日に提供されているカレー・メニューを、月替わりで提供しているらしい。

 ということは、毎月、金曜日にこの店に通ったとしても、海自のカレーメニューを全て食べ尽くすには、単純計算で十五年以上もかかってしまう事になる。


 そういえば、南極探検隊でも、同じように、曜日感覚を忘れないために、毎週金曜日にカレーが提供されている、という話だったな、と思いながら、書き手は、何故に、カレー提供の曜日が金曜日なのか、そして、そもそもの由来は何なのか非常に〈き〉になってしまったのであった。


 まずは、何も参照せずに考えてみたのだが、そもそも、単に、曜日感覚を狂わせないために決まった曜日にカレーを食べればよい、という事ならば、七曜のうちの何れでもよいはずである。

 しかし仮に、月曜から日曜に、何らかのイメージカラーを付けてみるとしたら、例えば、火曜は赤、水曜は青、木曜は緑、金曜は黄、となるので、カレーに合う曜日は金曜日という事になったのではなかろうか、と推測してみた。

 戦隊ヒーローの元祖『ゴレンジャー』における「キレンジャー」だって、いつも、カレーを食べていたし、やはり、カレーのイメージカラーが黄である事に、異論反論を述べる人はそう多くはないように思われる。


 ところで、海上生活を送る、海軍や海自においてカレーを食べる習慣は、いつ、どのように始まったのであろう。


 明治時代の初めに創設された日本海軍は、慢性的な栄養不足に悩まされていたらしい。

 そこで、〈兵食改革〉が急務となって、その際に、栄養が豊富で、かつ、大量調理がし易く、しかも美味という点において、既にイギリス海軍で採用されていたカレーが、日本海軍においても摂られる事になったのだそうだ。


 この情報を知った書き手は、そういえば、北海道大学の前身である「札幌農学校」においても、似たような理由で、寮生に出すメニューとして、ライスカレーが採用されていた事を思い出したのであった。

 だがしかし、海軍において食事のメニューにカレーが採用されたのは、確からしいのだが、毎週決まった曜日にカレーを食べていた、という資料は、実は存在しないそうだ。


 戦後になって、自衛隊では、半日勤務の土曜日の昼に、片付けがし易いカレーを作る部隊が増え、そして、週末の土曜にカレーという習慣が定着してにゆき、やがて現在のように、カレーを規則的に金曜日に食べるようになったのだが、それは、自衛隊において週休二日制が採用された時であるらしい。


 つまり、土曜が休日になった結果、終末の休みの前に片付けに時間を使いたくなかったが故のカレー・メニューの提供日が、土曜の昼からの前日の金曜日のズレた、というのが、〈カレーは金曜日〉の事の真相であるらしい。

 

 金曜は黄色のイメージだから、という分けでもなく、海上生活で曜日感覚を忘れないための金曜のカレーという理由も、実は〈都市伝説〉であったようだ。

 だがしかし、カレーは黄のイメージで、だから、曜日感覚維持の為の金曜にはカレーを、という〈神話〉にはロマンがあるように思えるのは、はたして、書き手だけであろうか。


〈追記〉

 年度が代わった、四月のとある日の晴れた昼時に、書き手は、再び「やっぱりカレーは金曜日だよね」を訪れたのであった。

 ちなみに、やっぱり、この店の訪問日を、意図的に金曜日にしたのは言うまでもない。


 この日の書き手は、「海自カレーセット」を注文した。

 海自セットは、二つの皿によって提供されるのだが、ライスカレーが盛られているのは、潜水艦型の器で、艦体は濃い灰色、鼻に当たる部分には旭日旗、上に突き出た出っ張り、「セイル」という名称らしいのだが、そこに「501」とナンバリングされていた。

 一方、飛行機型の器の方は、その翼の部分に、キャベツと日の丸をモチーフとしたプチトマト、そして機体には、二個の「空上げ」と抹茶系のデザートが乗せられていた。


 この月、二〇二三年四月の月替わりの海自カレーは、「佐世保基地業務隊 」の「キーマカレー」であった。

 食したカレーの印象は、かなりクリーミーで、もしかして乳が多めに入っているのかな、と書き手は思ったのだが、店のSNSを参照したところ、「スパイスでコクを出し、フルーツの甘みを凝縮」、「細かく刻んだ野菜とお肉の食感が楽しめるキーマカレー」との事であり、このキーマカレーの甘さは、どうやら、果実の甘さであるようだ。


 さて、潜水艦式のカレー皿に入れられたライスカレーは、艦体の方にカレー、旭日旗の方にライスが入れられていたのだが、食べながら書き手が面白みを覚えたのは、セイルの下、鼻の奥の方にまで、ライスが詰め込まれているので、結果として、スプーンで奥まった所にあるライスを掻き出さねばならない点であった。実は、この店のスプーンは、スコップ型のスプーンなので、食事の際に、まるで、雪のように白いライスをスコップで、こう言ってよければ、〈ライス掻き〉をしているような感じになって、書き手は、ちょっと楽しくなってしまった次第なのである。


 やがて、「ごちそうさま」をしてから、来月、五月の月替わりの「海自カレー」は何なのかな、と思いながら、書き手は店を後にしたのであった。


〈訪問データ〉

 やっぱりカレーは金曜日だよね;九段下・市ヶ谷

 B20

 十一月二十五日・金・十一時半

 やっぱり金カツカレー:一〇〇〇円(現金)

〈再訪〉

 二〇二三年四月十四日・金・十二時

 海自カレーセット・大(佐世保基地業務隊キーマカレー):一一〇〇円(現金)

  

〈参考資料〉

 「やっぱりカレーは金曜日だよね」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、七十二ページ。

〈WEB〉

 『【公式】やっぱりカレーは金曜日だよね』、二〇二三年四月四日閲覧。

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