第24話 私と帰り道
どうにか魔物退治を成功させた私達。お兄ちゃんも満足したようだし、後は朝が来る前に帰るだけなのだが、私は今動くのが正直辛い状態だ。
だから、私の足の痛みが引くまで少し休んでから帰ることにした。
森の中かつ、目の前に死体が置いてある状態なので休憩をするロケーションとしては最悪だけど仕方がない。
そんなこと考えながら痛む足を擦っていると、お兄ちゃんが話しかけてきた。
「お前いつの間にあんなの使えるようになったんだよ」
「えへへー…ちょっと練習した」
「練習って…そんなんで出来るようになるわけないだろ」
「カナリアさんにできるようにして貰ったんだ」
「それは、どんな風にだ?」
「どんな風って…」
数日前に、初めて魔法を使った時の事を思い出す。
私が魔法が使えるようになったのは、カナリアさんに触れられたとき。そこからだ。
逆に言えばそれ以外にされたことは無い。今まで魔法とは縁のない生活を送っていたはずの私は急に魔法を使えるようになった。
「…頭を触られたら何か使えるようになったかな?」
「そうか…」
「どうかした?もしかして魔法が羨ましいとか?」
「別にそんなんじゃねえよ」
私がからかいを込めて聞いたけど何か反応が薄い。どうしたんだろ。
もしかしてずるいとか思ってる?お兄ちゃんを守るために覚えたのに、あまり好意的な印象を持たれていない理由はそれなのでは?
「ちょ…ちょっと待ってその…私お兄ちゃんと一緒に戦いたかっただけで!」
「お、おう急にどうした?」
「その…怒ってるかなって」
「怒る?何で?」
「何か簡単に強くなりやがってとか思ってるかなって…その」
「バーカ。思ってるわけないだろ」
その呆れた物言いからとりあえず本当だと分かる。私は安心して「良かった」と小さく呟いた。
「確かにちょっと羨ましいとは思ったけど、それだけだ。気にすんな。」
お兄ちゃんはそう言うとまた何かを考えるように黙り込んだ。
そのまま無言の時間が始まるのが怖くて、私は、まだ少し痛む足で立ち上がって言った。
「も、もう大丈夫だから!帰ろう、お兄ちゃん」
「そっか、じゃあ帰ろうぜ」
そうしてその場を後にしようと、死体に背を向けて歩き出した。
しかし、私達はここで最大の誤算をしてしまった。死体だと思っていたものはまだ死体では無かった。
私達が背を向けたとたんに、瞳孔をに光を取り戻した魔物は音もなく立ち上がりこちらに殺意を向けた。
本当だったらすぐに気づいただろうけど、先ほどのお兄ちゃんの態度がまだ脳裏から離れなくて、気づかなかったのか反応が遅れる。
気配を感じた時にはもう遅くて、自分の死が後ろから猛スピードで近づいてきていた。
そして、その死を直視したとき、そこにあったのは、生気を残した目をした魔物の頭と、血しぶきに飲まれた切り離された体だった。
「全く、油断しすぎよ」
この世で最も安心できる人が、完全な死体の奥から現れる。
「「カナリアさん!」?」
「おーすカナリアさんだぞ♪」
私達は同時に声を上げ、きったない死体を気にせず踏みつけて駆け寄った。
「どうしてここに?」
先に声をかけたのは意外にもお兄ちゃんだった。
「君たちが夜遅くに出ていくのを出ていくのを感じてねー。ついてきたの」
「よ…よく気づきましたね。」
私はカナリアさんにそう言った。私もお兄ちゃんも、音をたてないようにして廊下を進んだのにと思ったからだ。
「ふふん。旅人はそういうのに敏感なのよ♪」
「なんだ、結局カナリアさんに見張られてたんならあんまり冒険って感じしないな。」
お兄ちゃんが、ため息をつきながら呟く。魔物に一応のとどめを刺したときは大満足とか言ってたのに。
そんな様子を見たカナリアさんは小さく微笑みながら少し下を向いていたお兄ちゃんの頭を撫でながら賛辞を贈る。
「そんなことないわよ。立派だったわ」
その動作に少し固まった後、恥ずかしくなったのか「やめてください、子供じゃないんですし」と、置かれた手を払ってしまう。
いいなぁとか思ってその様子を見ていると、私の髪にも温かい手の感触が現れた。
「リリちゃんも、魔法の使い方とっても上手だったわよ。」
「えへへ…ありがとうございます」
正直自分の中ではまだまだだなのだが、師匠から褒められたとなると少しは一人前の魔法使いに近づけたのかなと嬉しくなる。
「そうだ、魔法!どうしてリリが魔法使えるんですか!」
お兄ちゃんの突然の疑問で私に向けられたなでなでが中断された。もうちょっと堪能してたかったのに…
「あら…その…ごめんね?」
「…明日聞かせてもらいますから」
「そうね、明日タカサ君も少し教えてあげるわ」
えちょっと。確かに魔法は別に私のものではないいんだけど、お兄ちゃんも使えるようになるのは、なんかやだというか。
「別にいいですよ俺は魔法なんていりません」
少し不機嫌そうにお兄ちゃんは言い捨てた。
魔法を覚えることに対して否定的なのは良かったけど。その言い方は魔法が嫌なもののような扱いをしている感じでちょっとむかついた。
「あらあら、じゃあ帰りましょうか。早く帰らないとお母さんに怒られるわよ?」
「はーい」
その小さな怒りを忘れるように返事を返し、カナリアさんの手を握って私は村へと戻った。
帰り道、不思議とお兄ちゃんは私達の後ろを歩いていたけど、もっとカナリアさんの近くにいたほうが良かったんじゃないかと思う。
以上。これが私とお兄ちゃんの初めての冒険の話。そして、これは同様に、お兄ちゃんと私の最後の冒険の話なのだった。
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