第2話

 …………。

 頭の薄そうな上司であり、イルアーナの上司であることとその他一つぐらいの情報しかわからない。もっと教えろと―…。

 そう言われると―…、教えないといけなくなるじゃないですか。

 というか、少しだけ適当なことを言うのはしばらくの間、やめておきます。


 (何だ。この背の大きな―…。頭、禿げかけているなぁ~。

 言葉は紳士そうだし、イケボなのかぁ~。)


 有輝は心の中でそう思いながら、私の上司を観察するのだった。

 上司の詳しいことを言うと、既婚者で、子どもさんもおり、家庭は円満で、夫婦で一緒に現実世界のコスプレショップに行くのが楽しみだそうだ。

 上司とそのパートナーは、嫌いなものが同じで、考え方も似ているところがあったりするのです。私も一度、実際に会ったことがあるので、確かです。


 「何をぼ~おっとしているのですか。

 イルアーナ、有輝君が部屋の外に出ようとしているけど、トイレとか、そういう類のものですか。」


 「ええ。」


 イルアーナさ~ん、嘘をつくのは良くないですよ。

 知っているんですよ。私は―…。

 イルアーナさんの傲慢な態度が、最初から世界管理局とこの状況における不審を感じていた有輝を部屋の外に出そうとした行動をとらせたことを―…。

 後、その「ええ」の言い方は、止めた方がいいですよぉ~。

 間というよりも、冷や汗があるのであるではないかという感じの表情は―…。


 (達観有輝ぃ~。私の言うことを聞きなさいよ。たまたまトイレに行こうとしているということを―…。

 うちの部の部長は、かなりのヘマをした人には厳しいのよ!! わかってるんでしょうねぇ~。)


 イルアーナさん、自らのおこないに反省なしですかぁ~。

 やっぱり、自分というものが一番、自分にとって分かりにくいものなのでしょうか?

 というか、私の上司でもあり部長さんです。

 部長さんの名前は知っているのですが、ここでわざわざ出したとしても意味はないでしょう。部長さんとしか呼ばれないだろうし―…。

 酷くない!! そう思うかもしれないけど、上司の名前を間違えたくないので、そこは却下ということで、わかってくれますか?

 そんなことより、イルアーナさんが返事したために、少し上司が怒り気味になってますよぉ~。


 「私は、イルアーナ、君に聞いているのではない。達観有輝君に聞いているのだ。

 達観有輝君は、喋ることができるのは我々の調べでちゃんとわかっているし、喋らないとしても、別の方法で我々は交渉することもできる。

 で、有輝君、部屋を出ようとしているのは、トイレか、何かか?」


 (……ここで後ろにいる女の言う事を聞く必要はないな。)


 有輝は、そういう選択をするのですねぇ~。

 良いですよぉ~。

 一回、イルアーナさんにはちゃんと傲慢な態度を治してもらいたいために、言うべきことを言っておかないと!!


 「いえ、世界管理局とか、何を言っているんですか。このような変な組織からは―…。」


 「済まない、有輝君。イルアーナがご迷惑をおかけした。

 私の方から、有輝君。今までのことを説明してくれないか。君がこの部屋で目を覚ました時からのことを―…。」


 部長さんは、意外にも紳士なんですよ。

 イルアーナさんが余計なことをするから、イルアーナさんにとって怖い、理不尽な思いをさせる人というイメージがイルアーナさんの中に植え付けられているのですよ。

 理解してくださいよ。マジで―…。

 そして、有輝はちゃんと部長さんにこれまでの経緯を話すのだった。



 ◆◆◆



 五分後。

 その有輝の話を聴いた部長さんは―…。


 「イルアーナ!!!」


 と、怒声を発する。

 その怒声は、本当にフォングラであったなら、Sランクのモンスターが放つ咆哮と一切変わらないものですよ。

 あの家族思いで、パートナーを愛してやまない愛妻家で穏やかな人が―…。やっぱりイルアーナさんは、人を怒らせる素質があるのかもしれません。

 この部長さんの怒号の結果―…。


 「ひゃい、すみません!!」


 謝るしかなかった。

 心の中では―…。


 (達観有輝ぃ~。良くも私をこんな目に遭わせてくれたわねぇ~。フォングラの遠い辺境の辺境に送ってやる~。)


 反省の「は」の字もありませんねぇ~。

 本当、少しは自分の落ち度と傲慢さについて考えてください。

 というか、そういう指摘というか、経験が必要なのかもしれません。

 イルアーナさんを成長させるのは、かなり難しいですねぇ~、人として―…。

 イルアーナさん、実は優秀な人なんですがぁ~、優秀でありすぎるのが原因かどうかはわかりませんが、周囲から何でもできる超人扱いされて調子に乗った感じですね。

 これは難しいわけだ。


 「有輝君、申し訳ない。」


 「あっ、いえ。」


 (怖い人に感じたけど、この人は実は優しい人とか―…。)


 さすが、有輝君だねぇ~。

 部長さんの性格を見破っている、百点です。いや、最初から百点にするのは良くないか。九十五点、九十点、…………そういう感じにしておきましょう。

 そして、部長さんは有輝の方を見ながらも、イルアーナを睨みつけるように見る。


 「改めて話させていただく。

 有輝君、君が線路に落下して、この場に空間移動させたのは、我々世界管理局だ。

 それに、世界管理局は、君の世界では存在しない組織であるが、立派にこの世界の集合点にちゃんと存在するんだ。

 信じてはもらえにくいだろう。

 だから、フォングラにおける魔法というものを見させてあげよう。

 火の玉。」


 部長さんが言うと、部長さんの右手の掌の上に火の玉が本当に出現するのだった。

 本当に、部長さんはすべての世界における原理を知っていて、魔法に関しては特に詳しいのよねぇ~。

 やっぱり、コスプレしてパフォーマンスするからですかねぇ~。

 この火の玉は、有輝の目を釘付けにさせるには十分なほどであった。

 有輝君は、現実世界でラノベやら漫画、所謂いわゆる、二次元と言われるものやファンタジー創作に触れているから、現実に目の前にあると驚かないわけもないし、夢中にならないわけがない。

 だって、君も子どもの頃は、魔法とか扱ってみたいと思っていたのかもしれないのだから―…。

 魔法のない世界の子どもが自らにないものに憧れる感じなのだ。私は、魔法のある世界にいたから、そういう有難みというのがわからなかったのですがねぇ~。

 あるものを当たり前と思ってしまうのは、人の本質の一つなのかもしれません。それを手に入れる過程が存在しているのならば、その過程があったことを忘れてしまうというような感じで―…。


 (魔法―…、いや、ホログラムの可能性も―…。)


 有輝君はまだ疑っているようだね。

 だけど、これ、本物の魔法なんですよ。

 魔法のない世界だと魔法を見ることすらないから、魔法かそうでないかを区別するのは難しくて当たり前か。

 そういうことを部長さんは理解しているのか。


 「燃えないようにしているから、この火の玉。触ってごらん。それに、これはホログラムという類のものでも、立体映像で出しているものではないから―…。」


 有輝は、部長さんの言葉を疑いながらも、火の玉を触ろうとするのだった。

 触ってみると―…。


 (熱くはない。ホログラムにしては、透けているという感じはないし―…。どうなってるんだ。)


 有輝は、心の中で疑問に思っていますねぇ~。

 それが魔法なんだよ。


 「これが魔法さ。私は、有輝君に嘘を付いているわけではない、むしろ、正直に言っているし、フォングラの未来が有輝君の行動にかかっているのは事実だ。

 だからこそ、お願いします。

 私は、フォングラの出身の人ではないが、それでも、理不尽に滅ぼされていく世界があっていいわけではない。

 それに、有輝君が最大限にフォングラで行動しやすいようにサポートすることを誓うし、その役の者を言うために、ここに来たのだ。」


 「あの~、どうして俺の行動がフォングラを救うのですか?」


 (確かに、部長さんこのひとは優しそうな人だけど、どうして、俺の行動がフォングラを救うことに繋がるんだ?

 それに、魔法があることを認めざるをえない状況か。一旦は―…。)


 さて、ここから部長さんがちゃんと説明してくれますよぉ~。

 では、聴きましょうか。

 大事なとこですよ。


 「我々、世界管理局は、この世界を管理している役所だ。さっきも言ったけど―…。

 その管理のために、ある大きなシステムを使っているんだ。

 システムの名は、関数シュミレーション。

 この世界は、世界の数、時間、世界全体の大きさという三つの指標によって成り立っているんだ。

 今の君では、分からないと思うが、それでも、これは事実だ。

 そして、その関数シュミレーションが弾き出した結果の中に、フォングラの世界の滅亡がたった一つのルート以外で、確実に起こると―…。

 それも、このフォングラだけで収まれば良かったのだけど、そうではなく、他の世界へと影響が及ぶことが算出されてしまったのだ。

 達観有輝君、君が生まれた世界はこれには関係がない。」


 有輝は聞きながらも、情報量の多さに頭が追いつかないのか、首を傾げるが、部長さんもそのことは承知しているし、大事なのは、有輝がなぜフォングラの世界を滅亡から救うのかということだ。

 本当に、有輝は不思議な御縁というものがあるねぇ~。

 本当にそうなのか?

 まあ、いいや。

 そして、有輝の生まれた世界がフォングラ滅亡の影響を受けないとして安心するのだった。

 そりゃあ~、あなたの世界に影響を及ぼすから、フォングラという世界を滅亡から救いなさいということだと可能性として考えるよね。

 だったら、ここで疑問点というものが出てくるのは、当たり前のことだ。


 (じゃあ、なぜ俺?)


 そう、自らの生まれた世界と関係のないフォングラを滅亡から救わないといけないのか、そういう疑問だ。

 ちゃんと答えがあるんだよ。


 「だけど、フォングラの滅亡に巻き込まれた結果、他の世界へと影響が波及することは決して、君の生まれた世界に良い影響はないだろう。

 そして、世界管理局的には困ったことになる。

 世界が滅亡すれば、新たな世界が形成される。数が増えることもあるが、今回は同数ということになるみたいなんだ。

 そして、その世界の形成のためには、君の生まれた世界でいうところのビッグバンというものが起きてしまうんだ。

 それが、今回のいくつかの世界に影響を及ぼしてしまうんだ。

 その影響を最小限にする方法は我々の組織の今の状況ではできる可能性が存在すらしない。

 だからこそ、関数シュミレーションが弾き出した、達観有輝君、君にフォングラを救って欲しいんだ。

 そのためのサポートの役目を派遣することは確実にするし、その者には私から確実に協力させる。約束しよう。」


 そうなんですよねぇ~。重要なところが抜けていますが―…。

 これは、あえて、今の有輝には言えないことなんだ。

 それに、私はちゃんと知っているのだ。世界の滅亡というのは隕石の落下のような派手なものではない。

 人が勝手に自らの生きている世界に存在するすべてを過剰に消費させてしまえば、世界なんて滅んでしまうのだから―…。

 そして、フォングラの崩壊の条件を定めたのが、フォングラ特有のものなのだよねぇ~。


 「関数シュミレーションで弾き出しているのであれば、俺はどうやって行動すれば良いのかを指示してくるんだよなぁ~。」


 有輝、気づいているけど言ってはいけないよ。

 理由はちゃんとあるから―…。


 「残念なことに行動を完全に指示することはできないが、ある程度のアドバイスという形で言う事はできるが、それでも、なるべく達観有輝君およびそのサポート役、フォングラの世界の人々には言わない方が良い。

 関数シュミレーションの結果で、フォングラを滅ぼさないためには必要なことなのだ。

 理解して欲しい。」


 「そういうふうに、関数シュミレーションというのは予測しているのですか?」


 「ええ。」


 部長さんは、理由を説明した後に、有輝の言った言葉に返事をする。

 有輝はちゃんとわかっているねぇ~。

 一方で、イルアーナさんはまったくわかっていなかったようだけど―…。

 そのことに関しては、見なかったことにしてあげましょう。

 で、ここから大事になってくるのは、有輝のサポート役が誰かということだよねぇ~。私―…、実は知ってますけど―…。

 さっさと教えろ!!?

 大丈夫だから、すぐに聞けるから、そう文句を言わないようにして―…。


 「理解してくれてありがたい。達観有輝君には損しないようにしている。大変なことになろうが―…。」


 (大変なことには変わりはないんだろう―…。俺の人生で最大かもしれない試練なのだろうか。

 いや、俺を騙すための―…。)


 有輝、騙してはいませんから―…。

 彼には、真実者が必要なのだろうか?

 まあ、そんなことよりも、次、辺りからサポート役の人がわかるよ。


 「で、最後にサポート役というのは誰ですか?」


 はい、ここからサポート役の人の名前を言うと思うので、聞いてください。大事ですから―…。


 「サポート役は、イルアーナ=レイスリに任せるよ!!」


 ということで、サポート役はイルアーナさんに決まりました!!! パチパチパチ、拍手をしてみる。

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