第020話 俺の女たち 「下半身に節操のないどうしようもないクズよね」

 ちゅん。ちゅん。ちゅん。

 朝がきた。


「おい。おまえら。朝だぞ。起きろ」

 俺はベッドの上にあった尻二つを、引っぱたいた。


「ひゃん」

「ん……。スケは。おきた。」


 かわいい声と、いつものローテンションな声と、二つあがる。


 昨日はお愉しみだった。

 まあ、おもにお愉しみだったのは、俺一人で――。〝はじめて〟だった二人は、大変だったようであるが……。


「あ……、お、おはよ……」


 アレイダは、ささっとシーツを引き寄せて、裸身を隠した。

 そんな恥ずかしがるような間柄でも、もう、ないのだが……。


 二人と関係を持つことが、もしあるとしても、もうすこし先のことだと思っていた。

 だが、つい昨夜、抱くことになってしまった。――二人一緒に。


 理由は、まあ、いくつかあって――。


 俺に気に入られようと、ダンジョンに通ってLv上げをする二人が、可愛く感じてしまったことと――。


 二人のLvアップが、思いのほか早く、3分の1人前、ないしは、半人前くらいにはなってしまったということと――。


 いつも通っているあのダンジョンが、二人が行くと、ごっそりモンスターを取ってしまって、迷惑な感じになってしまったのと――。


 まあ、いちばん大きな理由としては――。

 アレイダのやつが、例の20万Gを稼ぎ終えたから――ということだった。


 自分に対する「身請け金」として、20万Gを積み上げたアレイダは、俺に言ったのだ。


「これで私は私を買うわ」


 ――と。


 ひさびさに、〝あの目〟を見た気がする。

 最近すっかりポンコツ化して、駄犬化していたアレイダだったが――。

 檻に閉じ込められていた奴隷の娘が、鉄格子越しに俺に見せた――あの目を、そのときばかりは、俺に向けてきた。


 俺が惚れたあの目だ。誰のものにもならないという、気高き目だ。


 正直、惜しいと思った。俺が買ったときの金額の20万Gは、〝あの目〟に払ったようなものだった。

 ご主人様に尻尾を振って寄生してくる、パラサイト奴隷の駄犬なら、ノーサンキューであるか、決して屈さない気高き獣であれば、ぜひとも、欲しい。


 だが所有できないからこその、気高き獣なわけで――。手元に置いておくのは、原理的に矛盾がある。


 その20万Gをもって、アレイダが自分自身を買い戻すことを――俺は承諾した。


 だが、金、それ自体は突っ返した。

 餞別がわりに、くれてやるつもりだった。


 俺はてっきり、アレイダが出て行くつもりだと思っていた。

 自分を買い戻したのだから、当然、そうなのだろうと――。


 だが違った。アレイダは、出て行くつもりなど、まったくなくて――。

 自分の価値を、俺に示すために、自分の身請け金を積み上げてみせたのだ。


 そういえば、言った、言った。俺、言った。「一人前になったら抱いてやる」とか「20万Gを払い終えたら一人前だ」とか。


 俺に抱かれるために、そうして健気に頑張ったアレイダに――。

 俺は感激し、お姫様だっこで寝室まで運んだ。「ずるい。」とスケルティアまでついてきたので、もうこの際、一緒にお召し上がりになった。


 初めての二人はどうだったか知らんが、俺のほうは、しっかりと堪能した。


「メシ食うか。モーリンが朝飯を作ってくれている頃だ」


 こちらの世界にやってきて、時計のない生活を送っていると、鳥の鳴き声の種類でもって、だいたい時間がわかるようになった。

 早朝と、飯時と、午前中とで、鳴く鳥の種類や鳴きかたまで変わる。

 それによると、いまはだいたい――モーリンが、パンを香ばしく焼きあげた頃合いだ。


「顔、合わせられない……」


 アレイダは枕に顔をうずめている。

 スケルティアのほうは、下着を拾い集めて身につけてゆくところ。俺がじっと見ていても、物怖じもしない。


「モーリンさんに、なんか悪いかなって……」

「あれはそういう女じゃない」


 モーリンにとっては、この世界のすべてが、自分自身のようなものなのだろう。

 あれは「世界の精霊」みたいなものだろうと、俺は仮説を持っている。

 すべての人、すべての生物、そしてすべての物体――俺の世界の言葉には〝森羅万象〟という言葉があるのだが、こちらの世界には、ちょうどうまく言い表す語彙がないっぽい。

 かつてモーリンは、世界のバランスが壊れかけたときに、俺を召喚した。

 《勇者》というバランス・ブレイカーをもって、《魔王》というバランス・ブレイカーを制したわけだ。

 モーリンは単に世界の守護者というだけでなく、世界そのものに芽生えた〝自我〟のようなものではないかと――。俺はそう結論している。


 そのモーリンにとっては、アレイダも――ああもう服をぜんぶ着ちゃったが――スケルティアも、〝自分の一部〟に過ぎない。


 その〝自分の一部〟が俺に愛されていたとして、妬く必要があるだろうか?

 ――いいや。ない。

 〝右手の小指〟が愛されようが、〝左手の小指〟が愛されていようが、自分が愛されていることに変わりはない。


「これでおまえたちは、俺の女だ。もう出て行けとは言わん。好きなだけいていいぞ」

「……ほんとっ?」

「ああ。おまえたちが出て行きたくなれば、別だがな」

「そ、そんなこと……、あるわけ……、貴方には〝恩〟がありますし……」


 最初は〝借り〟だったのが、こんどは〝恩〟に変わったわけか。


「えらそうで、いいかげんで、下衆で、欲望に忠実で、特に下半身に節操がなくて、どうしようもないクズだけど……、恩人ですから。私に自由と強さと尊厳を与えてくれた人ですから」

「ひどい言われようだな」

「本当のことでしょう?」


 アレイダは俺を見て笑った。俺も笑った。すっかり服を着終わったスケルティアは、まっすぐに立って、きょんと俺たちを見ている。「笑い」は、まだ彼女には難しそうだ。


 俺は服を着終わった。だがアレイダはまだベッドのなかにいて、裸の胸にシーツを引き寄せているばかり。


「ところで、あの……、あっち向いてて……、くださいますか?」

「なぜかな?」

「あの……、服を着たくて……、見ていられると……、着れないので」

「いやだな」

「お願いします」

「だが断る」


 こういう反応はちょっと新鮮だった。

 俺はいちど着終わった服を、また脱ぎはじめた。


「えっと。あの……、なぜ、服を脱いでいるの……でしょう?」


「いや。朝飯前にもう一度……と」

「い、いやっ! ケ、ケダモノっ――!?」

「節操がないと、さっき言ったろう。その節操のないところを見せてならねばな」


 俺は有無を言わさず、襲いかかった。


 朝ちゅんが、昼ちゅんになってしまった。





【後書き】

メインヒロインたち全員と「そういう関係」となるのは明白な物語ですので――。

ヤルのヤラないので、延々、気を持たせるのも良くないと思いまして、さっさと「朝ちゅん」となりました。


次回からは、そろそろ、「魔法の馬車」を入手に動きはじめます。

旅立ちの準備です。

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