第23話 私と戦闘

 始めに確認しておこう。私の魔法について。


 魔法はイメージしたものなら何でもできる。カナリアさんには目の前の魔物を風の刃で真っ二つにすることくらい簡単に出来ると思う。


 では私がやったらどうなるか、一度見せてもらった風の刃…技名は短くでいいか。私は刃のイメージを固めてそれを打ち出した。


「刃っ!」


 小さな三日月が掌の少し先に現れ、魔物に向かって真っすぐ向かっていく。


 遅い。めっちゃ遅い。せめてさっきの風の勢いで飛ばせたらよかったのに、形だけのイメージが強かった。


 そよ風の速度で動く弧は魔物が少し動いただけでよけられてしまう。


 まだ警戒しているのか、襲ってくるようなことはまだない。バレたらすぐに攻撃を開始するだろうから早くしないと。


 次はもっと早さをイメージする。形よりもそっちの方が魔物をかく乱できるはずだ。


「鋭敏っ!」


 その言葉通り、ナイフの先っぽを切り取った形の刃物が勢いよく魔物に向かう。


 流石に今度は反応が遅れたようで、魔物が動き出すよりも魔法が直撃する――

はずだった。大きく動かない的を私は外した。


「しまっ!」


 動揺した素振りを見た魔物は作戦を変える。その俊敏さを活かして私との距離を詰めてきた。


 それをただ見ている私ではない。敵の直線状に立たない様に動き回りながら『鋭敏』を打ち込み続ける。


 その技は一度見た。と言わんばかりに魔物はそれを回避する。


 私に近づく速度もほぼ落とすことは無く、武器を突き立てられる距離まで寄ってきた。


 こうなると、魔法は分が悪い。イメージを固める時間が必要な以上、一瞬でも反応が遅れるのは致命的だろう。


 ただでさえイメージ力の弱い私は、この距離に持ち込まれた時点で魔法攻撃は不可能と言っていい。


 ところで、敵が目の前にいるとき、一番攻撃しやすい武器は何だと思いますか?


 単純に言えば一番早く動ける動作。つまりは、己の身を使った攻撃。


 目の前に現れた顔を私は下から勢いよく蹴り上げる。


ガアッ!?


 そして、当たった感触を足に受けた瞬間に私はその踵に向けて今出せる全力の風を吹かせ、蹴りの威力を底上げする。


「おりゃああああああっ!」


 魔物にとってその理外の一撃はだいぶ答えたようで、初めてその背中を地面につけた。


 その隙を見逃さす攻撃したかったけど、そうもいかなかった。なぜならその攻撃した側はうつぶせに地面に倒れていたからだ。


「いったぁ…やっぱりちょっと無茶だったかな…」


 修行ではできなかった自分を浮き上がらせるといった風の使い方。残念ながらその後1人で練習しても出来なかった。


 それなら、私は自分が出来そうなことから始めようと思った私は、風で体を動かすことから始めることにした。


 自分の動きを、風の力でブーストする。そうすれば勢いが乗った体術で相手を倒せると考えたのだ。


 その結果がこれである。貧弱な私のキックでも、敵を吹き飛ばすことが出来た。勢いが強すぎて着地は出来なかったが十分だ。


「よっし、これなら…ってあれ?」


 立ち上がろうとしたときに蹴り上げた足に違和感を感じる。


 関節が痛い。いや、激痛が走っているとかそういうわけじゃないけども。


 これはあれだ。慣れてない動きをしたから足がつったんだ。普段なら少し休息すれば治るけど。この状態だとまずい。


 戦闘中だというのに情けない。もっと大技を食らった時とか、長い間戦ってもう限界だとかで動けなくなるのは、ほんの少しかっこいいとは思うけど、こんな理由なんて。


 それでも、どうにか立ち上がろうと、片膝立ちをして先ほどまでうつぶせだった魔物の方を確認する。


「わーお…やっぱり速いね。」


 もっと明るかったらその影で気づいたかもしれない。自分が既に詰みであることに。


目の前にあったのは毛だった。近くで見ると汚らしくゴワゴワとして、清潔感の欠片も無い。


視線を上げて見えたその表情は品性すらも感じられず、ただ開いた口から涎を垂らしている。


「これで終わりかー頑張ったけどやっぱり倒せなかったかー…」


 自分なりに工夫して戦ったとはいえ、まだ魔物と戦うには早かったようです。


 正直とっても悔しい。私には魔法があるんだし魔物が出たとしても余裕だと思っていた。


 魔法を覚えたての少女と森を闊歩していた獣の力比べは魔物の方へと軍配が上がった。


「だけど、この勝負の勝ちまでは譲らないから」


 瞬間。魔物の背後から銀色に輝く剣身が見えたかと思うと、無防備な毛皮に突き刺さった。


 余裕のあった表情は何処へやら。白目を向いたまま私の方へと魔物が倒れ掛かる。


 冒険用の服だから汚れてもいいけど涎でべとべとになるのは勘弁だからこっちに来るのはやめてほしかった。


 私は、動かなくなった魔物を地面へと捨て、剣の持ち主に質問する。


「どう?初めての冒険は満足した?」


 いい所を持って行ったお兄ちゃんが振り下ろした剣を鞘にしまいながら答える。


「ああ、これ以上ない程大満足だ。」

 


 

 


 

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