21.空を征く

第132話 空の旅 「うふふ……、ダーリン♥」

「いい風だな……」


 読んでいた古代書から目を上げて、俺は屋敷の窓から流れる雲、、、、見下ろした、、、、、


 風が頬をくすぐってゆく。

 本当に気持ちのよい風だ――。


「風なんかより、ダーリンの膝のほうが気持ちいいのだ」


 ――こいつがいなければ。


 俺の膝をちゃっかりと枕がわりにして、竜娘が言う。

 こいつはこのあいだの暗黒大陸における戦利品……と、俺はそう思うようにしていた。

 本当は戦利品でもなんでもなく、勝手にくっついてきているだけなのだが。


 「自重しない」を座右の銘とするこの俺が、一発やらないでおけばよかった――などと後悔するわけにはいかない。

 よって便宜上、戦利品と思うようにしている。


 まあ、ぺたぺたくっついてくるぐらいなら、可愛いげもあるのだが。

 顔はかわいいしな。カラダも、うんまあ好みだ。ちょっと幼いがコモーリン領域までは踏みこんでいなくて、俺的にギリセーフだし。

 そして肝心のあっちの具合は……、まあノーコメントだ。悪くはなかった、とだけ言っておく。

 しかしなんで人外とのセックスってキモチいーのだろーか。


 連れていってやる条件として、「あの言葉」だけは言わないと誓わせた。


 つがい、つがい――うるせえ。まったく。

 こんどその手のことを口走ったらマジで捨ててくぞ、と、顎を掴んでみしみしいわせて、マジギレしてそう言ったら、さすがに言わなくなった。


「ふふふ……。ダーリン……」


 その甘ったるい変な呼びかたもやめろと言ったのだが、そっちのほうはやめさせられていない。


 あーあ……。こいつ……。ヨダレ垂らしやがって……。

 俺の膝を汚しやがって……。


 やっぱ……。捨てていこうかなー……?

 竜娘は飛行可能とはいえ、この浮島のように長距離航行はできない。二、三日ほども全力で飛ばせば、振り切ってしまえる。


 ほんと、マジでやっちまおうかな……?

 やるぞー。やるぞー? 本当に捨てるぞー?


「……すうすう」


 寝てやがる。この駄竜めが。

 俺はため息をつくと、古代書に目を戻した。


 暗黒大陸を出発してから、一週間が経過していた。

 エルフの隠れ里で手に入れた「空飛ぶ乗り物」は、浮遊島だった。


 島の広さは、小さな無人島程度はある。

 土地は有り余っているので、俺たちの屋敷を馬車内部の亜空間から取り出して、島の地面の上に設置した。


 空を飛ぶ乗り物を手に入れた俺は、船の旅ともまた一味違う、空の旅を楽しんでいるところだった。

 ちなみに前々世における勇者行では、別ルートで空に上がったもので、乗り物はこれとは違うものだった。


 神の鳥だ。これが色々と最悪で――。

 まず手に入れるために、神鳥と戦って倒さねばならない。

 その強さたるや、暗黒大陸で倒していった四天王のほうが、まだ楽なんじゃねえの? おまえ味方じゃなくて敵の強さだろ、というほどで――。


 そして手に入れたあとも最悪で――。

 乗り心地がひどいのだ。

 振り落とされないように羽毛に掴まっていないとならない。しっかり掴まっていても、その羽毛が抜けやがる。


 こっちの浮島は、神鳥ほどの速度はないものの、乗り心地は最高だった。

 昔もこっちルートで行きたかった。

 まあ、前々世での勇者行は、常に時間に縛られていたので、時間とスケジュールにうるさい鬼の大賢者様が、許してくれるはずもなかったのだが――。


 俺の女として、新たに加わったのは二名――。

 いま俺の膝でヨダレ垂らして寝こけているロリドラゴンが一匹。

 あともう一人は、可愛がってやると耳が勃起――ではなくて、長くなってエルフっぽくなる、ハイエルフの王女だった。

 こちらは飛行制御のために、浮島のコントロールルームにあたる霊廟で常時瞑想中だ。あまりちょっかいをかけられない。瞑想中の動けない彼女にちょっかいを出すのは、睡姦みたいで燃えなくもないのだが、あまり調子に乗ると島ごと落ちる。

 いっぺん、マジでやばかった。


 ロリドラゴン――リムルのほうは、抱け抱けと、うるさいので、ローテーションの中に組み込んでやっている。


 ちなみにローテーション制にして、ひと晩に一人ずつにしているのは、べつに俺の側の理由ではなく、女たちのためである。

 俺のほうは、全員を相手にして、毎晩だって一向に構わない。だが女たちのほうが、激しい夜の翌日にはダウン気味だった。スペアボディのあるモーリンはともかくとして、アレイダもスケルティアもクザクもミーティアもエイティも、翌日一日はふらふらになっている。

 バニー師匠だけは底なしだろうと思い、七晩連続で挑んでみたことがあった。だがさすがに七晩目にはギブアップされた。バニー師匠にそっち方面で勝てたのは、これが最初で最後だ。いつか精力以外でも勝てるようになりたい。


「あー! なにそれ! 膝枕とか! ずっるーい!」


 風の音だけで静かだったのだが……。

 まーた、うるさいのがやってきた。


 駄犬と駄竜、同じ〝駄〟のつく同士、仲良くやってりゃいいものを、この二匹は事あるごとに張りあっているのだ。


 特にアレイダのやつが、対抗心を剥き出ししている。

 他の娘たちとは姉妹みたいに仲良くして、ほとんど嫉妬らしい嫉妬なんてみせないのに、リムルに対してだけは、本気になって対抗している。


 ローテーションの順番を調整して、リムルのあとにアレイダがくるようにしているのは――。わざとだった。


 燃えるのだ。甘えてくるのだ。おねだりがスゴいのだ。フィニッシュは必ず〝だいしゅきホールド〟になるのだ。


「うるさいな。リムルが起きるだろ」


 俺はそう言うと、リムルの頭を撫でた。ピンク色の髪を撫で、立派な角をさすってやる。

 ほっぺたのあたりには人化しても鱗が一、二枚ほど残っている。そこを爪で引っかいてやると――。


「んふふ……」


 幸せそうな顔で、リムルは身をよじった。


 ちなみに、起きているときには、絶対、やんねー。

 あとアレイダが見ていないときにも、絶対、やんねー。


「ううううううう……、うう~っ!!」


 呻いているのか泣いているのか、よくわからない声を、アレイダのやつがあげている。

 うっしっし。


 これで次のアレイダの晩が楽しみだ。

 熟成されたワインは、さぞかし芳醇な味わいになることだろう。


「ん……。寝てしまって……。いたのだ」


 リムルが目を覚ます。

 目をこしこしと擦っている。

 もちろんその時には、俺はもう、撫でていた手を離している。


「どうした? ダケン? なにをそんなに羨ましそうな顔をして、我を見る?」

「羨まし――なんて! 誰が! 見てないし! あと駄犬ゆーな!」{}


 どすどすと大股でアレイダは歩き去ってゆく。

 その背筋を見ながら、俺は笑った。


 アレイダが寝ているときには、俺はおなじことをリムルに対してやっている。

 つまり二人のどちらも、相手ばかり優しくされていると思っている。

 あー、おもしれー。


 しばらくこの遊びはやめられそうにない。

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