23.巨人の国でジャイアントキリングする
第143話 お留守番 「おとなしくしてるっすよー?」
「じゃ、仕事に行ってくるっすから。おとなしくしてるっすよー?」
「おー、いてらー」
巨人兵士のエイルとアミィの二人を、俺たちは見送った。
アレイダとスケルティアとモーリンも、それぞれ、「いってらっしゃ~い」とか、「いて。ら。」とか、「いってらっしゃいませ」とか、見送っている。
二人の姿が遠ざかる。部屋の中とはいえ、航空機がしまえる格納庫ぐらいのサイズなので――。空気の厚みでぼやけて、遠近法的表現が必要なぐらいの距離が開く。
ドアが閉じるのが見えてから、たっぷり一秒以上してから、「ばたん」と音が聞こえてくる。
俺たちは巨人たちの街にやってきていた。
……と思う。
実際には街の中は見ていないから、「思う」としか言いようがない。
もう数日は経つが、この部屋から出ていないのだ。だから詳しいことはわからない。
〝俺の女〟となった巨人兵士のエイルは、この巨人の国の下級兵士らしい。
同室のアミィという、黒髪ロングのロリ系少女も同じ階級の同僚だ。ロリといっても巨人のロリだから、ちっぱいでも、バスト何十メートルとかいう領域ではあるが。
二人は下っ端も下っ端。
番兵や見回りをやるようなド底辺だ。毎朝早くから夜遅くまで、みっちりと仕事がある。
そして疲れ果てて帰ってくる。
とんだブラックっぷりだ。まあ軍隊っていうのは、どこでもそうなのかもしれないが。
勇者と社畜ならやったことがあるが、兵士はやったことがないので、わからない。
俺たちは馬車の中の亜空間にあった屋敷を、エイルの机の上に広げていた。
サイズの対比的に、まるでミニチュアのドールハウスのようだった。
机の上の広さに、屋敷が入りきってしまう。それが巨人たちとのスケールの違いだ。
「さて……、行ったか」
俺は振り返ると、皆を見た。
いくつものうなずきが返ってくる。
皆、すっかり悪いことをたくらむ顔になっている。
スケルティアとミーティアの二人だけ、よくわかっていなくて、きゅるん、とか、ニコニコ、とか、ほかと違う顔になっているが……。
「さあ。エイルとは約束したなー。〝おとなしく〟しているってー」
「はーい!!」
皆の声が返ってくる。
「おとなしくするって約束をして、おとなしくしているやつって、いるのかなー?」
「いませーん!!」
皆の声が返ってくる。
俺は悪い顔を浮かべた。
皆も悪い顔で返してくる。(除くスケルティアとミーティア)
俺たちの不満は、溜まりに溜まっていた。
この部屋に連れてこられて以来、一歩も外に出ていないのだ。
せっかく〝巨人の国〟とやらに来たというのに、見えるのは下っ端兵卒の相部屋の内装だけ。スケールこそ違え、置いてある物は、テーブル、ベッド、衣類をしまうチェストと、大差ない。
まったく退屈極まりがない。
俺たちは部屋の中でこっそりと飼われているわけだ。
夕飯時には、キュウリの切れっ端とか、ソーセージの切れっ端あたりを、彼女らが持ち帰ってくる。それを俺たちにくれるわけだが……。
虫かなにかだと思われているのだろうか。
屋敷ごと来ているから食料庫には食料がぎっしりと詰まっているし、世界各地への転移陣も健在なので、これまで通ってきたどの街にでも、買い物に行くことだってできるのだが……。
「さて、準備はいいか?」
モーリンとミーティアとで、飛行魔法を手分けしてかけ終わる。
テーブルの上は、俺たちからすれば何十メートルもの高さに相当する。
皆、Lvを上げて鍛えまくっているから、ビルの何十階から落ちたくらいでは死にはしないが、痛いし、HPも減る。
なにより、巨人スケールの建造物は、ばかみたいに広いので、走って移動していたのでは時間がかかりすぎる。
飛行魔法をかけたあとで、テーブルから飛び降りる。
「わっわっ、ちょっ――待って! なんでこれ! そっちじゃなくて! あっち! あっちだってばーっ!」
駄犬が大騒ぎしている。
いちおう魔法を使える
スケルティアは飛行魔法を掛けてやったというのに、蜘蛛の糸を飛ばして大スイングで移動している。蜘蛛子にとっては、そっちのほうが速いらしい。
そういえば、ニューヨークの摩天楼をホームグラウンドにしている親戚がいたっけな。
「わははははー! 飛ぶのに魔法がいるなんてー! 人族はなんと不自由なのだー!」
リムルは自前の羽で飛んでいる。
こいつには飛行魔法をかけてない。有頂天になっているから、じつは飛行魔法のほうが性能が高いとか、言わないでいてやろう。
クザクとエイティも魔法職なので、はじめての飛行魔法もそつなく制御している。バニー師匠や、ハイエルフのアイラに至っては、言うまでもない。
魔王城の門みたいに巨大な〝ドア〟を見ながら、さて、どうやって開けたものかと迷っていたら――。
「オリオン様、こちら――通れるのではないでしょうか?」
ミーティアが言った。
ドアの下に隙間があった。
普通サイズのドアなら1センチ程度の隙間なのだろうが、俺たちからすれば、ぜんぜん通れるスペースだ。
ドアの下の隙間を這って出る。ゴキブリの気分をちょっとばかり味わってから、俺たちは〝自由〟を得た。
左右にどこまでも伸びる廊下は、霞むほどの遠くまで続いていた。
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