第25話 私と祝福

 冒険が終わって村に帰って、眠りについて、その日は疲れてそのまま眠った。


 にもかかわらず。その日はいつもより早起きをした。時間的にはお日様が顔を出したばっかりといった頃。


 まだ誰も起きていない時間。もう一度寝てもいいけれどなんだかもったいない気がした。


 こういう時は、そうだ。いつものあの場所にでも散歩に行こうか。そう思った私はいつもの服とお気に入りの髪飾りを付けて外へと出る。


 まだ少し肌寒い。もう少し着込んでくれば良かったかな。まぁいいか。


 ゆっくり歩きながら、人がいない見慣れた村を見回す。


 飽きるほど見て来たけど、もうすぐここを離れると思うと、もう少し目に焼き付けておきたいと思う。


 といった気持ちで村の人たちの家や集会所を過ぎ、私はいつもの高台へとたどり着く。


「ここに来るのも、あとちょっとかな」


 そんな私の声を聞いているのは小さく揺れる花だけ。けど他に人もいないし恥ずかしいなんてことは無い。


「私ね、村を出ていくんだ。って前にもここで言ったっけ」


 花畑の中に入ってしゃがみ、そう話しかけた。何も答えないのは分かっていたけど、聞いてほしくてそのまま言葉を続ける。


「それがすっごい楽しみなんだ。不思議だよね、ちょっと前まで私村の外に関心すらなかったんだよ?」


 私はおしべとめしべを隠している花弁のふちをツンと触る。


「もちろん不安もあるけど、しばらくはカナリアさんも一緒だろうし、それにお兄ちゃんも一緒だから平気だよ。まだ私より情けないかもだけどね」


 少し笑って、そのまま森で起こったことを話した。その次はカナリアさんがすごいってこと、この村で楽しかったこと。


 何も言わないで頷くだけの花に私は思い出を話し続けた。それで良かった。村を出る前にこれだけはやっておきたかったのだ。


 思いつくこと全てを吐き出して、「ふぅ…」とため息を付き、一呼吸おいて最後に言いたかったことを吐き出す。


「私、もうここには戻ってこないと思うんだ。」


 立ち上がって、村の外を見る。


「私見たいんだ。この世界を、全部。そんなの人の一生じゃ無理なのわかっているけど。やってみたい。」


 我ながら無茶で計画性のない夢。でもどうしても叶えたかった。


 こんな事誰にいっても否定されるだろうから言えない。でも、自分の心にしまっておくのも嫌だから声に出した。


「どうかな応援してくれる?なーんて…」


 返答は無いのを分かっておきながら、また花の方へと振り向きながら訊いた。


 その時、小さな光を目にした。ぽつぽつと丸い粒の様なものが花の真ん中から飛び出しているようだった。


 その光は1輪だけではなく、花畑の花全てからポツリ、ポツリと湧き出し、光り輝く粒がその場を温かく包み込んだ。


 朝だというのに存在感を失わせないその光は、まるで私を祝福するような雰囲気を醸し出している。


「こんなの…見たことない…」


 試しにその光に触れると、すっと消えてしまう。だけども、触ったところがぽかぽかと温かくなるような感じがする。


 それが引き金だったのかわからないが、一斉に光の粒が私へと纏わりつき、触れたところから消えていく。


「うわわわわわ!?」


 そして最後の一粒が私の中に入り込んだ。全身がとてもあったかくなるのを感じる。


「今のは…」


 まさか花たちが私を応援してくれた?そんなことある?私は今起きたことの理由が分からず混乱した。


 でも、同時に少し嬉しかった。なんだか自分の事を分かってくれたような感じがしたからだ。


「…ありがとう」


 だから、私は感謝を述べた。あれが本当に私へのエールだったのかもわからないし、もしかしたら私の理解できないただの自然現象だったのかもしれないけど。


 それでも、あの光は私の力になってくれたような気がする。だからきっとあれは頑張れよって気持ちがこもった花から私への贈り物だ。


「ふわあ…なんか眠くなってきた…」


 感謝したのも束の間、体が温まったからなのか急に眠気が襲ってきた。


 そういえば早く起きたせいで睡眠時間は全然取れていない。昨夜の疲れも抜けていないし眠くなるのは当然だ。


「もうこのまま寝ちゃおうかな…」


 風邪をひくかなとも思ったが、今は光の粒の影響で体がじんわりとあったかい。このまま寝ても多分大丈夫。


 そんな長い時間続かないだとか、実際は体が温まった気がしただけなのではとか実はもう既に風邪を引いていて体が熱いとかそういう事を考える程、既に私は頭が働かなかった。


 私は大きくあくびをしてそのまま花に埋もれるように眠りに落ちた。


***


「うーん…」


 花の香りを初めに受け、目を覚ます。どれくらい時間が経っただろうか。私は体を起こし、そして立ち上がった。


 熱い。私の体がではなく空気が熱を持っているのを感じる。


「煙…?」


 ふと辺りを見回すと、村の方から黒い煙が上がっているのを目に入った。


 まさか、嘘だ。なんで、頭の中で呟きながら、花が潰れるのも気にせずに、村を見渡せる位置へと駆け出す。


 そして私の眼前に現れたのは、慣れ親しんだ村ではなく火の海という名の地獄だった。


 


 

 


 


 


 


 


 

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