第136話 ノーパンの日 「ご確認なさいますか?」

「本日を、ノーパンの日と定める」


 朝食の席で、腕組みをしながら、俺は重々しく、そう宣言した。


「は?」


 アレイダは、ぽかんと口を開けている。


「えっ……?」


 エイティは固まっている。


「のーぱん? ……それ。なに?」


 スケルティアは、きゅるんと小首をかしげた。


「はい。承りました」


 ミーティアは貞淑に頷いてみせた。


「オリオンさん、お好きですねー」


 バニーさんはいつも楽しげだ。


「あっ――あるじ!! わ――わたしもですねっ!」


 がたがたと天井の一角が開いて、クザクが顔を出してくる。

 朝食のときぐらい、降りてこいっつーの。


「……。………。…………。」


 リムルは食うのに忙しい。竜人は燃費が悪い。竜の姿なら牛一頭を食うわけだから、それに比べればすこしはマシになっているのだろうが。


 食事をテーブルに載せているモーリンとコモーリンの二人には、なんら変化はない。

 返事をするまでもないということだ。この女は俺のすべてを受け入れている。


「の……、のーぱん……って、あのその……、つまり、あれ?」

「そう。アレだ」

「え、ええっと……、だからつまり、ぱんつがノー、って、そういう意味だから……、つまり、それ?」

「そう。ソレだ」

「よ、ようするに……、だからえっと……」

「くどい」


 ぐずぐずと、延々、無限ループに落ちこんでいるアレイダに、そう言ってやった。


「あっ、あっ、あっ……、アタマおかしいんじゃないのっ!? なんでそんなことっ!?」

「おかしいか? べつにノーパンでしゃぶしゃぶの給仕をしろって言ってるわけでなし――」

「しゃぶ? なにそれ?」

「いや、いい――。忘れろ」


 俺は手を振って、その話題を追い払った。


「やった! やらなくていいのね!」

「いや。ぱんつは脱げ」

「やっぱり脱ぐんだーっ! ノーパンってそういう意味だったーっ!!」


 アレイダは、ぎゃあぎゃあと叫んだ。


「おい。騒いでいるの、おまえ一人だぞ」


 俺がそう言うと、アレイダは、はっとなって周囲を見回して――。


「ねえ! なんでみんな平気なの! 平然としてるのっ!!」

「オリオンさんが、えっちなのはー、いつものことですしー」

「あ、あるじが、ぬ、脱げというのでしたら……、わ、私はっ……」

「ぼ、ボクも……、ま、マスターがご所望なら……」

「スケ? ぬぐの?」

「ダーリン? 我はなにをすればよいのだ?」


 あいかわらずモーリンはノーリアクション。澄まし顔で、食後のデザートなどを運んでくる。


「ああ、待て待て。ミーティア。まだ脱ぐな」

「あ。はい。わかりました」


 うちの娘たちのうちで、いちばん素直なミーティアが、椅子のうえに足首を引きあげ、もう脱ごうとしていた。


 いっぺんやめさせる。

 脱ぎかけていたものを、もういちど穿かせる。


「ああ――わかったのだー! それを脱ぐのだなー!」


 リムルが言う。ようやく理解したっぽい。

 そのリムルは、隣にいたスケルティアと、こしょこしょと小さな声で相談しあって――それから俺に顔を戻してくる。


「だがダーリン? 困ったのだ。我らはそういうもの、そもそも穿いてないのだ」


 リムルが二人を代表して、そう言った。

 人型になったのがつい二週間前という竜娘はともかく――。


 なんと! スケルティアは穿いてなかった!

 そういや着ているものは、スパッツみたいなレオタードみたいな全身タイツみたいな薄い生地で、下着の後も出てきていない。


 いやー。知らなかった。


 スケルティアはもう何度も抱いているが――いや、何百回もだな。だがいつも「ヤるぞ」というと、すぽぽーんと自分から脱いでしまっていたので、俺の手で脱がせたこともない。


 リムルのほうは、ホットパンツ姿だ。下着を着けていなかったというのは、いま知ったが……。ぶっちゃけ、その格好では、ノーパンであろうとなかろうと、大差はない。


「おまえら。着替えてこい。……まえに買ってやった服があるだろ。ひらひらしたスカートとか、そんなんをはいてこい」

「我は持ってないのだー」

「スケ……。の。かすよ?」


 二人して出ていく。割と仲良くなってる。


「な、なんでそんなこと……、やらなきゃいけないのよ……」

「おまえ、まだ言ってんの?」


 一人、アレイダは、やるかやらないかのあたりで、まだぐずぐずしていた。

 こいつは放置しておく。放置プレイだ。


「はーい、一番ーっ! バニーさんでーす♡」


 いつものバニースーツ姿ではなくなっていた。ウサギさんの付け耳だけは、矜持なのか着けたままだが、服のほうは――。


「裸ワイシャツ……、いかがです?」

「グッドだ!」


 俺は親指を立ててサインを送った。無論、親指の位置は人差し指と中指の合間にある。


 バニー師匠は、ワイシャツだけを身につけて、悩殺ポーズを取る。

 第三ボタンまでわざと外しているものだから、胸がなかばまで覗いている。

 バニー師匠のバストは、バニースーツの胸元で、なんの支えもなく自立しているほどなので――。その眺めたるや、目を惹きつけて離さない威力がある。


 しかもワイシャツの下は、いま、ノーパンであるわけで……。

 それを想像すると……。


 うむっ。ナイスだっ。


 半分、勃ち上がってしまうほどである。


「何点です?」

「うむっ。六五点といったところだな」


 俺はそう言った。

 俺の〝定規〟で計った正確な角度だ。

 ちなみに満点は一八〇度――ではなくて、一八〇点となっている。


「あの。……あるじ。……このまえ買って頂いた服なのですが」


 次なる挑戦者チャレンジャーが現れた。

 クザクは街娘の格好で俺の前に立った。


 なんの変哲もない、本当に、どこの街中でも見かけるような格好なのだが……。

 それが逆に新鮮だ。


 うちの連中、みんな変だしなー。

 いちばんまともなのがモーリンで、そして常時メイド服完備だしなー。


 クザクの場合、冒険者になるまえは街娘だった。だからこういう服を着慣れている。

 学校の新入生の制服が、なぜか似合って見えなかったり――。社会人一年目の新人サラリーマンが、スーツに着られている感じになっていたりするが――。

 アレイダあたりが、服だけ街娘の格好をしていても、どこか浮いて見えるものだ。


 それがクザクの場合、ばっちりと似合っている。


「……で。その下はノーパンなわけか」


 俺は目で視姦しながら、そう言った。スカートを透視してノーパンの下半身を凝視した。


「あ、いえ。まだ穿いてます」

「なんだよ! ちがうのかよ!」


 俺の期待と妄想をどうしてくれる。ずるいや。


「さきほどミーティアに、まだ脱ぐな、とおっしゃられていたので……。こうするのがあるじのお好みなのかと思いまして……」


 ――と、クザクはスカートの内側に手を差し入れる。


 お? おっ? おおおっ!?


 恥じらう顔を俺のほうに一瞬向けてから、スカートの内側で下着を下ろしてゆく。


 おっ! おっ! おおーっ!!


「これで……、あの……、いま……、穿いてません」


 クザクは顔を真っ赤にして、そう言った。


「ナーイスっ!!」


 俺はぐっと親指を突き出した。無論、親指は、人差し指と中指の合間にある。


「八〇度! ――じゃなかった、八〇点!」

「恐れいります」


 クザクはぺこりと頭を下げた。


「きがえて。きたよ。」

「これ歩きにくいのだ」


 スケルティアとリムルの年少組が、仲のいい姉妹みたいに、手を繋いでやってきた。


 二人ともワンピース姿だ。

 ヘッドドレスなんぞも、ちょこんと頭に載っていて、ややゴスロリが入っている。


 ずっと前にスケルティアに買ってやった衣装だが……。そういえば着るのは初めて目にするな。買ってやったことさえ、ついさっきまで忘れていたぐらいだ。

 リムルとスケルティアだと、身長も体つき(ぺったんすっとん)も似ているので、服は完全に融通がきく。


 ちなみに、俺のストライクゾーンの下限は、だいたいこの二人あたり。

 コモーリンとなると、二年……、いいや、三年ばかり足りないだろう。コンプアライアンス的にもアウトだろう。アウト。


「もう。脱いでる。よ?」

「そういうもの、穿いたことないし、いまも穿いてないのだ。……これでいいのか? ダーリン?」


 二人、期待する視線を向けてくるのだが……。


 うーん……。

 悪いとは思うが、正直、あまりそそらんなぁ。

 最初から脱いできているのもマイナスだ。本人たちが、よくわかっていなくて、あっけらかんとしているところもなぁ……。


「スケルティアさん。かわいいですわ。くるっと回ってくださいます?」


 ミーティアが言う。そのリクエストにこたえて、スケルティアがくるりんと回る。


「こう?」


 ワンピースのスカートが、遠心力でふわっと広がる。

 それを見習ってリムルも回った。


 おー。いいぞー。

 あの下、いまノーパンなんだよなー。

 見えないけど。見えないのがいいんだけど。


 うむ。

 ぴくりとはきたぞ。


「四〇点」


「すけ。てん。もらえた。」

「ダーリンに褒めてもらったのだー」


 二人は喜んでいる。

 無邪気だな。

 そしてエロくはないが、まあ、可憐だな。


「なんか……、ハードルが上がっちゃって、お目汚しになるかと思いますけど」


 つぎにミーティアが名乗りでる。

 美人なのに、こいつ、自己評価が低いんだよなー。

 自分が美人であることに気がついていない美人という、極めて希な存在が、ミーティアという女だった。


 普通、どんなに控えめな性格であっても、まわりの少女たちと比較して、自分の美醜は認識している。それを鼻にかけるかかけないかは、性格の違いもあるだろうが、自分の美しさを自覚していないということはない。


 だがミーティアの場合、継母ままははや義姉たちから、さんざ、「醜い」と言われ続けていたために、自分が美人であると思わずに育ってきてしまったのだ。


 白いドレスの似合うミーティアは、なにを思ったのか、両手を床につけた。


「うん?」

「えっと……、お馬さん……、です」


 首を捻った俺に、そう説明する。

 両手両足を床について、ミーティアは部屋のあちこちを歩き回った。


 うーん?

 なにかアピールしようと思ったのだろうが、正直、これは……。


 ――が。


 ミーティアがお尻をこちらに向けたところで、スカートがまくれ上がって、太腿がチラりと見えた。


 おおっ!

 穿いてないんだ。――とか思うと、うお、いま見えそうになってた! と、エキサイトできた。


 これはこれで……。いいかもしんない……。

 後ろから覆いかぶさって、襲ってしまいたくなるな。

 以前、馬に変身して、二人――じゃなくて、二匹の馬として、牡馬と牝馬で、獣同士で愛しあったことを思い出してしまった。


「九五点」


 直角よりは上となった。意外とこれまでの最高点。


「お待た――お待たせしましたっ!!」


 エイティがどたどたと走ってくる。


「おま。なに完全武装してきてんだ?」


 エイティの格好は、戦闘時のものだ。腰には剣まで吊っている。


「もうしわけありません! スカートはこれしか持っていないかったもので!」


 ああ。なるほど。

 そういや、こいつ、普段着はパンツルックだっけか。

 普段着がズボン姿なのに、戦闘用装備のほうがミニスカートというのは、ずばり、俺の趣味だ。

 肌が出ているのに防御力が高いという、相反するコンセプトを持つ装備ばかりを吟味した。


「ええと、ボク、何番ですかっ!?」

「六番あたりじゃないか?」

「六番! エイティ! 演舞をします!」

「演舞?」


 なにか勘違いしているんじゃないか? こいつ?

 ――と思ったのは、演舞がはじまるまでのこと。


「えい! やあ! たあ! とおっ!」


 エイティが剣を振る。上段から斬り下ろし、返す剣でくるりと回って斬り上げる。

 攻撃方法は剣だけでない。突きと蹴りも繰り出している。エイティを取り巻く〝集団〟が幻視できるぐらいの完成度だ。


 エイティが剣を振る度に――。ひらり、ひらり、と、スカートが揺れる。

 背後に向けて後ろ蹴りを繰り出したときには、思わず、後ろに回って眺めたくなってしまったほどだ。


 元は男だけあって、男のグッとくるツボを心得ているというか……。

 ナイスなチラリズムである。


 うーん。いかんぞ。けしからんぞ。

 押し倒したい。


「一〇五点」


 ついに一〇〇点超えが出現した。

 だがこの計測法における満点は一八〇点だ。臍に貼りつく垂直が満点だ。

 まだまだ足りぬな。


「おい。駄犬」


 俺は、その場に突っ立ったままの一人に、そう声を掛けた。


「やるのか。やんねーのか。……やらないなら、帰れ」

「帰れって、なによそれ。どこに帰るっていうのよ」

「ああいや。言葉のあやだ。やんねーなら、あっち行ってろ」


「や、やるわよ! やればいいんでしょ! オリオンがイヤらしい目で見てくるのを我慢して、やってあげるわよ!」


 こいつ、わざとやってんの? 誘ってんの?

 あっけらかーん、とやられるよりも、羞恥に染まってぷるぷるしながらやったほうが、劣情を催すと知っているのか。……いないんだろうなぁ。


「はっ……、恥ずかし……、見ないでよっ」


 手で必死に隠そうとする。

 俺が前に回れば前側を隠し、後ろに回りこめば後ろ側を隠す。

 おれはアレイダの周囲をぐるぐるとまわりながら検分した。


 アレイダの場合、ひとつ問題があった。

 こいつは元からパンツ丸出しになってしまうぐらいの、短いスカートを穿いている。ミニスカートどころか、マイクロスカートとか、そんな領域にある短さだ。


 それでノーパンになると、一体、どういうことになってしまうのか……。


 見えてしまうのだ。実際に。

 パンチラならいい。

 あっいま白いの見えたぜ! ――と、俺ほどの功夫を積んだ者でも、心が躍る。癒やされる。


 だが見えるのがパンツではなく、〝具〟であったら……?


「……一五点」

「ちょ!? ――なに!? こんなに恥ずかしい思いしたのに! なんでそんなに点が低いのッ!!」

「だってなぁ……」


 俺はしょんぼりとした顔を返した。


 見える見える見えるるるるぅ!? と、なるから良いのである。どんどんテンションがアゲアゲになってゆくのである。


 見えてる見えてる、ああ、また見えてる……。具が……。と、なると、どんどんテンションがサゲサゲになるのである。


 こんなん。ぴくりともせんわ。

 あ。いや。ぴくりとはしたので……。


 だから一五点なのだった。


「さて……」


 全員終わった。

 いいや。終わっていなかった。


 食後のお茶を淹れてまわっているモーリンの――メイド服の黒い布地に包まれた、そのヒップラインを見つめる。


「モーリン。……おまえは、やらないのか?」

「なにをですか?」

「この遊びだが?」


 遊び。遊び。……うん。まあ遊びだな。プレイというほど、たいしたものでもない。


「もーりん。……も。のーぱん。する?」


 スケルティアがきらきらとした目をモーリンに向ける。

 あれは完全に遊びと思っているな。

 ノーパン遊びだ。うん。けしからん。どんどんやれ。


「もうやっていますよ?」

「えっ?」


 モーリンが言った。俺は絶句した。

 一連のやりとりのなかで、女たちに目を向けながらも、モーリンも視野に収めていた。

 これまでの彼女の動きからは、ぱんつを脱いだとは思えないのだが……。


「本当に、いま、ノーパンなのか?」

「確かめてみますか?」


 モーリンは、薄く笑った。


 体を俺に向けてきて、スカートの両端を、両手で摘まむ。


「確かめられますか?」

「お、おう。も、もちろんだ」


 挑まれたように感じた。

 だから俺は挑戦を受けた。

 いついかなる形の挑戦でも受ける。――それが性的なものならば。


「では……、ご確認ください」


 モーリンは、スカートの裾をゆっくりと引き上げていった。


 メイド服のロングスカートだ。

 股下までは、数十センチにも及ぶ長い旅がある。


 ロングブーツに沿って持ちあがっていった裾は、やがて膝小僧を越える。

 太腿を上がってゆく。生足の白い肌とスカートの黒とのコントラストが、なまめかしく俺の目に映り――。


 マテ。


 生足?


 モーリンはいつもストッキングを着けていたはず。

 それが生足だと!


 やはりモーリンは俺の監視下にありながら、もうすでに、おパンツをクロスアウトしているというのか!

 いや! 有り得ない! 勇者たる俺の目を誤魔化すことなど――!


 いやしかし! 相手はモーリンである。充分に有り得るかもっ――!?


 太腿をゆっくりと上がっていったスカートの裾は、すれすれのところで、一旦、止まった。


 ほんとうにギリギリのところで、その部分は確認できない。

 そんな絶妙な高さでスカートの裾は止まっていた。


 モーリンの目が俺を見つめていた。「どうします?」――と、その唇が動いたように、俺には思えた。


「ようし! 確認するぞーっ!」


 俺はモーリンを抱き上げた。お姫様抱っこで、食堂のドアを蹴り飛ばして開く。


「えっ――あっちょっ! オリオン! 点数! 点数はーっ!! モーリンさんの点数ーっ!?」

「一八〇点だ!」


 計測器、、、の指示値を読み上げて返す。


 俺はモーリンを運んでいった。

 どこへ運ぶのかといえば――それはもちろん寝室だ。


    ◇


 このあと滅茶苦茶セックスした。


 〝確認作業〟のほうは――。

 さすがモーリン――とだけ言っておこう。






【後書き】

全員やってたら、長くなりました。


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