第013話 奴隷娘改め、戦士娘 「私……、こんなに強くなってた?」

 ギルドの窓口に並んで、いくつか達成したクエストを換金させる。

 今回はアレイダを列に並ばさせた。リズがうずうずした顔でこちらを見ていたが、特別窓口のほうは、謹んで辞退した。


 壁際の長椅子に座って待っているが、退屈はしない。


 あれからアレイダの装備品は、2回変わっていた。

 いまは竜鱗のスケイルメイル――なんていう、Lv13には勿体ないくらいの装備となっていた。

 だが丈は最初のものより縮んでいる。

 てゆうか。もともとあれは上下セットの装備なわけだ。脚装備のほうは出なかったので、上だけを着ている。


 だから、つまり――。

 なにが言いたいのかといえば――。


 座った目の高さからだと、ぱんつがちらちら見えている。

 うむ。良き哉良き哉。


「こんなにもらえた!」


 戻ってきたアレイダは、嬉しそうにそう言った。

 ゴールドがぎっしり詰まった袋を


 ぴょんぴょん飛んで、ハイタッチしたくて仕方がない――という顔をしているので、しかたなく応じてやった。――一回だけだからな。


 俺は二つあったゴールドの袋のひとつをアレイダに持たせた。

 もうひとつは自分の懐にしまう。


「ひっどい!! お金半分も巻きあげた!」


 アレイダが叫ぶ。


「もともと、このダンジョンにやって来たのは――。金を稼ぐためだったからな。おまえのレベルアップは、そのついでだ」

「わたしがぜんぶ倒したのに! わたしが稼いだのに!」

「回復魔法。何回かけてやったと思ってる。あれだけ唱えられる使い手を雇っていたら、こんな金額じゃ済まなかったぞ」

「そ、そうかもしれないけど……」


 俺が正論を言うと、アレイダのやつは、ぐっと言葉を飲みこんだ。


「だいたいおまえは俺の奴隷じゃないのか? 奴隷が稼いだ金は、普通、所有者の懐に入るんじゃないのか? 半分もらえただけでも有り難いと思いやがれ。――あと、おまえ、さっきから忘れてるぞ」

「え? なにを?」


「敬語」

「あっ……、はい。すみません」

「おせえよ」


 二人で笑顔を浮かべる。

 そして二人で並んで、ギルドを出ていこうとしたときだった。


「おい。その娘――。おまえの奴隷なのか?」


 一人の男が、話しかけてきた。

 俺としては、できれば無視したいところだったが――。


 このまま応対せず、まっすぐ歩いていけば、一言二言の侮蔑は投げつけられただろうが、穏便に、この場を離れることもできたはずだが――。


「なによ、あなた? いきなり失礼じゃないの?」


 アレイダのやつが、返事をしてしまった。

 荒しとお馬鹿なやつは、放置が基本と、おまえはネットで習わなかったのか?

 習わなかったんだろうなー。異世界にはネットないしなー。


「こんないい娘を持ちやがって……。ええ? おまえ、羨ましいな? ええおい?」


 男はアレイダ本人に言うのではなく、俺のほうに、そう言ってきた。


 こいつの存在には、じつは、気がついていた。

 長椅子にどっしり座って、ガン見だった俺とは違い――横目でチラチラと盗み見を繰り返していた。

 どこを見ていたかって? もちろん、アレイダのケツだ。


「おまえ。今朝、横入りしてきた新入りだろ?」


 男が言う。


 まあ新入りには違いがないが……。

 横入りについて誤解があるな。

 窓口が、急遽、閉まって、「特別窓口」に案内されただけだ。


 横のほうで、リズが、あわあわと慌てているのが視界に入っていた。

 俺は手の指先だけを、ちょこっと動かして――いいからいいから、と、制した。


「おい。おまえ。なんか言えよ? ――それともビビっちまって、口も聞けねえってか?」


 これはきっと、挑発してるつもりなんだろうなー、と、思いつつ、俺は男の凄む顔を見つめていた。

 これで〝難癖〟を付けているつもりなのだろう。


 俺がなにも答えずにいたせいだろうか。

 男はこんどは、アレイダのほうに話しかけた。


「おい。おまえ。――いくらで買われたんだ? 俺が身請けしてやろうか? こんなクズいやつに所有されているよりも、俺のほうが、いい目に遭わせてやれるぜ?」


 ああそっか。こいつ。

 アレイダを奴隷と思っているわけか。――奴隷なんだけど。

 奴隷で、若い娘で、しかも美人っていえば、普通は、〝性奴隷〟であるわけで――。

 つまりそういうことか。


 そのアレイダの、いまの顔は、と、表情を見やると――。

 台所によくいる黒い虫でも目にしたようなカオになっていた。

 ああ。うん。理解しているな。


 俺は歩きはじめた。アレイダを伴って、無言でギルドを出ていこうとする。


「おい。売ってくれないのかよ? ――飽きたらでいいんだ! 俺に売ってくれって」


 俺は足を止めた。

 因縁でも、挑発でも、恫喝でもなくなって――なんか、懇願になっていた。

 はあぁーっと、大きく、ため息をつく。


「売らんし。当面。飽きる予定もない」

「そ、そんなに……いいのかよっ!?」


 だめだこいつ。

 拒絶の意思を、きちんと言葉にして言ってやったのだが――。なんと14文字分も口を動かして。


 アレイダの、男を見る視線が、ますます冷えきった。

 いまだいたい、絶対零度付近だった。


「行くぞ――」

「なぁおい! ちょっと待てって!」

「ちょ――離して!」


 俺は振り返った。

 男はアレイダの手首を、しっかりと掴んでいた。


 俺はもう一度、大きく、ため息をついた。


「おまえ。いつまでそいつに手を握らせているつもりだ?」


 アレイダに向けて、そう言う。


「え? ちょ――!? 私ぃ!?」


 アレイダは不満そうに叫んでくる。


「なんで!? 助けてくれないのっ!?」

「自分の身ぐらい自分で守れ」


 俺はアレイダに対してそう言った。あくまでアレイダに向けて話しかけた。

 男に話しかけるのは嫌だった。


「おいおい。彼氏はビビっちまったようだぜ?」


 男の口調は、また恫喝するような、それに戻っていた。

 手を掴まれたアレイダは――なんと、少々、脅えているようだった。


 おいおい……。


「おい――。おまえ。自分がどのくらい強くなったのか、わかってないだろ? ちょっとそいつ、、、で試してみろ」

「え?」

「いいから。ひねってやれ」

「ひ、ひねれって言われても……」


 と、アレイダの体が動いた。

 掴まれていた自分の手首を返して、男の腕を、逆にひねりあげる。


「い――いたたたたたっ!」

「あ。こうか」


 体が動く。

 その動きは、鍛え上げられた高レベル戦士のそれだった。


 拳が腹にめりこみ、前にのめったところに、掌底が打ち込まれ――。

 アレイダはくるりと身を回して――男の腕をからめ取り、前方へと、投げ飛ばした。


「あ。できた」


 当然の結果だ。

 アレイダはいまLv13。


 このギルドホールにいる人間の中では、おそらく――俺を除いて、もっとも高いLvを持っている。


 そして相手の男のLvは、元勇者の見立てによれば――。7とか8とか、そんなあたり。

 Lvが2倍も違うのだ。簡単に、ひねってしまえる相手だった。


「わたし……、こんなに強くなってたんだ?」


 自分の手を見ながら、アレイダは、呆然とつぶやいた。


 まあ仕方がないともいえる。

 1日かそこらで、ここまでLvアップしてしまったわけだ。現在の強さに意識が追いついていなかったのだろう。


 リズに軽く手を振る。

 あとは任せてください、みたいな顔を、彼女は返してきた。――いい女だ。


 俺とアレイダは、ギルドホールから表に出た。


「ね? わたし? もう一人前?」


 アレイダは俺の腕に、自分の腕をからめてきた。


「ぜんぜんだな」


 俺は言った。

 Lv13なんて、ほんの入口みたいなものだ。

 世界を救えるようなLvじゃない。……ああべつに世界は救わなくていいんだっけな。もう勇者じゃないんだし。


 しかし……。腕に抱きついてくるのはやめろ。

 歩きにくいったら、ありゃしない。




【後書き】

アレイダがパワーアップしました。

ついでにデレました。……いや。まだデレてはいないですね。


アレイダの「育成」は、第一段階が終了ということで、次回からは次のヒロインが登場します。

ハーフ人外っ♪ ハーフ人外っ♪


あと、連載開始から3日間はキリの良いところまで大量投下してまいりましたが、次回から1日2話ずつの更新間隔となります。

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