第135話 浮遊島 「そ、そこにイタズラはだめですうぅ」
浮遊島は、いくつもの搭状の小島が連結されて浮かんでいる。
島の中央には、他よりも大きな岩塊があり、そこにはこの膨大な質量を浮かべている飛行石――ではなくて、巨大な精霊石の塊が存在している。
ちなみに「バ」で始まって「ス」で終わる三文字の「滅びの呪文」を唱えると、崩壊するかどうか――は、興味はあるが、試していない。
今日の俺は、その精霊石のある中央霊廟を訪れていた。
「おっと」
数日、来ないでいるうちに、入口に蔦が生えていた。
それを切り開いて、霊廟に足を踏み入れると――。
「おー、いたいた」
俺の可愛い愛人の姿が見えた。目を閉じて床に座っている。
ええと? 愛人何号になるんだっけ?
モーリン、アレイダ、スケルティア、クザク、ミーティア、バニー師匠、エイティ、リムル……とくるから、九号あたりか。
連れ歩いていなくて、各地に置いてきている俺の女もいるので、そっちも合わせれば二桁は確実だな。
ハイエルフの王女――アイラは、巨大な石を前に座り、足を組んで瞑想をしていた。
どれぐらいの長さ、その姿勢でいるかということは、絡みついた蔦の量でわかる。
つまり、この浮島が浮かんで航行をはじめてから、ずっとだった。
かれこれ二週間ほどになるだろうか。ずっと座ったままであるが、彼女の肌色は健康的だ。
この二週間、食事も水も摂っていない。眠ることもなく、この場で瞑想を続けている。
ハイエルフという存在は、生物というよりも神的な存在に近い。
食事や水分の必要量は、人よりも遙かに少ない。魔力や精霊力といった純粋エネルギーを直接摂取することができるからだ。
「霞を食って生きるとか……、まるで仙人だな」
俺はそう言った。
向こうの現代世界のほうに、そんな伝説があったっけな。たしか中国だ。
ハイエルフは、そんな仙人のように、飲まず食わず眠らずで生きていけるのかもしれない。
《――あらオリオンさま。いくらハイエルフでも、〝霞〟だけでは生きてはいけませんわ》
思念が響いた。
目の前のハイエルフ――目を閉じて身動きしないアイラからなのだろうが、その思念には指向性がなく、霊廟の部屋全体から響くように感じた。
《――この子たちに栄養を頂いております》
アイラがそう言う。
なんのことかと目を凝らせば、彼女の手足に蔦が絡みついているのが見てとれた。一部は体に入りこんでもいるようだ。
「光合成か」
俺が言うと、思念が愉快そうに弾んだ。思念伝達における笑いだ。
《齢を重ねたハイエルフは、生きるのに倦むと、こうして霊木と一体化してゆきます。――わたくしは、オリオン様のために、一時的にこうしているだけですが》
ハイエルフの至宝――浮遊島を飛ばすには、王家の血筋の者がいる。
はじめ、この王女は打算で動いているのだと思った。
エルフの王国に迫った脅威を排除させる〝道具〟として、〝勇者〟である俺に取り入り、体を許していたのだと……。
だがそうではなかった。
心まで盗んでしまっていたらしい。
復活した〝四天王〟を〝退治〟して、役目を無事終わらせてハイエルフの国に戻った俺たちを、愉快な展開が待っていた。
例のアホな第二王子率いる戦士たちが、俺たちを取り囲み、国宝三点セット――聖剣レーヴァンティ、聖盾アイギス、神装鎧アーバレスト、の返却を求めてきたのだ。
喉元過ぎればなんとやら、危機を脱したら、あっさりと手のひら返しをしやがった。
まあ予想通り過ぎたが。むしろ感謝の言葉なんかを述べてきたら、そっちのほうが驚いたくらいだが。
だが王女アイラが父母兄に反抗――いや、〝反乱〟といってもよいほどの騒動を起こし、国宝三点セットのほかに、〝聖地〟まで頂くことになった。
この浮遊島は、もともとはエルフの〝聖地〟だったものだ。
飛行機能を知るのは王族のみ。
なんのためにそうした機能を持たされているのか――。なぜ〝聖地〟となっているのか――。
ハイエルフの長い寿命をもってしても、知る者がいない。
色々と謎な部分の残る、超古代文明の遺産である。
まあ、役には立っている。
〝空の乗り物〟は何種類か存在するようだが、神鳥は乗り心地が最悪だった。
何度も落とされそうになった。気位が高いわ、気性が荒いわ、取り柄は〝速度〟だけで、それ以外はまったく最悪だった。
この浮島は、のんびりできるのがいい。
屋敷もここに移動させようかと思っている。いまは馬車の中の亜空間にしまっているが、空の旅のあいだは、空中庭園に建てておくのもいいかもしれない。
移動速度は歩くよりも少々速い程度。旧式の帆船ぐらいの速度である。
遠くに見える山々が、前方からゆっくりと近づいてきて、丸一日もかけて、後方へとゆっくりと過ぎ去ってゆく。
庭園のデッキチェアでくつろいで、半日もぼんやりしながらそれを見るというのは、前の人生においても、前の前の人生においても、決してなかったことだった。
どちらの人生も、ブラック極まりなかった。
この三度目の人生においても、ちょっと忙しく働き過ぎたかもしれない。
ひょんなことから飼うことになった駄犬が、あまりに駄目であまりに駄犬すぎたので、鍛えるために地獄のトレーニングメニューを考えたり、うっかり死んでしまわないように、鍛錬の強度を調整してやったり――。
飼い主としての生活は、意外と忙しかった。
べつに死んでしまっても、まったくなにひとつ気にしたりしないが――。
ただこれまで注ぎこんだ労力が無駄になるのがもったいないというだけだ。それだけである。ほかに理由など、まったくない。
《オリオン様はアレイダさんのことが、ひどくお気に入りなんですね》
アイラの思念が、笑いながらそう伝える。
まったく――。
思念の会話は調子が狂うな。隠し事などできやしない。
雲海の上での生活が、あまりにのんびりとしすぎて――。
アイラの元を訪れることを数日も忘れていた。
「すまんな。ずっとここに一人でいさせて」
《いえ? ついこのあいだもいらしてくださったではないですか?》
話が噛み合っていない。
悠久の時を生きるハイエルフだ。時間の感覚が人と違うのかもしれない。三日や四日は〝ついこのあいだ〟となるのかも?
《オリオン様のお役に立てていることで、よろこんでいるんですよ? ――私》
目を閉じたままで、美少女はそう伝えてくる。
瞑想中の彼女は感覚を島全体に広げている。肉体のほうは無防備となっている。
つまり、こういうことをしても、わからないということだ。
俺はハイエルフの特徴的な
《えっ? ……あの? なにかイタズラをされてます?》
すぐに
勃起して大きくなったその場所を、さらにしつこくしつこく、いじめていると……。
瞑想している彼女の呼吸が乱れはじめる。
俺は結跏趺坐で座る彼女の背後に、ぴたりと寄り添うと、より大胆に
《あっ、あの……。し、集中が……。だめです。だめです、あの……、島が……島が落ちてしまいます》
「本当にだめなのかな? 君のこの場所は、そうは言っていないようだが?」
俺は意地わるく、そう聞いてみた。
《だめです。だめです。ああっ……。島のコントロールがっ……》
ぐらり、と、大地が揺れる。
だが俺はその程度のことで引き下がったりはしない。この三度目の人生をはじめるにあたって、「自重しない」と決めたのだ。
ほんとに、もう、自重してやんない。
けしからん
《あっ……、だめっ……、ほんとに――ほんとにだめっ! 落ちます! 落ちるうぅ!》
その日は、身動きできず目を閉じたままの女体を相手に、スリリングなプレイを行った。
滅茶苦茶セックスした……と言いたいところだが、さすがに本当に落ちてしまうので……、ほどほどに愉しんだ。
一風変わった睡姦プレイを堪能しきった。
また数日したら襲いに来よう。そうしよう。
【後書き】
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