第144話 巨人の街を観光 「巨人のお姉さんのおっぱいは巨大だな」

「うっわー、でっけー!」


 兵士の宿舎から出た俺たちは、街中へと移動した。


 巨人の街を移動する俺たちは、その壮大なスケールに圧倒されていた。

 大通りの両側に立ち並ぶ普通の二階建ての建物が、ビルぐらいのサイズがあった。数階建ての大きな建物などは、高層ビルのサイズである。


 この異世界にきて、街並みは向こうと比べてこぢんまりとしたものに感じていたが、この巨人の街の光景は、ニューヨークの摩天楼か大東京かという趣があった。


 なにしろ、五階くらいの高さに、〝雲〟がかかっているのだ。スカイツリーぐらいの高さがあるというわけだ。


 その巨大建造物の合間を、俺たちは飛んでいた。

 ヘリコプターに乗ってビル街を飛び回るぐらいの――、そんな高度と速度と光景だ。


 移動はすべて飛行魔法で行っていた。

 このスケールの巨大都市を、足で歩いてなどいたら、見えているすぐそこまでの移動に、何十分もかかってしまうだろう。


 飛行魔法は、本来、かなり魔力コストの高い上級魔法なわけだが、なにしろ俺たちには大賢者と大魔法使いがいる。消費MPは自然回復分だけで事足りるので、ずっと飛行することだって可能だ。

 なんなら空中戦だって行える。


「しかし……。スケールこそデカいが、見えてるものは、変わらんなぁ」

「巨人たちも文明レベルは下界と大差ないようですね」


 モーリンが興味深そうに言う。建造物の作りを見るかぎり、文明レベルと技術レベルは人間世界と大差ない。


 大賢者でも知らないことがあるんだー、と、はやしたてると、すねてしまうので、自重しておく。

 モーリンは世界自身、、、、であるわけだが、この天空の浮遊大陸については情報を持ち得なかった。世界樹の根が張り巡らされている地域の情報しか伝わらないのだ。あれはどうやら〝世界〟の神経細胞の役目も果たしているらしい。

 この天空大陸には世界樹の根は届いていない。よって〝知覚外〟となるわけだ。そのせいで、二つほど昔の文明の担い手であった巨神たちの生きているロストワールドが、誰にも知られずに残っていたわけだ。


「もっと高度を落として、街中を飛んでみるか」

「見つかったら、怖くない?」

「ビビってんのか? 駄犬?」

「駄犬ゆーな。あとビビってない」

「なに。虫か鳥だと思うさ」


 俺たちは高度を落として、街中に下りていった。

 ちょうど巨人たちの目の高さぐらいを飛行すると、妙な錯覚が起きるようになった。


「なんか、普通サイズに見えてくるんだけど……」


 アイポイントを合わせると、巨人スケールの街並みが、普通サイズに見えてくるから不思議だ。


 行きかう巨人たちは、普通に生活していた。

 店の露天があり、買い物をしている女が、野菜を値切っている。解体された獣が、断面をさらして吊されている。

 ごくありきたりな市場の光景に思える。


 巨人兵士のエイルとアミィの話では、この国の統治形態は、極端な軍国主義であるらしい。住民はすべて、軍のなかの何らかの部署に所属しているようである。実際に武装している兵士だけでなく、そこの露天で巨大なカボチャを値切っている太っちょのオバちゃんも、この国においては〝兵士〟であるわけだ。


「まー、軍っつーたって、兵站科や工兵なんて、やってることは、町民と大差ないしなぁ」


 この国では、食物調達――狩りや農業まで、〝軍〟の任務の一環となるわけだ。やってることは普通の国と大差なくなってくる。ナンチャッテ軍人だ。

 ちなみにガキどもは、この巨人の国でも学校に通って教育を受けているわけだが、それも兵士の仕事であるらしい。教練任務とかゆーらしい。


「ねえ。オリオン」

「うるさい。いまいいところなんだ」


 妙齢の美人の巨大なバストに見入っていると、駄犬のやつが、なんか言ってきた。

 なんだ。妬いてんのかよ。


「あのね。オリオン」

「しらんな。おまえにいったいなんの権利があるというんだ」


 俺はあえてバストから目を離さず、そう言ってやった。

 おっぱいと言えば冒険者ギルドの受付嬢なわけだが。どこのギルドの受付嬢にも負けないおっぱいを誇っている。まったくけしからん。上乳を露出させているのに自立して、これほど巨大であるのに重力に逆らって前方に突き出しているのが、本当にけしからん。

 けしからんので、ワガママ放題に育った見事なおっぱいを、ガン見してやることにする。


 しっかし――。他の女のおっぱい見てるくらいで騒ぐとは、躾が足りんな。もっと厳しく躾けないといかんな。駄犬だしな。


「なに言ってんのよ? さっきから」

「おまえこそ何様のつもりだ? 恋人気取りか? 片腹痛いぞ」


 駄犬があまりにうるさいので、顔を向けてやった。


「だから目が合ってるってばー」

「……目?」


 急に日陰になったので、顔を上に向ける。

 おっぱいの持ち主が、かがみこんで、俺たちを、じーっと注視していた。


「やあ」


 俺は片手を挙げて挨拶をした。


「あ、貴方たちは……」


 巨人のお姉さんが、口を開いた。


「で、伝説の冒険者の方々ですか……?」

「は? 冒険者?」


 サイズ違いに突っこむじゃないのか? きゃーとか言って騒ぐんじゃないのか?

 すくなくともエイルとアミィは、はじめ、俺たちを見たときには、大騒ぎしていた。エイルは虫かなにかと思ったそうで、叩き潰そうとしてきた。

 同室のアミィ(ロリっ子兵士)のほうは、かわいいかわいいと黄色い悲鳴をあげていた。着せ替え遊びの人身御供には、おもに駄犬を差し出した。


「おー。……まあ冒険者ではあるな」


 しばらく忘れていたが、そういえば俺たちは冒険者なのだった。

 人類文明が栄えている中央大陸を飛び出すと、冒険者であることなんかは、関係なくなってしまうのだが――。いや。あったな。冒険者ギルド。魔大陸にも。


「その者――。小さき者たち。いつかこの地を訪れん。その小さき者たちの名は〝冒険者〟なり」


 見事なおっぱいの持ち主であるお姉さんが、伝承でも朗読するかのような厳かな口調で、そう告げた。


「いやそんな大層なものでもないが……。ほら。冒険者カード」


 俺は冒険者カードを取り出した。


「き……」


 お姉さんは声を詰まらせている。


「き?」

「きゃああぁ――っ!」


 黄色い声が上がる。俺を抱きしめられた。


「うおっ!」


 巨大なおっぱいにホールドされた。全身が埋没した。


「冒険者ギルドに! ようこそー!」


 お姉さんはそう言った。


 冒険者ギルド……。ここにもあったのか……。

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