第3話―—―慰めてほしいよ。


「最近、部活出られてないよね? それでね、後輩も不安がっているらしくて、僕の方に伝えてきたんだ。一度、君がいない時にみんなに聞いたら、他の同期もそう思っているらしい。それでも、君は生徒会役員としての活動もある。僕は、君がこれから部活動と生徒会で板挟みにされて忙しくなってしまうことが不安なんだ。だから・・・・」


 ―——部長をクビという形にできないかな?




 こんな冗談みたいな話は、本当だった。

 当時、僕は長く活動を続けてきた生徒会役員と、新しく任された部長を兼任しながら、ほとんど毎日のように学校関係で動く生徒だった。


 部長をクビになる話は、同じ顧問の先生から二度―—―夏季休業中の試合後と、十月の少し寒い秋の日、部活のミーティング後に呼び出されて―—―言われた。一度言われた時は、その瞬間「嫌です」と、あまり目上の人に意見をしない僕が、拒否をしたことで、何とか継続することができた。いつになく半泣きで同期を呼び出し、別日にミーティングを開催し、そこで頑張りたいことを伝えたことで、なんとか納得してもらう形になった。

 二度目の秋に言われた時は、もう半ば強引に辞めさせられた。僕はもう一度「嫌です」と首を横に振ったが、それは叶わぬ思いになってしまった。周りには、後輩も同期もいなかった。僕を助けてくれる人はおらず、ただただ一人、顧問の先生に呼び出され、クビだと宣告され、そこから「元部長」として活動することになったのだ。


 夏休みに家族との予定を優先し、部活の合宿に行けなかったからか。

 生徒会の仕事が集中する文化祭のあたりで、部活に行けなかったからか。

 後輩や同期と、どんどん関わって連携して、いい関係にできなかったからか。

 そもそも、部長としての実力が足りていなかったからか。


 考えれば考えるほど、色んな原因と思われることが思い浮かび、当時の僕は、その答えのない問答に苦難し始めた。ただ、さすがに二度目の時は、そんな泣いたり拒否したりすることはしなかった。


 僕にできることは、「これからは、元部長として精一杯、変わらず活動します!」という、前向きな言葉を顧問の先生に言い、安心させることだった。




 誰かに慰めてもらいたい。

 その一心で、僕は当時仲のいい友人、親、親戚に、その衝撃的で悲しかった出来事を言った。誰でもいい、一言でも「それは大変だ!」とか、「悲しいね。」とか、「一緒にもう一度先生と話をしに行こう!」とか、「それでも味方だし、支えていくよ。」とか、言われたかった。とにかく、僕の空いた心を、誰かの言葉で埋めて、もう一度前に進む力を伸ばしたかった。


 ただ、僕は色んな人から、応援されていなかった。


「よかったじゃない、これで生徒会に集中していけるから。」

「えぇ~、それはマジでドンマイだよな。」

「先生も凄いね。」

「まだ、生徒会があるね。」


 そのもらった言葉全ては、僕の心を埋めずに通り抜け、むしろ心が空っぽになり、悲しくなることに繋がった。


 しかも、もっと辛くなったことは、部長ではなくなったことで、部活でコミュニケーションを取ることが不可能に近くなり、関係性が上手く続かなかったことだった。部長になる際、「支えるよ」と言ってくれた同期は、もう僕のことをあまり気にせず、後輩から親しまれ、どんどん成長していった。後輩も、元部長となった僕にどう接していいか分からないのか、あまり言葉をかけてくれることは少なかった。また、顧問の先生は、新しく部長となった部員のサポートや、新体制として進む部活のことを考え、僕が複雑で心に穴が空いていることは知らなかったと思う。


 とにかく、僕は「部活」という大切な場所の一つを失い、そこから部活に行くたびに、体調不良で早めに引き上げることが多くなっていった。部活で辛い練習をしなくても疲れて座り込み、部活で使うものが重く感じることが多くなった。あまり部員とも言葉を交わさず、行き帰りはなるべく一人で行動した。部室にいても話さずに着替え、早めに部室を出た。体調不良の始まりは、今思えば、その頃からずっと始まっているのかもしれないと思う。


 それでも、「生徒会・生徒会役員」としての活動もあったことから、表向きは「いい子」だとしか思われなかった。いい意味で、部活以外の生活は変わることはなかったが、僕の心身のボロボロさには、気づいてくれる人は少なかった。


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