第5話
「な…っ、なっ…、何よ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
「ナメクジだな。デカい…。」
イルアーナさんと有輝は驚いているようだ。
イルアーナさんは驚いており、有輝は冷静だね。
こういう時、二人の差が……、クスッ…ちょっと受ける。失礼だけど―…。
私としては、こういう時は有輝のような冷静な人がスペーグラに向いているんですよねぇ~。
スペーグラって何か?
それは、今のところは、有輝の世界にある異世界転生や転移系の作品に出てくる冒険者とかハンターとかで理解してもらうとわかるかな。
というか、ほぼそのまんまに近いけど、違いはあったりするんだけど―…。細かいところでは―…。
そして、ナメクジと有輝が言っていましたねぇ~。
ちなみに、フォングラでもナメクジはいますよ。
まあ、発見するのはかなり難しいですが、見つければかなりの金額で売買されていたと思います。
そして、ナメクジ型のモンスターの名前は―…。
その前に―…。
「というか、何としなさいよ!! 達観有輝!!!」
と、イルアーナさんが有輝の方へと来て、服の裾を掴み、揺らすのだった。
イルアーナさんは、このナメクジ型モンスターをさっさとどうにかしたかったようです。
さっき、ナメクジ型のモンスターの名前を私、言っていましたね。ナメッキー。正式名称は―…、それは、後で―…。
イルアーナさんによって揺らされている有輝は、冷静に自分が、今、すべきことを考えるのだった。
(う~ん、俺よりも背が高いナメクジか。こりゃ~、ヌメヌメに触れないようにするしかないが、対処法は―…、これひとつだけか。)
ゆえに、揺らされていることに気づいてはいるが、考えていたので、揺らされるのを止めることをしなかったが、対策が頭に浮かんだ以上、その対策をすぐに実行しないといけない。
そうなると、やるべきことは一つ。
有輝は、イルアーナさんの揺らしている手を掴み、揺らされるのを止める。
「対策が浮かんだ。」
「えっ、ホント。」
目にハートマークを浮かべるイルアーナさん。
ハートマークというよりも銭のマークを浮かべれば、納得がいくのですが―…。そう思うのは私だけでしょうか?
そして、イルアーナさんは有輝から対処法が聞けると感じて、有輝の話をこれまで以上に聞こうとするのだった。
「ああ、やるべきことは一つだ。」
「何よ、何よ、早く教えなさい。」
「と、いうことで―…、イルアーナ、逃げるぞ。そして、街があるのはどっちだ。」
有輝は、そう言いながら、走り始める。
少しでも、ナメクジ型のモンスター、ナメッキーから距離をとっておく必要があるのだ。
その逃げる方向は、街の方が良いのは確かであろう。
街もしくは都市は、城壁というもので覆われている可能性を有輝は考えて―…。
都市丸ごと要塞というのは、有輝の住んでいた世界においても、昔はそうだったのだ。すべての時代でそのようにしていたわけではない。
敵の侵入を防ぐという意味合いがあるのは確かであろう。
だが、有輝の住んでいた国では、城壁の中に都市があるというわけではない。珍しいのかと断定することはできないが―…。
有輝も城壁の中に都市が建設されていることを知っているのは、たまたま、都市を城壁で覆うことを授業で学んだからであるし、気になって、少しだけ調べたからである。城壁の外にも都市が広がるということも相応にしてあったが―…。
ゆえに、城壁の中に逃げられるのであれば、完全な安全とは言えないが、それでも、情報およびそれに類することを手に入れることもできるし、今、有輝とイルアーナさんの目の前にいるモンスターのことについてもわかるだろう。
本当に、有輝は、しっかりと考えているねぇ~。
「えっ、街!! それなら、南西方面にシャルーラという街があるわ。」
「南西…な。わかった。逃げるぞ!!」
そして、有輝とイルアーナは、ナメクジ型のモンスター、ナメッキーから逃げるのだった。
シャルーラの方に向かって―…。
◆◆◆
それから、数分後。
有輝とイルアーナさんは走り続けていた。
というか、全速力で走らされるのは、そんな長い時間できるわけではない。
そうである以上、どこかで限界が来てしまうのだよ。
しょうがないよね。
ゴールのシャルーラが見えるわけではないのだから―…。
頑張っているよ、二人とも―…、うん。
(はあ、はあ、はあ、ナメクジ型モンスターのスピード自体はそこまで速いというわけじゃねぇ。
だけど、俺らの体力もどこまでもつか分からない。
それに、シャルーラが見えない以上、体力を使い切るのはあまり良い選択肢じゃない。
クソッ!! とにかく生き残らないと!!!
フォングラのためとか関係なく!!!)
有輝は、冷静に心の中で考えているねぇ~。
ナメッキーは、そこまで速くないのは事実なのだよ。
ナメッキーは、自らが通ったところをヌメヌメにしながら、移動するから、ナメッキーの後ろに回るという選択肢は絶対にしてはいけないのだよ。
理解できるかい。
有輝は、ナメクジに関する知識と想像力で後ろに回るのは危険だと理解しているようだ。
素晴らしい。私が有輝の先生であったなら、他の先生に自慢したいぐらいの優秀な生徒であること間違いなし。
そして、一方のイルアーナさんは―…。
(一応、南西方向に走っているけど―…。
街が一つも見えないじゃない!!
あの上司、嘘を私たちに言ったんじゃないでしょうね。
もしそうなら、生き残ったら、奴の頭の毛をすべて
自らの上司を恨んじゃってますよ。
まあ、理由も分からないわけじゃないですよ。
だけど、数分走っただけで、シャルーラに到達できるわけがないでしょうに―…。
いくら付近と言ったとしても、良くて数メートル、悪くて、数十キロメートルぐらいになることは普通にあり得るのだ。
街というか、都市というのは、どこかしこにあるわけじゃないのだよ。
そして、上司への恨みに毛を毟り取るとか、さすがにそれは、上司の名誉のために止めてあげて、イルアーナさ~ん。
それよりも、ナメッキーのことを考えて―――――――――――――、お願いだから~。
涙目になっていいですか?
一方で、ナメッキーは、顔かどうかわからないところから、何かを体を動かしながら何かを球体状のものを展開し、小さくて目に見えるかどうかわからないものが次第に、回転しながら大きくなっていく。
有輝は、後ろのナメッキーを確認しながら、走る速度を緩めずに進んでいく。
シャルーラに辿り着けば、何とかなるのだから―…。
そのような希望を抱いて―…。
希望を抱けるから絶望するものだけど、希望は大事だ。
そして、有輝は気づく。
(何だ、球体状のもの。異世界ものの作品だとすれば、明らかに俺たちに向かって、攻撃してこようとしているのか。
ナメクジ型から推察するに、ヌメヌメしたものかもしれない。
そうなると、かなり厄介だ。ヌメヌメにされてしまえば、俺らが動けなくなる。)
「イルアーナ、とにかく、走り切れ。ナメクジ野郎は確実に、俺たちに向かって、何か球体状のものを使って、攻撃を仕掛けてくる!!」
有輝は、イルアーナさんにナメッキーが攻撃してくる可能性を指摘する。
仲間思いなのかな。
いや、イルアーナさんのこれまでのおこないから、仲間思いではなく、死なれると困るからだと考える方が適当かもしれない。
有輝は冷静に計算して行動するから、そうだとする方が納得がいくもんだ。
そうこうしているうちに、ナメッキーが―…。
「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
と、ナメッキーが奇声を発すると、球体状のものを有輝とイルアーナさんに向けて放つのだった。
その球体状のものは色としては、水のような透明な色をしており、見た目ではどのような危険性があるのかわからない。
こういう場合は、ナメッキーに関する知識が必要であることに変わりはない。
そして、ナメッキーの攻撃は、有輝とイルアーナの方へ向かってくることに、すぐに振り返った有輝が気づき―…。
「イルアーナ、真横に動け!! すぐに!! 左!!!」
「わかったわ。」
有輝とイルアーナさんはそれぞれ左右に移動するのだった。左はイルアーナさんで、右は有輝。そういうことで―…。
そして―…。
ブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。
ナメッキーの放った球体状の攻撃は、有輝とイルアーナさんに直接も間接も当たることはなかった。
というか、その球体状の攻撃に当たる大変なことになるので、有輝の判断はナイスというわけだ。スペーグラの素質あるよ!!
(ナメクジモンスターの方は動きを少しだけ止めた。
あの球体状の攻撃をすると、一時的に反動か何かで動けなくなるというわけか。
大事な情報だ。
そして、あいつが出した球体状の攻撃は―…。)
と、有輝は心の中で思いながら、ナメッキーが攻撃してきた球体状のものが接した地面の方を見るのだった。
それは―…。
(………………マジか。避けるようにして正解というわけか。)
そう、有輝は答えを出す。
(ナメクジモンスターの球体状の攻撃は、酸によるもので、地面の一部、木などが溶けていやがる。
とにかく、こいつが危険だということはわかった。
今からしないといけないことは、逃げ切ることだ。
ナメクジモンスターが反動か何かで動いていない間に―…。)
有輝、正解!!
ナメッキーの球体状の中には、酸性の強いナメッキーの体液なのだ。
その攻撃を受けると、人の体も簡単に溶かすほどなのだ。
初心者スペーグラがナメッキーに遭遇すると、逃げられなかった者は大抵、ナメッキーに踏みつぶされるか、この酸の球体状のもので溶かされて、お陀仏ということになるのだよ。
スペーグラ初心者の諸君も講習やお勉強はちゃんとしないといけないよ。
関係ないと思っている人は、ナメッキーに会って後悔すれば良いけど―…。
そして、有輝はすぐに逃げるのが適切と判断し―…。
「イルアーナ、走れ!! あいつの攻撃に酸が関係している!!」
「わかっているわよ!!! 達観有輝!!! 私だってそれぐらい―…。本当に走って、シャルーラに辿り着くしかないのよ!!!
私の出世のために!!」
有輝とイルアーナさんは走り始めるのだった。
イルアーナさんは、自分の出世にこだわっているねぇ~。
その執念は、むしろ褒めたいと思ってしまうよぉ~。
だけど、このままナメッキーから逃げ切れる可能性は低いんだよなぁ~。
フォングラでは、有輝のいた世界ではできないような超人になることは可能であるが、それはちゃんと鍛えて、魔法やらを使えるようにならないとできないんだよ。
つまり、来たばかりの二人には不可能ということになる。
だけど、この二人が生きることを諦めるという選択肢をすることは許されない。というか、そんな選択肢をするわけがない。
生きたいという気持ちがかなり強いのだから―…。
そして、有輝とイルアーナさんは走りながらナメッキーとの距離を離そうとする。
そのように行動しないとね。
(酸が関係している以上、距離を取るのが正解。とにかくシャルーラに辿りつかないと―…。
いつになったら見える。)
有輝にも焦りがあるようだねぇ~。
焦りは禁物。
大事なのは、冷静に状況把握をし、自らの、そして、仲間の生存を優先して、行動することだよ。
もしも、私が有輝とイルアーナさんの、今の状況に居合わせているのなら、そのように言う事だろう。
だけど、ナメッキーなら、私一人でも倒せるけどね。
◆◆◆
そして、有輝とイルアーナさんの体力も尽きかけていた。
そりゃ、数百メートルではなく、一、二キロをほぼ全速力で走っているし、平坦なところがなく、木の合間を上手くジャンプしたりしながら、走っているからねぇ~。
それでも、ナメッキーは有輝とイルアーナさんとの距離を保ちながら追いかけていく。
(距離を離すことができないなんて―…。どうなっていやがる。モンスターに舐められているのか、俺たち―…。)
有輝、正解。
ナメッキーって、追いかけて、動けなくなった相手を捕食するんだよねぇ~。
酸もあるから、それを併用して―…。
さらに、有輝とイルアーナさんを絶望させるぐらいのことは存在していた。
(シャルーラが見えない。城壁すら、村すら―…。)
そう、二人は城壁も、森の外にも、村にも辿り着いていないし、見えてすらいないのだ。
これは、気持ちが折れても仕方ないのかもしれないねぇ~。
頑張れ、二人とも―…。
だが―…。
「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
またもや、酸の攻撃を放つのであった。
そして、その酸の攻撃は有輝とイルアーナさんの方へと向かっていたし、体力をほとんど使い果たしている二人に避けるだけの集中力も、スピードも出せなかった。
(クソッ!! クソッ!!! クソ―――――――――――――――――――――――!!!
ここで、俺が死んでしまうのなら、あいつに―…、あいつに告白しておけば良かったなぁ―…。)
有輝はここで自らの死の運命を覚悟するし、受け入れるしかなかった。
ゆえに、後悔したことを思い出すのだった。
そう、有輝には好きな女性がいた。
その女性のことに関しては、今、ここで述べる必要もないので、割愛、割愛。恋バナは、別の場所にて―…。
「ふざけんな――――――――――――――――――――――――――――!!!
私の出世を潰した恨み、末代まで呪ってやる――――――――――――!!!
ナメクジ野郎――――――――――――――――――――――――――――!!!!」
イルアーナさんはイルアーナさんだった。
二人は自らの死という運命を抗えないものだと理解する。
せめてもの抵抗で、イルアーナさんは、ナメッキーに罵詈雑言を吐く。君は逞しいよ。
だけどね、有輝、イルアーナさん。
君たちがここで死ぬという結末はないのだから―…。
そう―…。
「デカいナメクジがいるので来てみれば、ナメッキーとは―…。」
そう、一人の賢くてカッコよく、美しく、女性にモテモテで、男たちからは兄貴と呼ばれて慕われているあの方の登場です。
そして、あの方のカッコイイ登場シーンですよ。
私、一押しの登場シーンですよ。
カメラの準備OK!!
シャッターチャンスはそんな多くはないので、逃してしまうと大変なことになりますよぉ~。
そして、あの方が、ナメッキーが放った酸を浄化するよ。
さあ、皆で一緒に詠唱しましょう。
「酸浄化。」
そうすると、あの方の持っている杖を振りかざし、その先端から綺麗な白色の光がナメッキーの放った酸の混じっている水に向かって放たれるのだった。
そして、その酸は綺麗に浄化されるのだった。
有輝はそのような光景を見て、あの方に向かって言う。
「助けてくれるのか。」
有輝に向かって、あの方が姿を見せるよ。皆も見よう!!
「無事で良かった。君たち見ない顔だけど、なぜ、ナメッキーに襲われていたんだ?」
そう、あの方とは、私です。
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