第011話 奴隷娘を冒険者にする 「おまえを一人前にする約束をしたからな」
「わたくしは、ついていかなくても、よろしいですか?」
翌日。朝食を食べ終えたあとで、俺は、娘――アレイダを連れて外出することにした。
「ああ。今日はだいじょうぶだ」
入口まで送りにきたモーリンに、俺はそう言うと、歩きはじめた。
後ろにアレイダがついてくる。
格好はメイド服姿のままだ。こいつの服は、いまのところ、これしかない。
「なになに? どこ行くの? ――服、買ってくれるの?」
「はあァ?」
「ちがいました。ごめんなさい。……あと敬語も忘れていました。ごめんなさい」
アレイダはしゅんとなった。
さっきから、ぴょんぴょんしていると思っていたら……。そんな勘違いをしていたわけだ。
「おまえを一人前にするという約束をしたからな。……冒険者ギルドだ」
「冒険者……、ギルド?」
ぽかんとしている娘を置いて、俺は先に立って歩きはじめた。
娘は、慌てて俺のあとをついてきた。
◇
「うわ……、すごい行列だな」
昼時についてしまったのが、よくなかったのか、受付の窓口には、どこも長い行列ができあがっていた。
ざっと見たところ、1時間は待ちそうな長さだ。
さて。どうしたものか。
俺がしばらく考えていると……。
「あっ! オリオンさん! こっち、こっち! こっちでーす!」
窓口の一つを開いていた受付嬢が、腕をちぎれんばかりに、びゅんびゅん振っていた。
ああ。
おとといあたりに来たときに、担当してくれた娘だった。
名前は……。名前は……。
俺は列をかわして、窓口の脇へと、直接、行った。
彼女に話しかける。
「やあ」
「今日はなにかご用ですか?」
「ああ。ええと……」
名前がまだ出てこない。
「リズって呼んでください!」
そうしたら、向こうのほうから言ってくれた。
あれ? でも? いま思いだしたのだが……。
「エリザでなかったっけ?」
「はい! だからリズで!」
なるほど。愛称なわけか。
それで呼べと。
……ふむふむ。
「ナンパしにきたんですか? ご主人様」
アレイダにちくっとやられて、俺は用件を思いだした。
「今日は冒険者登録をもう一人と……、あと、クエストでも、なにか紹介してもらおうと思って」
「ええ。どうぞどうぞ! オリオンさんなら、いつでも大歓迎です!」
今日の彼女は、妙にテンションが高い。
この前もこんなんだったか? そういえばモーリンの大ファンっぽかったな。
「しかし……、今日は混んでるな」
「すぐやります。いまやります。どうぞどうぞ」
リズはそう言った。
「いや。順番でいいよ」
俺は、長々と続く列に目をやった。最後尾は壁際まで伸びている。
だがアレイダを並ばせておいて、自分は座って待っていればいい。なんなら街をぶらついて時間を潰していても……。
「はいすいません。こちらの窓口は休止となります。他の列にお並びくださーい!」
リズが窓口を閉じてしまう。
え? あれ?
列に並んでいた冒険者たちは、口々に文句を言ったり、じろりと睨みをきかせたりしながら、他の列へ移動していった。
あららー……。
ま。いっか。
待たずに済むのはありがたい。
俺たちは別室へと通された。
「特別窓口」と書かれた部屋が、ギルドの奥にあった。
「はい! 冒険者登録ですね。そちらの方ですか? これまでになにか剣や魔法やその他の技能の心得は? 他の職能ギルドなどに登録されていたことは? 提携先ギルドの場合には、免除や優遇措置などがあります」
「あっ。はい……、えっと……?」
アレイダは不安そうな顔を、俺に向けてくる。
「冒険者の資格はとりあえず持っておけ。俺の奴隷であるうちは、所有物として財産扱いもしてもらえるが。俺のもとを離れて、自由になったときには、人権もないぞ」
「あっ……、あの……、ないです」
「ではLv1からの開始となりますね。ステータスの測定をしますので。右手にある機械の球体の上に手をかざしてください」
俺のときにも行った測定がはじまる。
「あっ。はい。ステータスでました。ありがとうございます。ええと。このステータスですと……、ご案内できるご職業は――」
「CONが高いはずだ」
俺は横から口をはさんだ。
「えっ? オリオンさん? わかるんですか?」
「ああ。なんとなくな」
俺はうなずいた。
「鑑定スキル……? お持ちでしたっけ?」
「いや。ないな」
スキルはないが……。元勇者の経験とでもいうのだろうか。
相手のおおまかなLvと、長所短所くらいなら、見ただけでわかる。
モーリンなら鑑定魔法が使えるので、そこの機械と同じか、それ以上の精度で読み取れる。鑑定機というのは、鑑定スキルや鑑定魔法を模して作られたものだから、オリジナルの精度は出ない。
「オリオンさんのおっしゃる通りです。アレイダさんは、CONがずば抜けて高いです。この耐久値ですと、お薦めなのは――」
「戦士だな」
「はい。戦士です。お薦めです」
俺が言う。エリザもうなずく。
「他にも
「戦士にさせたい。うちのパーティは少人数だからな。基本職でいい」
俺はそう言った。
前衛に立って、敵の攻撃を受け止める役がパーティには一人は必要だ。
格闘家なんてのは、前衛後衛揃ってからのアタッカーだ。
そして極めれば基本職がじつは最強だったりする。成長も基本職のほうが圧倒的に早い。
とりあえず「戦士」として育成することに決めていた。
とりあえず「一人前」になるまでは、転職もなしだ。
「私の意見は、聞いてくれないのね……」
アレイダが嘆いている。身振りまで入れてアピールしている。
「不満か? なら早く言え。三秒以内にだぞ」
「いえ……。いいです」
「あの……、アレイダさん? ところで、よろしいんですか? あちらのLvのほうが……?」
エリザがアレイダになにかを聞いている。
「いえ……、いいです。戦士で。ご主……、オリオンも、そう言ってます」
「おい呼び捨てか?」
「ご主人様がどうしても〝ご主人様と呼べ〟とご命令されるのでしたら従いますが。表では、お名前のほうで呼ばせていただけると嬉しいです」
「呼び捨てはやめろ」
俺は、そこだけは命令した。
「オリオン……、様?」
「まあ……、それならいい」
「年下のくせに」
ぼそっ、と口にしたのは聞こえていたが、俺は無視した。
アレイダは冒険者となった。
戦士Lv1となった。
うちのパーティに前衛ができた。
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